第536話 思い出作りその後メロ編・アルコールと赤ん坊。

貸切にする必要は無かったのにその分の代金も請求すると言って店長が急遽貸切の札を軒先にかけに行く。

その間に「飲み物です!」と言ってウエイトレスが持ってきたのはこの前のカクテルでミチトはメロの前での飲酒を忌避していたので困った。


メロは珍しい色の飲み物を見てアクィに「ママ?これ何ジュース?」と聞く。アクィは優しい笑顔で「お酒よ」と言うとみるみる表情を曇らせたメロが「え?ママとパパ、お酒飲むの?」と聞いてきた。


このやり取りにウエイトレスが心配そうにアクィとメロを見る。

その視線は感じているがアクィは何もないように「ええ、これも貴い務めなのよ?この前教えたわよね?」と言うとハッとなったメロは「うん」と返事をした。


「大丈夫、ママもパパもお酒で暴れるような人間ではないわ」

その言葉にメロは「うん、それなら平気」と言う。

見ていられないミチトは「アクィ…」と言うがアクィは「平気よ」と言うとウエイトレスに「あの、これのアルコール抜きってお願いできますか?」と聞くとウエイトレスは少し助かったという顔で「はい!お嬢様にですね?」と言う。


それを聞いたミチトが「あ、じゃあもう少し甘めに出来ますか?無理ならシロップを足してもらうとか」と言うと「はい。お酒を抜く代わりに桃を増やしますから甘くなります!」と言ってウエイトレスが厨房に駆けて行きすぐに戻ってくる。


こうして出てきたメロの飲み物はミチト達のカクテルよりも濃い色だが同じに見える物が出てくる。

これにメロが喜ぶとアクィが「メロ、お姉さんにありがとうを言って」と言う。


メロが嬉しそうに「お姉さんありがとう!」と言いウエイトレスが「いえ」と言った後でアクィを見て「でもこんなに大きなお嬢様がいらした…、あ!失礼しました」と慌てる。

ただでさえ貴族相手に粗相を働けばどんな目に遭うかもわからないのに今日は書状まで持っている。命取りになりかねないと慌てるウエイトレスにアクィが「いえ、あの時は居なかったんです」と言い合わせるようにミチトが「でもその後で俺達の所に来てくれました」と言った。


「そうだったんですね。お幸せに!」と言ってウエイトレスが立ち去って乾杯をする。

飲んだカクテルにメロが「わぁ!美味しいしパパとママとお揃い!!」と言って喜ぶ。


「アクィ、メロに何を教えたの?」

「キチンと相手の望む事、もてなしを受け取るのも貴い者の務めって教えたのよ。彼女はお店自慢のカクテルを振る舞いたかったの、だから飲めるなら受け取るのが務めなのよ」


「だけどメロはアルコールを嫌がるだろ?」

「それは私達が毅然と振る舞えればいいのよ。喧嘩もなく仲良くする姿が見られるとわかればメロの認識も変わるわよ」


ウエイトレスは会話の切れ目をキチンと見定めたのだろう。

会話の切れ目にご馳走がテーブルに溢れてメロが歓声をあげる。


「メロ、どれから食べたい?」

「ママは?」


「じゃあ、この揚げ物から食べましょう。暖かい方が美味しいわよね」

「じゃあ俺も同じ者を食べるよ」


こうして始まる食事。

アクィの言葉通り、ミチトとアクィは悪酔もしなければ何も変わらずに普段通りの2人でメロの事もいつも以上に大切に扱った。


「お酒飲んでもパパとママなら嫌じゃないよ!」

この言葉にウエイトレスがほっと胸を撫で下ろした。


そして支払いの時にウエイトレスはアクィがカードゲームのように伏せた書状から一枚を選ぶとドデモ家の物だった。

ウエイトレスはホッとした顔で「良かった!」と言う。


この言葉にアクィが不思議そうに「良かった?」と聞く。

「はい、イイヒートさんから前にお食事に誘われてご一緒したことがあるのでドデモ家ならまだ抵抗なくて」


この言葉にイイヒートの顔を想像したミチトが「あ、じゃあドデモ家にしましょう。ただ発行者はイイーヨさんとイイダーロさんなので今度食べにくるように言いますよ」と言ってアクィが「とても気さくでイイヒートなんか比較にならないほどの貴い者だから安心してくださいね」と言う。


