第548話 思い出作りその後アイリス編・オウフでの再会。

お昼ご飯の北部料理にアイリスは心躍って喜ぶ。

「ミチトさん!美味しい!」と言うアイリスは目が輝いていて本当に嬉しい事がよく分かる。


「良かったよ。ライブは串焼きに喜んだけどアイリスはどうかな?」

「とっても美味しい!」


串焼肉を丁寧にフォークで食べようとするアイリスに「本当に美味しいのは手で串を持って食べるからだよ」と教えると聞いていた店の人も頷き、安心した顔のアイリスが串のまま肉にかぶりついて喜んだ。


その顔が嬉しかったミチトは「良かった。じゃあこれは?」と言って衣が独特の唐揚げを渡すとアイリスは「美味しすぎる!」と言って目を潤ませていた。


こうして北部料理を堪能したアイリスに最後はアップルパイを勧めると「わぁ…プリンより好きになりそう」と驚いていた。

思った通りのリアクションに気をよくしたミチトは「美味しいよね」と言って微笑むと「アクィにお土産持って行って作ってもらえるようになろうってライブが言ってたよ」と一昨日の出来事を話す。

名案だとばかりに「はい!私もそう思います」と言うアイリス。

何となくこれからの形が見えた気がしたミチトは嬉しい気持ちになる。


「アイリスもすっかりアクィと仲良しだね」

「はい。アクィさんはお姉さんでずっと家族ですよ」

それは家族を求めるアイリス・レス…イブ・スティエットがアクィを家族と認めている証拠だった。


腹を満たして外に出る。

満腹なのですぐにプリンでは無いけど、午前中の連中に見つかる事も考えるとのんびり散歩できる感じでは無い。


ミチトが「また王都に戻ってくる感じでオウフで休もうか?」と提案をするとアイリスも「うん。そうしたい」と言う。今回はミチトが転移術でオウフに向かう。


オウフはこの前と何も変わらない。

「恋人みたいに歩かせて」そう言ったアイリスの願いに応えるように歩く。

この前とは違ってアイリスの背が伸びていてカップルに見えない事もない。


「オウフに部屋を借りてミチトさんとお忍びで来ようかな?」と言って頬を染めるアイリスが「あ、部屋と言うとダカンの家はどうするの?」とミチトの顔を見て聞く。

ミチトは「ああ、契約満了で更新をしないで終わらせる事になったよ。契約自体は後3ヶ月だからせめて大家さんに家賃を貰ってもらいたいんだ」と説明をした。


大家はミチトの提案、家賃は払うけどもう別の人を住まわせて構わないと言ったのだが首を横に振って断ったとスードが教えてくれた。

ミチトが直接お礼を言いに行くのは最終日にする事にした。ミチトは大家に延長を勧められたらハイと返事をしてしまいそうだったからスードに頼んでいた。

大家はミチトに「部屋は掃除しておくからいつでも使いにくるといい」と伝えて欲しいとスードに頼んでいた。


その話を聞いたアイリスは目を細めて愛おしそうに「ふふ、優しい人。私の大好きな人はとても優しい」と噛み締めるように呟く。

その直後に「……そしてとても怖い。さっきは何が嫌で何が許せなかったの?」と聞いてきた。その顔は19歳の少女ではなく1人の女性としてだった。

ミチトは素直に無関係の人間が行う私刑と言うものが嫌だった事と家を覗く子供達が許せなかった事を伝えると自嘲気味に「だから俺は優しくないよ」と言った。

アイリスは「嘘つき。嫌なことがあってモヤモヤしてるのに私に優しくしてくれる」と言ってミチトを掴む腕に力を込めた。



「アイリス!!」

突然アイリスの名を呼ぶ声が聞こえてきた時、アイリスは瞬時にイブの顔になる。

ミチトもそれに合わせて「腕はこのままでイブになるんだ」と伝える。


知らぬふりをして歩くと息を切らせた男と女が駆け寄ってきて再度アイリスの名を呼ぶ。


今はイブになっているアイリスを見れば一目瞭然で、まさかの両親はオウフに居た。


「はい?何ですか?アイリスって誰ですか?」

見事としか言いようのないイブの演技。


「え…あ…アイリス?人違いか…」

そう言ってガッカリとした顔で肩を落とす男とその後ろで「ごめんなさい。あなたみたいな髪色の女の子を探していたの」と言う女。


ミチトも自然体で「迷子ですか?」と聞くと「…行方不明なんです。もう6年になります」と女が言う。


男は必死の顔で「その髪色、アイリスと一緒…お嬢さん、名前を教えてくれないかい?」とイブに聞く。


「イブの名前はイブ・スティエットです」

努めて明るいイブの声。


「本当かい?私達に怒って偽名を使っているんじゃないのかい?」

イブの名を聞いても諦めない男。


このやり取りを見ていられないと思ったミチトは助け舟のように「その行方不明の子はおいくつなんですか?」と聞くと「9つで行方不明になったから今は15歳です」と女が答えるとイブが「イブはこの前19歳になりました」と言って突き放し、男女は愕然とした。


気を取り直したように振舞う女が「そう、そうよね。15歳のあの子はまだ子供でこんなに綺麗じゃないわね。ごめんなさい。あなたを見てるとこの人ではないけど娘を…アイリスを思い出す」のと言って女が泣き出してしまい困ったミチトは道端のベンチで男女…アイリスの両親を落ち着かせる。

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