第38話 ノンダメージ。
「嬉しいです。これで俺は戦えます。後は兄貴の剣…」
ミチトがショートソードに手を伸ばす。
「ミチト、お兄さん居るの?昨日は…」
「いえ、昨日話した母の再婚相手の親戚に何度か会わせて貰って、その人が可愛がってくれて安物の剣より兄貴のお古の方がいい剣だからって譲ってくれました」
見た感じ綺麗なショートソードを手に取ったミチトが持ち上げると違和感に気付いて「ん?」と言う。
スードは慌てて「すまん!」と謝ると即座に「ああ、折られたんですね?平気ですよ」とミチトが言う。
ミチトは鞘から剣を抜くと刃は途中で折れていて、残った刃も錆び付いていた。
そして折れた刃の残りも鞘の中から錆び付いた状態で出てきた。
年代物の骨とう品でもこうはならない酷い状態だ。
まるで海底に沈んだ難破船から引き揚げた剣のようになっていた。
「ああ、塩水かな?きっとこれもマンテローですね?本当に良くやる。平気ですよスードさん」
そう言ってミチトは笑いかけながらまたポツリと「もし会ったら貴族とか無視して殺そう」と呟く。
それが聞こえないスードは「だが!刀身がそんなではその剣はもう!」と必死だ。
「大丈夫ですよ。余程刀身に見えない傷を付けられていて戦闘中に折れる方が問題です。まあ俺は器用貧乏なのをアイツは知っているから、戦闘中に折れるより先にボロボロにした方がダメージがあると思ったのでしょう。
それに刀身は俺の自作ですからまた作りますよ」
「は?」
「え?」
「ミチト?」
ロキを始めスードもリナも目を丸くしてミチトを見る。
今ミチトは何を言った?
聞き返す意味もあってミチトを見た。
「え?2ヶ月間工房でお世話になったってリナさんには話ましたよね?あの時に親方の許可を貰って見様見真似で剣を打ったんですよ」
シレっと言うミチト。
スードが開いた口が塞がらないと言う顔で「ミチト?」と言う。
「どうしましたスードさん?」
「お前、何言ってるかわかってるのか?」
「え?自作の刃が折られて塩水でダメにされていました。俺の自作の刃なのでスードさんは気にしないでください。あんまり上手く作れなかったし余り物の素材で作ったから出来も悪かったんで気にしていたんです。まあ柄と鞘は兄貴のお下がりなので戻って良かったですよ」
ミチトが鞘と柄を見てシミジミと言う。
「俺、学とか無いから細工とか生きる事に関係ない部分てなんか上手くならないんですよ。
だからどうしても柄は満足のいくものが作れないから兄貴のお下がりを使いました。
余談ですけど兄貴って買うものは上等なものを買っているから良い物なんですけど、メンテナンスがあんまりなんです。まあだからくれたんだと思いますけど、剣も貰った時から小さな刃こぼれが多くて気にしていて親方に見せたら「直すと高いから自分で一から打ってみるか?」って言ってくれたんです」
ここまで聞いてようやくスードが「え?…じゃあダメージは?」と聞けた。
「ありません。まあ盗んだのがアイツだと思うとこのまま剣を持つと魂が汚れそうなのが困りますけど良く洗いますよ」
ミチトが笑いながら話す。
今まで黙っていたロキが「じゃあミチト君。こうしましょう」と口を開く。
ミチトは「ロキさん?」と言いながらロキの顔を見る。
ロキの提案はこれからもダンジョンブレイクに向けて気づいた点やミチトに頼らねばならない部分でお願いはするから手伝ってくれれば剣の修復に工房でかかった費用はロキが払うと言う事と狼と熊を兵団に貸し出して巡回を手伝えば家賃と狼達の食費は免除になる事を提案された。
「後は何かあるかな?」とロキが必要なものは言ってくれと言うつもりで話したのだがミチトが「それ、この前の翻訳費用の1,000ロキシーの他にですか?」と凄い顔で聞く。
「当然ですよ。能力を持った人間は正しく評価されるべきです」とロキが言う。「え?俺はただの器用貧乏で…」そんなんじゃないとミチトが反論をしようとすると「ミチト、さっきも言ったけどロキ様ありがとうで良いんだよ!」とリナが呆れながら言う。
スードも合わせるように「本当だぜ?後は何ができるんだよ?」と聞いてくる。
「え?何も出来ませんよ?」
ロキもスードもリナも誰も信じない。
きっと「俺、器用貧乏なんですよ」と言ってやらかす気がすると思っていた。
「…まあいいでしょう。明日からはここに来て写本の翻訳と、ダンジョンアタックの為に工房で剣の打ち直し、それと警備の為に兵達と狼達の巡回かな?」
「後は大鍋亭の仕事もあります。今日だってお店を開けないとレタスがダメになります」
ミチトがロキに言う。
それを聞いていたリナが「ミチト?本気?」と心配そうに顔を見る。ミチトは「リナさんだって仕事しないと生活困りますよね?」とごく当たり前に聞く。
「お前、オーバーワーク…」
「全然ですよスードさん。とりあえずお腹減りました。朝ごはんの約束…」
「あ!しまった!」
スードが慌てて時計を見るとまだ8時過ぎなので食事は何とかなる。
だがギリギリなのでロキが「それでは今日はここまでですね」と言って話を終わらせた。
「裏の家の手続きと改築が済むまでは狼達はここに住まわせて、終わり次第引っ越させる事でいいですね?ミチト君、門番に話は通しておくから明日からはここにも来てくださいね」
「はい」
こう言ってロキの部屋を3人は後にして食堂に急いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます