第545話 思い出作りその後アクィ編・温泉とご飯とその後。
温泉にアクィとのんびり浸かる。
「ふふ、ちゃんと時間の使い方が出来てて偉いわ」
そう言ったアクィは前回同様ミチトの膝の上に向かい合わせで座っている。
アクィは温泉の中で甘え倒していて、腕が痛いと言ってヒールを使わせて更に「このお湯もディヴァントの青い光の奇跡みたいにお湯に効果を持たせてよ」と言って風呂自体にヒールを流させたりしている。
今はミチトの肩に頬を乗せながら「さっきは痛かった、でもキチンと相手してくれて嬉しかった。それなのに骨も折れてないし怪我もしてないからやっぱりミチトは凄いわね」と言うとミチトは「まあアクィを殴る時はヒールインパクト使ったからね」と返してアクィの肩にお湯をかける。
この後もアクィは腕が痛いからヒールだの疲れたから身体をさすれと言ったりしてくる。
流石に身体をさすれに関してはミチトがオヤジミチト化して「俺たち裸」と言うのだがアクィは「いいから、やってよ」と言って引かない。
諦めたミチトが言われた通りにさすっているとアクィが何回もキスをしてくる。
「アクィ、やめなよ」
「何で?昨日ライブともキスしたくせに」
ここでライブの名前が出てくると思わなかったミチトは「…本当に話してんの?」とアクィに聞く。
アクィはその質問には答えずに「ライブから聞いたの?」と逆に質問をする。
「聞いたよ」と答えるミチトに「金色もティナさんも言っていたでしょ?」と言って自身のキスを正当化する。
何となく色々なモノがバカらしく感じたミチトは「ったく、…後悔するなよ?」と言ってアクィの頭に手を回して抱きしめながら本気のキスをする。
それも一度ではなく何度もする。
最初は何とか頑張って抱きしめ返してキスに応えたアクィだったが次第に手足をピンと張って最後には力無く肩で息をした。
自分の肩に頭を乗せてぐったりとしているアクィに「ほら、懲りたろ?」と聞くと「…はぁっはぁっ…はぁっはぁっ…」と言ったアクィは「凄い。全身が痺れる…。もう一回」とねだってきて「マジか」と言ったミチトはもう一度のキスをするとようやくアクィは満足したのか大人しくなった。
大人しくなったアクィがようやく満足したので王都に向かう。
夕飯は格式高い個室のレストランを予約されていて店の前でミチトは渋い表情になって帰りたそうにする。
嫌がる空気を察したアクィは「ほら、マナー講習よ。ローサ様から教わる前に私から教わりなさい」と言う。ローサの名前を出されたミチトは致し方ない気持ちで「苦手だ」と言いながら歩を進める。
店に入るとアクィから「ここはエスコートをして」「ここは黙って待つ」等の指示を受けてようやく座ると料理が出てくる。そのコース料理をアクィに言われるがままに食べ進めるミチトだったが途中からマナー講習から逃げ出すように「揚げ焼きって悪くないね、今度大鍋亭でもやろう」と言い出す。
アクィは呆れるように「…そう言う楽しみ方?」と聞くとミチトは「メロも食べたら喜ぶだろ?」とメロの名前を出す。
まだメロにはこういうマナーが必要な店は早いが料理は食べさせてあげたい。
きっと食べたメロは「ママ!すごく美味しいね!」と喜ぶだろう。それを作るのがミチトならなおの事喜ぶ。
その姿を思い浮かべて「そうね」と答えた。
食事が終わると王都は夜の闇に沈んでいた。
だが街灯が夜の闇を感じさせず浪漫すら醸し出している。
「ほら、最後に少しだけ歩いたら帰るわよ」
「歩くの?」
「散歩よ散歩」
そう言って腕を組んで前に進むアクィに合わせて暫く歩く。
普段以上にアクィが密着してくるが気にしない。
やはり夜でもミチトとアクィは目立つのでヒソヒソ声が広がる。
暫く歩くとカスケードが王都で持っていた邸宅の側までくる。
かつては明るい生活の明かりが感じられた邸宅だったが今は真っ暗で人気がなかった。
カスケードに関しては新たにバースしたダンジョン[サクリファイスリベンジ]に飲まれて生死不明となっている。
その事もあってキャスパー家、カスケードの息子のハイドナウト・キャスパーはアンチ派の末席に戻る形でアプラクサスに便宜をはかって貰っていた。
「カスケードの家は無人か…」
「まあ仕事もなければ王都に家を持つ意味はないわよ。アプラクサス様のご厚情でアンチ派に戻れたけど今度は表向きはアンチ派だけどキャスパー派になっていた貴族達からの突き上げや意地悪に晒されるわね」
一瞬申し訳ない気にもなったがカスケードにされた事を思うとある程度は仕方ない気持ちになる。
ここでミチト達の前に1組の老夫婦が駆け寄ってくる。
敵襲を疑ったミチトは臨戦態勢を取るが物乞いでも敵襲でもなくキャスパー家の使用人をしていた子供を許して助けてほしいと言う事だった。
話を聞いたミチトは「ああ、アクィが襲われて頭来た時の…」と随分前の話のように言う。
「お願いします!娘を許してください!!」
「うちの娘は妙齢で結婚も控えていましたが牛にされて四つん這いで芝生を歩き、草を食んでゲップを繰り返していて…。これにより結婚もなくなりました。もう許してください!
雇い主のカスケード様も行方不明という事で暇も出されました…」
ようするにドン底にいて守ってくれていたカスケードも居ないから許してほしいと言っている。
聞いていていたたまれない気持ちになるミチトとアクィ。
アクィがミチトの機嫌を確かめるように「…ミチト?」と聞くとミチトはひと息ついて「仕方ない…」と言った。
ミチトはアクィが毒を盛られたからこうなった事等を説明してカスケードに正義がなかった事、これはある種の抗争でカスケードがディヴァント領に毒を撒いていた事なんかも伝える。
「それは何遍も噂で聞きました。その噂により近所からも後ろ指をさされました」
そう言って母親の方が力尽きたように跪くと泣き始める。
「アクィ、君は許せるの?まだ苦しめたい?」
「私はミチトが治してくれたし、カスケード・キャスパーも行方不明ならもういいわよ」
「わかった」と言ったミチトは「明日の昼前に王都に来るからそれまでに娘さん以外の人で王都に来られる人を国営公園に集めてください。この一度のみで後は西のディヴァントまで来ないと治しません」と伝えると両親は泣いて感謝を告げて帰って行った。
「残念、明日はイブなのよね。イブに後で見せてもらおうっと」
「別に見るほどのものではないだろ?」
呆れるミチトにアクィは「嫌よ。ミチトの活躍は全部見たいの」と言って不満を露わにした。
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