第549話 思い出作りその後アイリス編・親の都合と身勝手とモヤモヤ。
落ち着いたところで離れようと思ったのだが少し話を聞いて欲しいと言うので離れるに離れられずに話に付き合う。
ここより北のドウコは戦禍にさらされはしなかったが北部なのでそれなりの被害が出たこと、それによって商家の家業もうまく行かなくなり金策に奔走していた時に家に人攫いが入り、娘のアイリスと幼馴染みのヒスイが連れ攫われる事件が起きたこと。
金策は追いつかず身代金を払えずに居た両親は待ってほしいと人攫いに交渉を行おうとしたが、既にヒスイの親が金が払えないと言ってしまった後で交渉どころではなくなったこと。
人攫い…デジターの兄はその後すぐに酔っ払い同士の喧嘩で殺されてしまい交渉と捜索ができなくなったこと。
アイリスの手がかりを探したがないこと。
今も時間が取れるとこうして近くの街だけだがアイリスを探しにくること。
近くに限定しているのはアイリスと入れ違いにならない為で出来るなら国内をくまなく調べたいと言うこと。
そんな事を話していた。
イブはニコニコと聞いているが空気は張り詰めていて怒りに支配されている事をミチトが理解して「大丈夫?」と術で聞くと「うん、ありがとうミチトさん」と返ってきた。
イブに任せて何かがあってからでは手遅れなのでミチトが「その後、お仕事は?」と聞く。
「アイリスの身代金だけではなくヒスイの身代金を稼いでいて、あの2人は仲良しだったから何とか2人一緒に連れ戻してあげたくて…。
仕事は金策とあの子達の返ってくる場所を守る一心で何とか続いています。
今もアイリスを取り戻す為に事業を同業者にいつでも売れるようにしています」
「イブさん。勝手にアイリスを重ねてごめんなさい。でもお願い、謝らせて」と言ったアイリスの母はイブの手を取って「アイリス、あの日すぐに助けに行けないでごめんなさい。お父さんとお母さんは今は喧嘩なんてしないでいつでもアイリスが戻れるように頑張っているわ」と謝った。もしかすると本能や直感というものでイブがアイリスだと感じているのかも知れない。
この言葉にミチトは「アイリス、どうする?」と聞く。「ミチトさん、見てて」とアイリスが返してイブの顔で「そのアイリスさんはきっとその事を知ったら幸せですね。これからもアイリスさんの為に仲良く頑張ってあげてくださいね」と言った。
男…アイリスの父はイブに跪いて「アイリス…アイリス!」と言って泣く。
一通り泣いたのを見届けた後で「イブ達はもう行きます。おじさんとおばさんもお身体に気をつけてくださいね」と言ってミチトを連れて歩き出してしまう。
アイリスの父母は「ありがとうイブさん」と言ってアイリスを見送った。
路地裏に消えたアイリスは何も言わずにダカンの部屋に転移術を使った。
「ダカン…、俺の部屋?」
驚くミチトの質問に答えずにアイリスが「ミチトさん!抱きしめて!」と俯いたまま声を張る。その直後に「嫌なモヤモヤがなくなるように抱きしめて!!」と怒鳴るように言ってミチトに抱きつく。
ミチトは優しく抱きしめて頭を撫でながら「頑張ったねアイリス」と言う。
「本当、折角のデートなのに最悪。あの人達は調子がいいの!今は夫婦仲良く金策してヒスイちゃんと私を買い戻すような事を言ってるけどお金が減ればカリカリするし私が戻ったら喧嘩が始まる!」
イブでは絶対に見せない顔と声。
「アイリス、ウチと一緒だね。良かったよアイリスに名乗ってみると聞かないで良かったよ」
「そんな事を言われたら怒ります。でもミチトさんと同じならまだ許せる。ミチトさんの話を聞かせて」
積極的なアイリスの言葉にミチトは真摯な気持ちで答える。
「ウチの母親、前にも言ったけど本当の父親は顔も知らない。母親は今の旦那さんには出て行った俺を案じて会いたいなんて言っているが本心は会いたいなんて気持ちはないし。会えばまた不協和音…俺を悪くして周りにいい顔をするバランス調整なんかが始まるんだ。だから会いたくないし、それを理解できないアクィには故郷の話をしたくなかったんだ。アクィは何も知らずに聞けば「誤解」とか「会うべき」って言うからね。まあ、フォローだけどアクィにはそう言う世界がある事は理解できないし、お母さんを小さい時に亡くしているからどうしても悪い姿が思いつかないんだよ」
「本当一緒だね。今日アクィさんが居たら名乗るように言ったし仲直りさせようとしたかも。私の家族はミチトさんと大鍋亭の皆、トウテの皆、ディヴァントの皆、それでいいよね?家族でいいよね?」
アイリスが必死に両親を否定しようとしている事をミチトは察している。
察しているからこそ「当然だよアイリス。アイリスは俺の家族だよ」と言って抱きしめる手に力を籠める。アイリスもそれに応えるように力を籠めると「嬉しい…」と言った。
そのまま暫く抱きしめ合う。ミチトはアイリスの為にも自分が同じだった時の事も考えて抱きしめていた。
「ミチトさん、まだモヤモヤが消えないの。ミチトさんは故郷を思い出してモヤモヤしない?」
「するよ。嫌だよね」
「一緒。それならわかってくれるよね?お願い、キスでモヤモヤを消して。もしミチトさんがお母さんに会ったとしたらその後のモヤモヤをイメージして、そのモヤモヤが消えるくらいにキスをして」
一瞬悩んだミチトは「わかった」と言った。アイリスとキスと言うよりもそれ以外の方法が思いつかなかった。
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