第540話 思い出作りその後ライブ編・再びのお婆ちゃん。

確かに配膳されたケーキ達や紅茶は味がしっかりとしていた。

「お茶は何回でもご用意いたしますので気兼ねなくお楽しみください」

そう言ってメイドが部屋を出ていくとピアノとヴァイオリンの音色の中で無言の時間が流れる。


ライブはお茶も飲まずにミチトにもたれかかると甘えた声で「マスター」と名前を呼んでくる。


「ライブ、なにやってんの?」

「ここってこうして2人きりになれる喫茶店なんだよ。だから心行くまでイチャイチャ出来るんだよ。マスターはお腹いっぱいだよね?私だけを見てよ」


この言葉に愕然としたミチトに「お願い、2個残ってるんだからね」とライブが甘える悪の令嬢顔で言うと膝に座ってきて「抱きしめさせて」と言った。


「服がしわになるよ」

「それでも良いの」


そう言うと始まるイチャイチャの時間。

だがミチトからするとイチャイチャと言うより猫が懐いてくる風にしか見えない。


ミチトはライブの機嫌が悪くならないように頭を撫でたり抱きしめたりをする。

言い換えれば、それ以上をさせないように努力をする。


暫くイチャイチャしていたがライブが「キスは?」と言ってキレた。


ミチトは「え?」としらばっくれてみたが「逃げてるのわかってるよ!」と怒られる。


「ええぇぇぇ?やめようよ」と言うミチトだったが即座に「やだよ!マスターはアクィともキスしてるよね?」と言われてしまう。


ここでアクィの名前が出てくると思っていなかったミチトは「え?アクィ?」と聞き返す。


「聞いたから知ってるよ!アクィは寝てるマスターにキスするとマスターが寝ぼけながらキスを返してくれるって言ってたもん!」

それは先日の一緒に眠った日の話で何もしないで眠ったミチトに立腹したアクィが爆発しないようにキスをしてきたタイミングで寝ぼけたフリをしてキスを返した時の話だった。


愕然としながら「…なにその繋がり…」と言ったミチトはライブに「ライブとアクィってそんなに仲良しだっけ?」と聞く。


「アクィとはトウテが出来てからよく話すよ。アクィって私がなんでイライラしたりするかわかってキチンとお姉ちゃんしてくれるんだよ。だからアクィはキチンと教えてくれるよ」

この言葉でライブとアクィが仲良くなったことは嬉しいがキスなんかの情報が共有されるようになった事に「マジかぁ…」と言ってしまう。


「ほら、だから逃げられないよ」

この言葉で色々と諦めたミチトはライブにキスをするとようやく満足して許された。

ミチトが融通が利かないのはここで簡単なキスで済ませればいいのに馬鹿正直にライブを膝に座らせてしっかりと時間をかけてこれでもかとキスをするところにある。


ライブは顔を真っ赤にして嬉しそうに「わぁ!夢だったんだよ。マスターとデートしてキスして貰うのが夢だったんだ!ありがとう」と言う。

これで終わるかと思ったのは考えが甘く、何時間も個室に2人きりでいる羽目になった。

ライブは足がしびれるまで膝の上に居て向き合う形で抱き着いたりしてきていた。



「ライブ、そろそろ帰る?」

「なんで?このままずっと2人でいようよ」


ここは想定内だったので「ローサさんにお礼を言いにいったり指輪を見せないでいいの?」と聞くと困った表情になって「う…、そうだよね。じゃあ行こうか」と言って店を出る。



ライブはローサの元に挨拶に行く。

ローサは1人で化粧もして着飾ったライブを見て嬉しさを隠さずに笑顔で「とても綺麗よライブさん」と言うと照れながら赤くなったライブが「うん。お化粧はローサさんに貰ったお化粧道具で洋服はイイダーロに買ってもらった奴だよ」と報告をする。


「ええ、お化粧道具はまた買い直しましょうね。ライブさんの美しさにお化粧道具が負けてしまってるわ。お洋服はイイダーロ君もいい趣味してるわ。心はまだ16歳のライブさんに合わせた感じにしつつも、ちゃんと20歳の大人っぽさも出ててよく似合ってる」


