第35話 変わったミチト。

「ミチト君が来ていたのですね。おはよう」

「おはようございます」

ロキは18日前と変わらぬ笑顔でミチトを見る。


「ラージポットには慣れましたか?」

「はい。大鍋亭では良くしてもらっています」


「そうですか。リナ…は後で話しましょう」

狼に抱きついて「こんなに可愛いのに離れたくないよね!」と言いながらお腹を撫で回しているリナを見て何も言えなくなるロキ。

その後ろに見覚えのない男が現れる。

ロキの服装が黄色と黒でこの男は色違い、グレーと白を基調色にしている。


男はミチトを見るのだが生まれつきなのかよく思っていないのか目つきが厳しい。

まるで雪豹みたいだ。

ミチトは故郷で出る雪豹を思い出す。

ネコ科のような目つきだった。


「ああ、ミチト君、後ろにいるのは弟のヨシですよ」

そう言われて「あ」と言ったミチトはキチンと立ち上がってヨシを見て「はじめましてミチト・スティエットです」と挨拶をした。

ヨシは「ヨシ・ディヴァントです。色々と聞き及んで居ます。活躍には期待します」とだけ言うと「ロキ様、それでは仕事に行きます」と言って去っていく。


「真面目な弟です」と言って笑うロキはそのまま「昨日、帰還したスードと彼達について話しました。どうです?彼達は帰りそうですか?」と狼達を指差して質問をする。

ミチトは困った顔で熊と狼を見て「難しいです。キチンとした動物使いは出来るのかもしれませんが俺にはできません」と言う。

その言葉が聞こえている熊が嬉しそうに喉を鳴らす。


「この後話す事ですが来月末までひと月半でやって欲しいことが出来ました。そしてそれに協力をお願いしたい」

…この前もそうだが権力者のお願いしたいには強制力が働く。

これはやれと言う事だ。


「お話はここで出来ますか?」

「上に行きましょうか?スードとリナも同席させます。ミチト君は彼らに大人しく待つように言ってください」


ミチトは「わかりました」と言うと狼達の前に行く。

「ちょっと行ってくるからここで待っててね。

ここには悪い人は居ないはずだから無闇に襲っちゃダメだよ?

万一暴力を振るわれた時は仕返しの前に俺を呼んでくれよな?上の階に居るから聞こえるはずだからね」

狼達は嬉しそうに喉を鳴らして頭をミチトの方に向ける。

「はいはい」と言ってミチトはキチンと頭を撫でる。


それを見ていたリナが「あれ?私も使役されてるのかな?」と昨晩頭を撫でられたのを思い出して考えていた。



「スード、リナ、同席してください」

そう言ってロキは部屋に戻る。

ミチト達はその後を追う。


「リナ、服が毛まみれだぞ?」

「あれま、これじゃあお店に立てないや。帰ったら着替えるかね」


そんな会話が後ろからする中、ロキとスード達の間を歩くミチトは困った事になったと思っていた。

正直ミチトは変わってしまった自覚があった。

恐ろしいのはリナとは男女の仲にならなかったのに一晩中話を聞いて泣いてくれたリナの為に最短でダンジョンブレイクを果たしてサミアに居るマテを診て上げたかった。

それなのにひと月半も何かを頼まれてしまうなんて思っていなかった。



ロキの部屋に着くと前回のように着席をする。

今回はミチトが真ん中でスードとリナが左右に座った所でロキが口を開いた。


「ミチト君、スードと話したのですが、あの狼と熊を我々に貸していただけませんか?」

突然、想定外の申し出をされたミチトは「は?」と言う。


「ラージポットの警備に充てたいのです。

街部分の警備は兵士達に任せていますが今ひとつ振るわない結果です。

酔って暴れる者などに注意を行っても聞き入れられない事もある。

それも冒険者達の方が兵達よりも実力者が多い事に起因します」


確かに言われて気付いたが、冒険者達が反旗を翻せば兵士達はあっという間に殺される。

そして魔物を外に出さないための壁は途端に外からの侵入を防ぐ防壁に変わる。

そうならないのはこの国とラージポットの法が最低限、それなりに機能しているからだ。


「だからなミチト。アイツらはお前の言う事しか聞かないしラージポットに住まわせて、住む所や餌代の生活費に関しては俺たち兵団に協力する事でロキ様に支払って貰うって事にしようと思ったんだ」

ロキだけではなくスードが考えを告げる。


「厳しい言い方ですがダンジョンはそんなに甘くない。

熊や狼では第一階層に出る化け鶏くらいなら問題なく倒せても第二、第三と潜っていけば無駄死にになりますよね?」

今度はスードの言葉に合わせてロキが言う。


確かにそうだ。

そしてこの先がどうなるかわからないまま狼と熊を養う余裕はない。

ロキとスードの提案は間違っていないし選択肢は限られる。

だが二つ返事で承服は出来ない。


「逆を返せばそこで生きる冒険者に熊や狼では太刀打ちできませんよ?」

動物を守る為にはミチトは容赦が無くなる。

厳しい目をロキに向ける。


「確かに、しかしダンジョンに本気でアタックを仕掛ける冒険者達は実のところごく一部で、残りは先人が切り開いた道をなぞって魔物の素材を拾って来て換金しているに過ぎません。しかもそう言う者達が中途半端に問題を起こします」

大体問題を起こす奴は数種類に分類できる。

決まりを守る気が無い者、暇をもてあましている者、そんな細かい事に構っていられない者。

この場合、決まりを守る気が無い者と暇をもてあましている者が問題を起こすのだろう。


「はぁぁぁ…。どの道断れません。どうするんですか?」

諦めたミチトはため息をつきながらロキに聞く。


ロキは質問に答えず、ミチトから視線を外してリナを見る。

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