第550話 思い出作りその後アイリス編・キスとプリン。
「消音術と認識阻害術を使うから待って」と言ったミチトが術を使うと「お待たせ」と言う。
「俺から?アイリスから?」
「同時がいい。このモヤモヤを忘れさせて」
何の引っかかりもなく同時に顔を近づけて始まるキス。
相変わらず長いと言われるミチトが長いと思うキス。
それなのにアイリスは息継ぎのタイミングで「ミチトさん」「もっと」「まだモヤモヤするの」と甘い吐息を吐きながら言う。
段々とアイリスの為と言うより仮に母に会ってしまった時、あの義父とナハトと共に出会い、義父に「ようやく家族が揃った」と母が嬉しそうに言い、ナハトに「この人がナハトのお兄ちゃんなのよ」と告げてミチトに「お兄ちゃんなんだからナハトをよろしく。仲良くしてあげてね。今までの分も含めて沢山可愛がってあげてね」と言う母の姿をイメージしたモヤモヤをぶつけるようにキスが続く。
お互い過去最長と言う長さで暫く続いたキスだったが、これ以上するとミチト的に後戻りがきかなくなりそうな所でやめる。
少し物足りなそうなアイリスは「まだ少しモヤモヤするけど大分楽になった。ミチトさんありがとう」と言うと「ミチトさんはモヤモヤ取れた?」と聞いてくる。ミチト自身もモヤモヤは取り切れなかったがこの先は男女の仲にならないと取れなそうだったので「そうだね。ありがとうアイリス」と言って取れたことにしてしまった。
ミチトとアイリスはキスはやめてもまだ抱きしめ合っている。
ミチトの胸の中でアイリスが「ミチトさん、もう一つお願いきいてくれる?」と言う。ミチトは「何?変なのは聞かないよ」と返す。
「変なの?」
「男女の仲になるとかそう言うのだよ」
「残念。でもそれじゃないの」と言ったアイリスはミチトの目を見て「少しだけ私に甘えて。前にリナさんとしていたみたいに私が膝枕するからミチトさんはそこに乗って少しゆっくりして。ミチトさんも疲れたよね?私がお疲れ様ってしたいの」と言う。
「この部屋にはソファなんてないよ?」
「ふふ、シートを持ってきたの」
そう言ってアイリスが取り出したのはサミアでお弁当を食べた日のシートだった。
「流石だね」
シートにアイリスが座るとミチトは言われた通り膝枕をしてもらう。
アイリスが優しくミチトの頭を撫でながら今までの苦労を労って今日の話やこれからの話なんかをする。
ある程度時間が過ぎた所で大家が掃除道具を持って入ってきた。
認識阻害術もあってミチトとアイリスに気付かない事をいい事に2人でこっそりと王都に移動した。
何となく悪い事をした気になったミチトとアイリスは顔を見合わせて笑ってしまう。
遅い時間になったので目当てのプリン屋が営業終了している可能性を考えたが、店はやっていたしどの種類もあると言うので不思議に思ったミチトが理由を聞くと、母親が羊になっていた男性と自身が牛になっていた女性が店まで来てミチトとアイリスがまだ来ていない事を聞くと後で絶対に来るはずだから全種類を用意しておいて欲しいと頼まれたと言う。
それでもと渋る店主にもし来なかったら明日代金を支払うからと念書まで書いていく始末だったそうだ。
「当店は硬さと甘さが4段階から選べます。王都で人気のプリンが当店だと硬さと甘さが1です。数が増えるたびに甘くなって硬くなりますよ」
この説明でミチトは頼む前に実物を見せてもらえるかを聞くと硬さの見本を持ってきてくれる。
「お試し用の量が少なくて甘さも硬さに合わせてますから試食してください」と言った店主にアイリスが嬉しそうに「いいんですか!?ありがとうございます!」と言ってスプーンを差し入れる。
「2の甘さはまだ薄いけど硬さはダカンに近いかな」
「3の硬さは好みで甘さも良いかも」
「アイリス…4も試すの?」
「はい。ミチトさんも付き合ってね」
そう言われたが目の前のプリンは最早プリンには見えなかった。1のプリンがプルプル震える中で山のようにそびえたって微動だにしない。
意を決したミチトがスプーンを差し入れようとするが思った感触ではない。
「アイリス…スプーンがガツって言ってなかなか入っていかないし、ジャリジャリと砂糖の音が凄いよ」
「本当、硬くて噛むのも大変で生焼けのクッキーみたい、それにお砂糖のジャリジャリが凄い」
「クッキーと言うか土の塊みたいな硬さだね」
「あ、そうかも」
このやり取りの後でミチトは硬さ2の甘さ3を、アイリスは硬さと甘さが3のプリンを頼んだ。
「今日は散々な事になっちゃったけど楽しかった?」
「ふふ、ミチトさんといられたらつまらないなんて事にはならないもん」
そう言ってプリンを口に運ぶアイリスは「これ!これが好きな味!」と言って喜ぶ。
「そう?ありがとう」
「ミチトさん、4のプリンをお土産に持って帰ってみたいな」
イタズラに使うと思ったミチトは「誰に食べさせようか?」とアイリスに聞くとアイリスは意外そうに「えぇ、皆で食べて感想を言い合わないの?」と言った。
「そっちか、てっきりセルースさんかと思ったよ」
「意地悪な人、何でセルースさんなの?」
「それはアイリスの身体を見るなんて良くないからね」
「ありがとうミチトさん。じゃあ残ったプリンを全部貰ってセルースさんには硬さ4、甘さ1、テレアちゃんには硬さ1の甘さ3、ポスさんには硬さ2の甘さ1にしない?」
「いいね」と言ったミチトは余ったプリンを全て買い取って帰る。
請求はモブロン家にした。
突然プリンを渡されたセルースは一口食べて「何だこれ?プリンって言わねえよ…」と真っ青な顔をしていた。
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