第532話 ロキシーの使い道。
仕事を片付けて玄関ホールに降りてきたシックが「いやはや、休暇はゆっくり休めたかい?」と聞くとミチトは「はい。ようやくゆっくり出来ました」と返す。
「だがミチト君はこの先も忙しいと聞いたよ?」
この言葉の意味が分からずに「は?」と返すミチト。
「家族サービスだよ。イブさんが言っていたよ?メロさんとライブさんとサルバン嬢とイブさん、そしてリナさんを王都でもてなすんだろ?」
そう言われて皆それぞれと約束をしていた事を思い出して「…あ…」と言う。
「いつ頃にするんだい?その日がわかれば御礼をさせて貰うよ」
「御礼ですか?でも俺何かしましたっけ?」
お礼と言われても何のお礼かわからないミチトは不思議そうにシックを見るとシックは「ははははは、昨日早速城でキャスパー派に私とアプラクサスは毒を盛られてね。この腕輪で助かったんだよ」とおおらかに笑う。
お守り程度のつもりで渡した排毒術とヒールを付与した腕輪が早速役になった事にドン引きのミチトは「…マジですか」とシックを見る。
そのシックと言えば明るいものでニコニコと笑っている。
「いやぁ、医者が羨ましがっていたよ。あ、キャスパー派がどうなったか聞くかい?」
「どうせ抜き取った毒を入れて尋問したんじゃないんですか?」
「おお、当たりだよ。なんでもカスケードが消えてしまったから何とかキャスパー家が取り潰しにならない為に私とアプラクサスを狙ったらしいよ」
「ああ…そう言う事ですか」
この会話の後で「なので遠慮はいらないから言ってくれよ」と言うのでミチトは礼を言う。
「いつ来るんだい?」
「んー、10日くらい先で用事があったからその頃に来ます。まあ泊まりはしません。朝来て夜帰りますね」
「折角だから泊まればいいのに」
「嫌ですよ。今はトウテに慣れたいし、まだ諦めの悪い残党がいるかもしれませんしね」
「ふむ、了解だよ。イブさん、ライブさん、また来てくれよ」
「はい。ありがとうございます!」
「うん、またね」
こうしてミチト達はトウテに戻って10日を過ごす。それは全員が待ち望んでいたもので、トウテの皆には急な休みの可能性もあるけどそれで良ければと伝えて大鍋亭を始める。
大鍋亭に新たに参加したアクィだが料理の才能はとても残念で「レイピアならこんな事にならないのに!」と包丁を握ったまま目の前で悲惨な姿になった魚に文句を言うし、ハンバーグを焼かせれば外は焦がすし中は生焼けだった。
……それなのにスカロから菓子作りだけは仕込まれていて、りんごは綺麗に剥いて焼きりんごを作り、焼き加減もばっちりで店売りも可能なマドレーヌをいとも簡単に作ってしまう始末でリナは目の前に置かれた物を見ながら「…なんで?」と言うとミチトも「本当、おかしいですよね」と言ってマドレーヌを食べるととても美味しく出来ている。
メロたちはマドレーヌと焼きりんごを食べてニコニコとしている。
「メロはお母さんとママがいて良かったよ〜」
「アクィさん!マドレーヌがとても美味しいです!」
「うん、美味しいね」
メロは料理上手のリナとお菓子作りの上手なアクィが居てくれて喜ぶと確かにという顔でイブとライブも喜ぶ。
ここまで喜ばれると思わなかったアクィは「ふふふ、照れるわね。スカロ兄様から菓子くらい作れる淑女にって仕込まれたのよ」と言ってマドレーヌを食べて「うん、トウテの材料でも美味しく出来て良かった」と言った。
これにより大鍋亭には日によってはスイーツセットも生まれる事になった。
「あれ?」
ミチトがふと疑問を口にする。
「どうしたのミチト?」
「ヤァホィさんがオーバーフローの時に余ったロキシーの使い道考えたって言っていたけど何をするんですかね?」
「ああ、エクシィ達に言わせると、ロキシーって安物の鉄をとにかく集めて貨幣にしただけだから鉄に戻すんですって。それで何か作るって言っていたわよ」
「へぇ…なんですかね?」
そんな事を言えば翌日にはエクシィに工房まで呼ばれる。しかもトウテではなくダイモの工房で久しぶりのルナスケとエクシィ、ヤァホィとライドゥがニヤニヤとしている。
正直呼ばれた理由のわからないミチトは「どうしたんですか?隕鉄溶かすとかですか?」と聞くとルナスケが「ちっげーよ、器用貧乏」と言って呆れる。
「ミチト君、オーバーフローの時に僕が余ったロキシーの使い道の話をしたの覚えてる?」
「はい。昨日ふと思い出してリナさんと話したんですよ」
「丁度だな」
「虫の知らせだね」
「うむ。流石は器用貧乏」
説明が省けて良かったとばかりに喜ぶ3人の老人たちに「は?」と言ってしまうとミチトの横に居たルナスケが「ったく、師匠に頼まれてずっと頑張ったわけよ」と言う。
ミチトが「ルナスケさん?」と言うと「これを見やがれ器用貧乏!」と言ったルナスケが工房の端に置いてあった布を外すと中から鉄でできた像が出てくる。
「え?嘘…」
「へっへっへ、ミチトの像だぜ!」
「いやぁ、ラージポット皆の総意でミチト君の像を作って孤児院の前に置こうって決まってね」
「内緒にする為にトウテではなくダイモで作ったのだ」
「器用貧乏なら重さとか関係無いんだろ?さっさと運んでくれよ」
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