第39話 エクシィの工房。

食堂では糸目のネズナと不精髭のシルゲが3人を待っていた。

「隊長、お腹空きました」

「え?お前達待ってたの?」


「ミチト!久しぶり!道具とか役に立てなくてごめんな」

「いえ、糸目さんこそ怪我は平気ですか?」


そんな会話で始まった朝食は時間が限られていたが楽しいひと時だった。

ネズナもシルゲもミチトの規格外さに驚きながらラージポットで上手くやれていたことに安心してくれた。


朝食の後、ミチトはリナに「大鍋亭の仕込みとかどうしましょう?」と相談をする。

リナは「その前に今日は巡回の前準備で狼君達を散歩しちゃダメ?そのついでに仕入れとかしてさ、スードは今日は来れる?」と聞く。スード隊は半自由時間でミチトの世話をするように言われていたと言うのでそのまま5人で門まで行って狼と熊の前に行く。


「お待たせ。君達と俺達のこれからが決まったんだけど言っていいかな?」

ミチトの声に合わせて狼達はちょこんと座って尻尾を嬉しそうに振っている。


「俺が色んな仕事をしている間、君達はここの兵士の人と警備をして欲しいんだけど頼んでもいい?」と聞くと3匹とも嫌な顔をせずに嬉しそうに喉を鳴らす。


「ここの人達が俺と君達が住める家を用意してくれるって言っていたからそれまではここで皆の言う事を聞いて欲しいんだ。出来るよね?俺も当分はここに通うからさ。とりあえず巡回の仕事の練習がしたいから着いてきてよ」

そう言って5人と3匹で街に出る。


人々は突然の狼と熊に驚くが狼たちは余程訓練をされているのかミチトを信用しているのか怯えも警戒も興奮もなく本当に散歩をしているようにミチトの後を着いてくる。

リナが自慢気に狼の首に手を当てながら一緒に歩いて知り合いにどうしたのかと聞かれると「新しく警備をしてくれる熊君と狼君なんだよ」と紹介をする。

「人に慣れているから優しいんだよ。悪い奴にだけキチンと対応してくれる子なんだ」と自慢をするとリナの自慢が珍しかった住民は驚きながら「躾が良かったんだね。動物使いが居るの?」と聞いてくる。

リナはミチトに手を当てると「彼が少しだけ出来るからやってくれたんです」と言って紹介をする。

「あれ?その子、大鍋亭の新人さんじゃない?」

「え?料理上手な子は動物使いだったのか?」


皆がミチトを見て驚く。

「まあ、そんな訳で今日から徐々に街に慣らしてあげていくから優しく見守ってあげて挨拶してあげてね」とリナが纏めて終わらせる。

リナは狼たちに挨拶してと頼んだつもりだったのだが皆勘違いをしてミチトに「またね」と言って去って行った。


「リナさん?」

「あはは、なんだか間違えられちゃったね」


そのまま街をぐるっと回る。

食品の問屋では今日のお勧めはキャベツと豚肉と言われたので明日のメニューにするから夕方持って来てもらう事にする。


危険が多い街の西側も兵士のスード達と狼たちが居るので皆大人しい。

だが街のただならぬ空気で狼たちは苛立っていてミチトが「先に手を出してはだめなんだよ。悪い人たちを見かけた時は兵士さん達に教えるんだ。出来るね?」と説明をする。


そして北側。

すでにロキの手が回っていて、工房のエクシィがミチトに声をかける。


「よう、お前も人が悪いな。剣を打てるなら教えろよ」

「いや、俺のは見様見真似の素人仕事ですよ。プロに言うほどじゃないです」


「んで?今その剣ってあんのか?」

「これです」


ミチトが剣を見せると「お、シャゼットの作品じゃないか!」とエクシィが喜ぶ。

ミチトは「有名なんですか?」と聞く。


「ああ、西の方では有名な剣だよ。この剣の作者は刃は消耗品って考え方で刃を交換するんだよ。ってお前、知らないで刃だけ自作して取り換えていたのか?」

「はい、すみません。そういう教養とか学とか無いんですよ」


ミチトが照れ笑いをしていると工房の端に置かれた黒い塊に気が付く。

それは大きなトカゲで中型犬くらいの大きさがある。


「あれ?あれって鉄トカゲですか?」

「おう、このダンジョンは地下9階前後で鉄トカゲが出てくるんだよ。冒険者チームが10匹程狩ったからって売りに来てな。しかもレアな黒鉄トカゲだぜ?珍しいだろ?」


「触ってもいいですか?」とミチトが聞くとエクシィは「構わねぇよ。でもタチが悪いんだよな黒鉄トカゲは鉄の鱗が硬すぎて簡単に解体できないからどうしても街まで輸送してもらってここにはない超高熱の炉に入れて溶かして使うしか無いし、肉も骨も混ぜて溶かした鉄には不純物が混じるから折角の黒鉄が台無しになるんだよ」とボヤく。


「勿体ないですね。触った感じ、俺の剣に使っている鉄より良いものですよね」

そう言われて思い出したようにエクシィは鞘から剣を出すとあまりの品質に絶句する。


エクシィが怒るんじゃないかと思ったスードが慌ててエクシィに事情を話す。

「かーっ、嫌がらせでも普通そこまでしねぇのにな。余程の変人に付きまとわれたんだな。だとすると今度はそれだけの目に遭ってもここまで剣を保てるって言うのがな…」

不思議そうに剣を見つめるエクシィにミチトが「あの…」と声をかける。


「どした?見終わったなら端に詰んでくれ」

「いえ、そうじゃなくてコイツっていつ倒されたんですか?」


「んあ?今朝だって言ってたぞ?」

「ちょっと1匹貰ってもいいですか?」


「はぁ?」

「試してみたいんです」


ミチトがそう言うと1匹の黒鉄トカゲを持って工房の外に出る。

リナたちは何事かとついて行く。

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