「そうかな?後これ、今回の指輪」

そう言って出てきた指輪を見てローサは「あら4つにしたの?」と驚きを口にする。


「ううん。本当は3つで今指につけてる銀のやつが欲しかったんだけど、金しか無くてガッカリしていたらマスターが作ってくれたの」

この言葉に金色の指輪とライブの指の指輪を見たローサが「本当にミチトさんは器用貧乏ね」と言った後で少し恥ずかし気に「ライブさん、今回も期待していいかしら?」と言う。


「うん」と言ったライブがローサに抱きついて「今日も楽しかったよお婆ちゃん。いつもありがとう。やっとトウテに来られたからこれからは一緒にいれるね」と言った。


抱きしめられたローサは声を潤ませながら「ええ、ずっと一緒よライブさん」と言ってライブを抱きしめる。


「ライブさん、今度は私と王都に行きましょう。沢山の事を教えてあげる」

「うん。知らないことがあるとモヤモヤするから嬉しいよ」


ローサとライブは抱きしめ合う手に力がこもる。

少しの間の後でローサが「貴族達にもお披露目するわ」と言い出しライブが「え?」と言う。


ローサはライブが逃げ出さないようにしながら「ディヴァントの魔女が後継者を見つけたって大騒ぎさせましょうね」と嬉しそうに言う。


ライブは「え?魔女?」と聞き捨てならない単語に反応すると照れたローサが「ふふふ、昔の古いあだ名よ」と言って笑う。


ライブは気を取り直して「私、貴族とか偉くなるのやだよ」と断るのだが「色々知れるし困っている人を助けたり悪い奴を倒したり出来るのよ?」と言われてライブは何も言い返せずに「…ええぇぇぇ」とだけ言うとローサを断り切れずに「…マスターがダメって言ったらやめてもいい?」と聞く。

ローサは嬉しそうに「ええ、でも行ってみてそれから決めてね」と行く事だけは約束させていた。



そして後日談。

とある用事で王都に行った際、アプラクサスに声をかけられる。

「ミチト君、先日ライブさんと地下喫茶に行かれたんですね」

思わぬところから聞かれたミチトは焦った表情で「え?アプラクサスさん?」と言う。


「あの店はアンチ派の貴族が経営しているんです。そこにリミール派のカラーガ嬢の書状だけでも大ごとなのに、更にドデモ家にモブロン家の書状まで持ち出した緑色の髪色をした令嬢と冒険者の話と聞いてミチト君だとすぐにわかりましたよ」


ミチトは更に焦った表情で「あの…、その…」と言うとアプラクサスは貴い者の表情で「聞き及んでますよ。積極的だったのは緑の髪色のライブさんでミチト君は乗り気では無かったんですよね」と言ってくれる。


正直アプラクサスは普段からミチトに関わると青くなったり白くなったり土気色になる事もあるが何よりこの日々を楽しんでいて、この件で何かがしたいという気持ちはもう無くなっていた。


バツが悪い表情で「あ…はい」と言うミチトに「平気です。私はシック達には言いませんよ。ただアンチ派の店でリミール派の書状を見せたので私まで連絡が来た次第です」と言うと、怪訝な表情のミチトが「…あそこ、イシホさんの紹介らしいんですけど…」と言う。


アプラクサスは少し笑うと「ハメられましたね」と言う。

この絵を描いたのはライブとイシホなのだろう。

公に地下喫茶にミチトとライブが行ったと知らしめようとした2人の少女の目論見に気付いたミチトは「…ライブ…やってくれるなぁ」と漏らす。


アプラクサスは貴い者の表情で「まあ、それだけ非日常が欲しかったのですよ。その想いに応えるのも貴い者の務めですよ」と言った。普段のアプラクサス相手なら「俺は貴くないですよ」くらい言えるミチトだったが、この表情の前では「…はい」と素直に返事をした。

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