第547話 思い出作りその後アイリス編・ミチトの嫌いなもの。
「うぅ…ミチトさん、この前のプリン達の方が当たりだったみたい」
「本当だね。一昨日ライブと食べた北部料理でも思ったけど王都の人と味の好みが違う感じがするよ」
北部料理と聞いたアイリスが興味深そうに「北部料理?」と聞くとミチトは優しい笑顔で「うん。お昼は決めてある?無ければ行こうか?」とアイリスを誘う。
「いいの?ミチトさん連続に…」
「平気だよ。アイリスにも食べさせてあげたいからさ」
この気遣いが嬉しかったアイリスは「じゃあ公園の話が終わったらお昼にしましょう」と言った。
ミチトとアイリスが公園に行くと昨日頼み込んできた夫婦も居た。
目が合うと夫婦は深々と頭を下げる。その横には無理矢理立たされている女性が居た。
そしてパッと見ると先程の男性が居ない。
さっき居た人に聞くと「帰った」と言っていたがそんな訳はない。
「イブ、さっきの男の人を探して」
この言葉と言い方にアイリスはアイリスではなくイブとして「了解です!」と言って探すと物陰で大怪我をして蹲っていた。
何故こんな事になったかを聞けばミチトを狙った報いを受けさせたと言う事だった。
怒ったミチトはさっさと男の人を治すと「ものすごく不愉快です。さっさと治しますから1人ずつ前に出てください。そして俺に金輪際関わらないでください」と言う。
本来なら治す時に動物だった時の記憶を消しておこうと思っていたミチトだったが訳の分からない私刑を行う輩の家族にかける情けは持っていないので改竄術のみを解除して回る。
最後に昨日の夫婦が連れていた娘を治すと「少し残ってもらえますか?」と言う。
夫婦と娘は何も言わずに頷くと解散になり傷だらけだった男性も引き止めて少し話をする。
「貴方のお母さんは?」
「ウチにいる。羊になって生活をしていて足を怪我して歩けないんだ。それなのにアンタは次はディヴァントに来いって言ったから…」
だから殺しに来た。
正しい正しくないではなく腹の虫が収まらなかったのだろう。
呆れたミチトは「キチンと理由を言えばいいんですよ」と言うが王都でのミチトの噂を聞くと悪魔のような人間、戦闘力だけで王都の重鎮や貴族たちを従えていると言うもので誰も頼めたものではない。
「行きますよ。あ、貴方達もついてきてください」
3人は何のことか分からずに困惑するとイブが「大丈夫です。あの顔をしているマスターは良いことしかしません」と言って笑う。
イブの笑顔を信じて全員がミチトの後をついて行く。
道すがら事の発端について確認をした。
「カスケードがディヴァント家だけを狙わずにディヴァント領に呪いの毒を撒いた事は知っていますか?」
この質問に娘と男は横に首を振る。
「じゃあ呪いを解いた俺を目の敵にしてバロッテスが城で襲いかかってきた事やアクィ・サルバンに毒を飲ませた事も知らないですよね。今回の牧場はその仕返しです。カスケード・キャスパーがディヴァント領、俺はキャスパー邸にしました。
あ、だから受け入れろではありません。ただ憎まれるのも恨まれるのも事態を知ってもらいたいからです」
この話に全員が何も言えない間に男性の家に着く。
近所の子供達がヒソヒソと窓から家の中を見て何かを言って笑っている。
ミチトが不思議がる前に男が「羊女が珍しいってガキどもが笑いにきてるんだ」と忌々しそうに言う。
確かに家の中からは「めぇ〜」と言う鳴き声が聞こえてきている。
「んー、子供達は見てるとイラつくな」
かつて自身が村で嫌な思いをして、1人で大掃除なんかを言い渡された時に窓の外から眺めてニヤニヤと笑ってからかってくる連中を彷彿させて苛立ったミチトは子供達に改竄術を使う。
ビクっと震えた途端に子供達は回れ右をして帰って行く。
「マスター?何したんですか?」
「良い子にしただけさ。人の家を覗くなんて良くないよね?後は周りの人達にやめなさいって言われた事をすぐにやめられるようにしたよ」
このやり取りに男性は目を丸くしてミチトを見る。
「何で…」
「別に、さっきのあなたを私刑に処した連中も今の子供達も好かないだけですよ」
ミチトは夫婦と娘も連れて男性の家に入ると羊女になっていた母をさっさと治してから一つ質問をする。
「あの、王都で評判のプリン屋さんのプリンが柔らかくて薄甘いからウチのイブの好みでは無いんですよ。どこかおすすめのお店って知りません?」
この質問の意味が理解できなかった男が「は?」と言って娘は「プリン?」と聞き返す。
「はい。プリンです」と言うミチトに娘が「じゃあ、選べるプリン屋さんなんてどうですか?硬さと甘さを選べるんです。ただ不人気のプリンは品切れになりやすいから行っても無いかも知れませんけど…」と言うとイブが「それがいいです!」と言った。
ミチトは店の場所を教えてもらった後でお礼と言って2人に忘却術をかける。
そして男性と夫婦だけを呼んで「プリンのお礼だと思ってください。2人からは牛や羊だった頃の記憶は消しました。思い出しても辛いだけですから」と言う。
「え?じゃあ残りの人達は…」
「別に私刑をする人達の事なんて知りませんよ。勝手にすれば良いんです。約束通り牧場からは戻しましたし文句は無いはずです」
そう言ったミチトは「あ!忘れてた」と言って羊になっていた女性の足を治す。
歩けるようになった母を見た男は「足…」と驚く。
「別にサービスですよ。ただプリンが嘘だったりおいしくなかったら仕返しに来ますよ」と言うだけ言って帰るミチトにイブが「やっぱりイブのマスターは凄いですねー」と言って笑った。
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