ダンジョンアタック前。(第34話~第47話)

第34話 修羅場と仲間。

時計を見ると朝の6時になっていた。

普段は8時に起きるのだがここで寝ると起きられなくなると思ったミチトはグダグダとしたい気持ちを抑えて起きようとする。

リナは結局ミチトに抱きつきながらうたた寝に近い感じで眠りの境界線を行ったり来たりしていたのだがミチトが動いたので境界線のこちら側にくると「今何時?」と聞く。

「6時過ぎです。8時まで寝ますか?起こしますよ?」

「えぇ〜、ミチトは起きるの?」


「はい。起きれなくなると困るから折角なので少し体を動かします」

「寝てようよ」


「ダメです」

そう言ったところで階段を駆け上がる音がした。


敵襲?賊?まさかオーバーフロー?

ミチトは寝ぼけた頭を目覚めさせると着の身着のままで臨戦態勢にスイッチを入れる。


「リナさん!何が来た!危ないから布団に居て。俺が迎え撃つ」

そう言ってリナの部屋の扉を開けた時、玄関の扉が開いた。

昨晩ミチトはリナが風呂に入っている間に施錠の確認はしていた。

その扉を開けると言う事は盗賊か解錠の知識がある何者かになる。

「ちっ!手練れか?素手だけでいけるか?リナさんを巻き込まないためにも魔術を併用するか!?」

そう言った時、「おーい!朝だ!俺が来たぞ!ミチトー!」と言う声がした。

この声に聞き覚えはある。



「スードさん!?」

「おう!ってアレ?なんでお前リナの部屋から出てきてんだ?」


これは俗に言う修羅場という奴か?


ミチトの中に恐ろしい考えが浮かび脂汗がダラダラと顔を流れる。


「えぇ?スード?アンタどしたの?」

眠そうなリナが頭を掻きながらミチトの後ろから現れる。


眠そうなリナ。

リナの寝室から出てきたミチト。

もう疑われたら否定のしようもない状況だ。


「お前達…」

「あ?ああ、何もないよ。振られちゃったよ。これは仲良く親睦を深めただけ。私はミチトが居てくれないとダメになっちゃったのさ」


「そうか、何もなかったか。

良かった…。

と言うか、滅茶苦茶馴染んでるな…」

スードは想像以上に馴染んでいるミチトを見て驚く。


「ところで何?いつ戻ったの?」

リナは寝ぼけていても設定は忘れない。

昨日、リナとスードは会っていない事になっている。


「昨日だ。ああ!そうだ!ミチト、一大事なんだ来てくれ!あとはロキ様に相談したらリナも来てくれって言ってた。朝食は兵舎で出すから身支度を整えたら門まで来てくれ!」

スードは言いたいだけ言うと走り去っていく。


スードは走りながら「リナとミチトが?嘘だろ?」と呟いて首を振っていた。



身支度を終えたミチトがリナと門を目指す。

リナの距離感は昨日よりも近く感じる。

ご近所様が疑惑の目を向ける中リナは平然と「おはようございます」と挨拶をする。


そして門を潜ったミチトはとんでもないものを目にした。



「え?君達!?何でいるの!?」

ミチトは前に飛び出す。

スードの馬車の周りには、先日動物使いから支配権を奪って使役した狼が2匹と熊がいた。

馬も含めて4匹の動物達はミチトを見ると嬉しそうに喉を鳴らしてミチトが近寄ると身体を擦り付けてくる。


「一昨日だよ。山道で出てきてついて来たんだよ。言葉は通じないから必死に「この前のミチトの仲間か?仲間だよな?変なことすんなよ!」って言って、コイツらも大人しくついてくるから追い返す事も出来なくてこれだよ」

スードがお手上げのポーズで説明をする。


「ええぇぇぇ、君達ここは人が沢山でストレスになるって言っておいたのに。それに魔物も出るんだよ?危ないから山に帰りなよ」

ミチトが話しかけている間はキチンと顔を見ていたのに「山に帰りなよ」の部分で聞こえないフリをしてうつ伏せでまるまる狼と熊。


スードも呆れ顔で「てな訳だ」と言う。

ミチトは「ええぇぇぇ」と言ってスードと狼たちを交互に見る。


「帰って来てすぐにロキ様に相談したんだがミチトはどう思う?」

「どうって…」何を言っているんだろうか、何といえば正解なのかと案じていると「おやおやおや、可愛いじゃないかい」と言ってリナが狼に近寄る。最初は警戒されたものの、昨晩のやり取りでミチトの匂いが身体からしたからだろうか、狼たちはすぐに懐いてくる。


その姿を見たスードが「あ…嫌な予感」と呟いた。

何も知らないミチトは「スードさん?」と声をかける。


「俺とリナは同郷なんだけどよ、昔似た光景を見た気がな…」

スードはミチトがリナから何も聞いていないと思っていて説明をする。


「似た光景?」と言いながらミチトは目の前のリナを見る。

リナは笑顔でワシワシと狼を撫でながら「うぅ〜、可愛いね!」と言っている。

美人が笑顔で動物と仲良くしている姿は微笑ましい。

その時にスードが「野良犬拾って連れ帰ろうとしたんだよ」と言う。

「え…」と言ったミチトに畳み込めるように「リナには病弱な妹が居て、動物の毛は妹のために良くないからって我慢させられてな…」と言う。ここまで聞けば大体分かる。


ミチトが「あ、もういいです」と言ったときリナがこちらを見ると「スード!この子ウチで飼いたい!」と言い出した。


「ほら出たよ」

「リナさん?その子、犬じゃなくて狼ですよ」

大型犬並の身体、確かに懐けば可愛いが野生に居れば人も家畜も襲う狼だ。

それをおいそれと飼うと言うのはいかがなものか?


「変わんないわよ」と言うリナにスードが「大鍋亭は食べ物屋だろ?動物飼えないだろうよ…」と言うとハッとなったリナが泣きそうな顔でスードとミチトを交互に見る。


「ミチトお願い!何とかして!」

「…ええぇぇぇ」


「おやおや、何の騒ぎですか?」

そう言って降りて来たのはロキだった。

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