第539話 思い出作りその後ライブ編・地下喫茶。

ライブは昼食の店をイシホに相談したのだろう、ミチトとライブの好みを伝えてお勧めを聞いてた。その店はかつてアプラクサスがミチトを招待した北部料理の店だった。


店が近づくたびにミチトはもしかしてと思っていてライブの足が店の前で止まった時に「あ…」と言ってしまう。それを察したライブが「マスター?」と聞くとミチトは申し訳なさそうに「前に来た事あるんだ」と言った。

ライブは少しガッカリした表情で「え?誰と?」と聞く。


「アプラクサスさんの招待だよ。それに多分ライブの好みの味じゃ無いよ。北部料理でも変にかしこまってるんだよ」

この言葉にガッカリとするライブは「ええぇぇぇ、楽しみに来たんだよ?」と言う。


申し訳なさそうにミチトが「予約は?」と聞くと肩を落としたライブが「しちゃったよ」と言った。


「メニューは?」

「マスターと選びたかったから決めてないよ」


「じゃあ吟味して選ぼう」

「あ!恋人同士みたい!そうしよう」


そう言って中に入るとミチトの心配は杞憂に終わる。

様子見で頼んだ串焼肉をひと口食べると以前と味が違っていて、その事に驚いたミチトが店員に確認をする。

話を聞くと何のことはなくアプラクサスの好み、王都の人間の好みに合わせていただけで、この店が出す料理はキチンとした北部料理だったのでライブは思ったより満足そうだった。


「マスター、煮込みシチューの中にカリカリのパンが入ってる奴美味しいね!」

「良かったよ。ライブはこっちの串焼きも好みだと思うよ?」


「わっ!凄い美味しい!何で?」

「香辛料もあるけど肉をキチンと漬け込んであるんだよ」


「マスター!美味しいね!」

「本当だね」


ライブはかなり食べてしまっていてちょっと食べすぎたなという顔をしているがミチトはもう一品だけライブに食べて貰いたいメニューがあった。


「ライブ、デザートは食べられる?」

「…うん。少しなら」


「じゃあアップルパイを食べてごらん」

この言葉でライブがアップルパイを食べると美味しさに震えて涙目になる。


「何でこんなに美味しいの?」

「北部のリンゴだと思うよ」

北部のアップルパイは王都やローサの所で食べる物よりも甘さが控えめで酸味が強い。

それは北部産のりんごだからかもしれないと思って説明をする。


「でもごめんね。俺はアップルパイは作れないからさ」と謝るミチトにライブが「アクィなら作れるかな?」と聞く。

確かにあの料理の腕は無くてもお菓子作りが得意なアクィなら可能性はある。


「あ、これをお土産で持ち帰って味を覚えて貰えば作れるかもね」

アップルパイを土産に買って支払いは折角なのでモバテ達の書状を使った。


「ご馳走様でした」

「私もご馳走様でした」


2人で外に出て顔を見合わせながらご馳走様と言う。

ライブはこれだけで幸せな顔になる。


「この後は?」

「お酒飲んでみたい!」


一瞬でオヤジミチトが現れて「ダメ」と言うとライブは「ええぇぇぇ?お願いは?」と言うがそれでもオヤジミチトは「ダメ」と言った。



どうあっても飲酒がダメだと言われて口を尖らせたライブが「じゃあイシホ達に聞いたイチャイチャできる喫茶店に行く」と言い出す。


「何それ?」と言うミチトを連れてライブは地下にある喫茶店に行く。

格式は高いイメージで、やはり来るものを選ぶような建物の出入り口にいる2人のガードマンがミチトとライブをジロリとみてくる。


ぞくに言う値踏みと言うもので店にそぐわない客はここで追い返される。

ミチトはガードマンが断る事を期待している横でライブが涼しい顔で先にカラーガからの書状を出して「ふんっ」と言う顔をする。


カラーガの書状に顔色を変えたガードマンが悩んだ顔でミチトを見るとライブは続け様にモブロン、ドデモの書状を見せて「この書状、私のではなくてこの人宛のモノだから、たてつくなら次の書状みる?まだまだあるよ?ちなみにここで止めないと後悔するから」と悪の令嬢顔で言う。

目を白黒させたガードマンが深々と頭を下げて「ようこそおいでくださいました」と言って店内に案内をする。

奇異の目でミチトを見る店長らしき男にガードマンがカラーガ達の書状の事を話したのだろう。顔色を変えて飛んでくるとヘコヘコと「ようこそおいでくださいました」と挨拶をする。


この店は客の懐事情に合わせて座る場所が決まって居るのだろう。

ミチトとライブはそのまま奥へ奥へと通されていく。


奥に進む足音からお大尽が来たとばかりに個室の中からは感嘆の声が漏れ聞こえてくる。

個室は足元と上は空いているが座っていれば足しか見えないようになっている。


最奥の部屋に通されたミチトとライブ。

部屋はそんなに広くなく密着前提といった広さだが調度品なんかは豪華なものが置かれている。

そして1番いい部屋だからか適度にピアノやヴァイオリンの音色が聴こえてくる。


ミチトはメニューを渡されると目を丸くした。

アフタヌーンティーセットで1人100ゴールドと書かれている。

こんな価格設定の店を知ってしまうとかつてヨシがアクィと昼食を食べに行く時に「これは活動費です。100ゴールドで足りますか?」と言った意味が理解できた。

そして理解と同時にバカげていると思ってしまった。


ライブが「マスター、私のメニューには値段がないんだよ、そっちには値段がある?」と聞いてくる。

ようするにそう言う店で、一昔前のイイヒートのような男が女性に良い格好をする為の店。


ミチトは支払いは書状の何処にするかをライブと決めてイシホの紹介という事でカラーガにした。

正直、こんな店に来てしまった事がローサの耳に入っても何を言われるかわからないしアプラクサス達に知られて変に勘ぐられても面白くない。


ミチトはイシホに勧めた以上責任は取ってもらうと開き直った。

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