この言葉に女性も思うところがあったのだろう。

「ふふふ。はい」と笑って見送ってくれた。


「時間ギリギリまで公園で過ごしましょう?」

アクィの要望でミチトとメロは公園に行く。


「サミアやディヴァントの湖じゃないからこれしか出来ないけど」と言ったミチトがメロに軽身術をかけて高い高いをすると建物の二階分の高さまで飛び上がる。


「わぁ!高い!凄い!」

声を上げて喜ぶメロ。

それを見て羨ましがる子供達にメロもアクィも鼻高々な気持ちになる。


メロが「パパ!ママも飛ばして!」と言うのでミチトがメロを見て「アクィ、着地出来る?」と聞く。


「んー、ちょっと不安」と言うアクィに「じゃあ危なそうなら手を出すよ。それっ!」と言って軽身術をかけて飛ばすミチト。


「わぁっ!高い!」

アクィがメロのような喜びようで器用に飛ぶがやはり大人で飛ぶイメージの足りないアクィの方が危ない。


「アクィ!」

慌てて飛んだミチトがアクィを抱きかかえて着地をするとアクィが「危なかった?」と聞く。


「結構、足捻りそうだったよ」

「ありがとう。気付かなかったわ」


ミチトはアクィとベンチで休むとメロは軽身術の残る身体でピョンピョンと飛び跳ねて遊んでいる。


アクィが嬉しそうな顔で「ねぇ、言ってもいい?」とミチトに話しかける。

ミチトは「メロの事?」と聞くとアクィが「なんだわかってるのね。あの日の再現をしようとしたのに」と言った。


「あの日はありがとう。本当に助かったよ。アクィとでなかったらここまでうまく行かなかったよ」

ミチトは素直にあのディヴァント湖での事を思い出してアクィに感謝を告げる。


「もう、でも実はショックだったのよ?」

「ショック?」


「メロを一度は帰そうとして頑として譲らなかった事よ」

「うん。ワガママを言うのは苦手なんだよ。筋は通したかったんだ」


アクィは困ったような愛おしそうな顔で「知っているわ」と言う。

ここでメロが「何話してるの?」と駆け寄ってくる。


「ふふ、パパと2人でメロが私たちの子になってくれて良かったって話したのよ」

この言葉に嬉しそうなメロが「本当パパ!?」と言ってミチトに飛びつく。


「ああ、本当さ。オーバーフローの時もメロに助けてもらったしね。それ以外でもメロが居てくれて良かったよ」


「えへへ、嬉しいよパパ。でもパパ?ママは?」

「うん。アクィがメロのママになってくれて良かったよ。感謝してるよ。アクィもメロのママになりたいって言ってくれたから今があるんだよ」


このやり取りが嬉しかったアクィは「ミチト…、メロ…」と言って感動している所にミチトがトドメを刺すように 「ありがとうアクィ。ありがとうメロ」と言った。


「パパ!また3人で王都に来ようね!後はお母さんとお姉ちゃん達とも来ようね!」

「そうだね」


この会話の最中に「決めた!」と言って立ち上がって「やっぱりメロにも弟か妹が必要よ!」とアクィが言い出す。


ミチトが「アクィ?」と聞くとアクィは「いつか絶対に4人で王都に来てパンケーキを食べるわ!」と握りこぶしで宣言をする。


この言葉に喜ぶのはメロで「ママ?ママの所にもパパとの赤ちゃん来てくれる?」と聞くとアクィは「ええ!勿論よ!」と力強く言う。


メロは本当に嬉しいのだろう。「やった!」と言って軽身術の残る身体でピョンピョンと飛び跳ねる。


愕然としたミチトは「嘘だろ…俺はうんって言ってない…」と言っているとメロが「パパ!メロが赤ちゃんのお世話頑張っていいお姉ちゃんになるからね!」と言ってきて何も言えなくなる。


アクィはメロを抱きしめて「ありがとうメロ!」と言って「ミチト聞いたわね!」と言う。

ミチトだけは困り顔で「…アクィ…、そろそろ怒るよ?」と言った。

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