第33話 ミチトの夜明け。
「リナさん?なんで泣くの?」
「悲しいからだよ、ミチトが泣かないから泣いてんだよ!泣いていいんだよ?」
リナがミチトの服を引っ張って気持ちをぶつける。
「泣くか…、泣くと喜ぶ親戚と怒る親戚が居て困ったよ」
何を言っても酷い過去が出てくる。
リナは蟻地獄のようなミチトの過去をどうにかしたいと思った。
自身が癒しになるのならその身を差し出してもいいと思えたがミチトはその女性の癒しすら拒否をする。
「それも聞きたいよ。ダメ?」
「嫌な話なのに聞いてくれるの?優しいねリナさんは。いいの?」
「うん」
「周りの大人達の意見をまとめると俺は…」
そう言ってミチトが話したのは、
礼儀正しく
村の教えを1人で守り抜け
他人の秘密は尊重しろ
お前に秘密は許さない
暴力禁止
暴力を受けても甘んじろ
村長の孫として全責任を負え
だが村は皆の物だからお前が仕切るな
周りより優れるな
周りより劣るな
と言う無茶苦茶な…矛盾をした物だった。
「…なんだってさ。泣けば喜ぶ親戚と村長の孫が泣くなと怒る親戚。
暴力を甘んじて受けろと言う親戚、暴力を行うな。でも相手に屈服するなと言う親戚。
皆が皆好き勝手言ってきたよ。
そうしてスティエット村は俺と言う逆らえない立場の忌子を敵として用意する事でうまく回る感じになっていた。
そして祖母も9つの時に死にました。
これで完全に後ろ盾の無くなった俺は好き勝手に「協力」の2文字で俺を使い潰す村中をたらい回しされるようになったんです。
リナさん、俺だけ平等は不平等なんですよ」
「え?」
リナはもうずっと号泣していてミチトの服はかなり濡れていた。
そして新たに出てきた意味不明な単語に困惑をしてしまう。
「大掃除をする時は「ミチトもウチの家族と同じなんだから手伝ってね」「俺達は家族を差別しない。平等だぞ」と言って割り振る時に大変で不人気な仕事が割り振られたりするんだ。
「お兄ちゃんなんだから」と大変な掃除が待っている事もザラだったよ。
でも食事の時、子供のお祝いでケーキを焼いた時は端から順に取り分けていたのに俺の番に大きなケーキだった時に一つ飛ばされて小さくてロクな果物も乗っていない部分を渡されたんだ。
あの人は「私は子供達もミチトも同じ家族で平等よ」と言っていて、「ああ、俺の平等はあまりカスやいらないものの時だけ平等でそれ以外では不平等なんだ」って知ったよ。
その後も世界を見ていて痛感したよ。俺が釣った大きな魚はその家の息子の口に入って、息子が釣った小さい魚が俺の皿に盛られていたり、シチューを取り分ける時、俺は野菜ばかりで子供たちは肉が沢山なんだ」
ミチトは遠い目で天井を見ながらあふれ出てくる記憶を口から出していた。
突然リナが「バカ!」と言う声でハッとなったミチトが「え?ごめんね、嫌な話だよね?」と謝る。
「違うよ!そんな奴らを世界の基準にしちゃダメだよ!」
「リナさん…」
「他にされて嫌だった事は?もうない?どうやって村を出たの?」
「俺は1人で生きていけるようになったら村長の孫なんて言われても村を捨てるつもりだったんだ。
そうしたらさ、10の時に母が男と村に戻ったんだ。
俺は顔もよく知らないけど皆がその女性が俺の母だと言っていたから一緒に暮らしたよ。
確かに家の事を知っていたから母だったんだよね。
話を聞くと都会での暮らしが辛くて戻ってきたんだってさ。
それで暮らしたよ。
最初はまだ可愛がられた気もするけど、外仕事をすれば親戚達からは親の悪口を日々聞かされて「お前もそう思うだろ?」って同意を求められたし、家では親から親戚達やスティエット村の悪口を聞かされ続けて「そう思うわよね?」って同意を求められた。最初は悪い部分に気がついている親がこの状況を何とかしてくれるかもなんてバカみたいな事を考えていたけどすぐにそんな事は無いって気付かされたよ。あの人は俺が何を話しても聞いていないで自分の話ばかりなんだ。
そんな日々を嫌になっていたら、思ったより懐かないと言われて疎まれたよ。
それに母は都会に染まっていて自分を村の皆より上にしていたんだ。
その後は13くらいになった頃からそれとなく家を出て行けと言われ始めてさ、それで14を少し過ぎた所で母が妊娠をした。だから赤ん坊が生まれる前に俺は家を出たんだ。
そして街に向かう山道で困っていたお師匠様と知り合って一年間は修行をさせてくれて、師匠が病気で亡くなって、牧場で一年働いて、後はリナさんに話した通り剣術道場からのR to Rで今はここですよ」
ミチトは「おしまい」と言ってリナを見る。
「ミチト…。話してくれてありがとう」
「ううん。聞いてくれてありがとう。結局俺ばかり話を聞いてもらっちゃったよ」
「そんな事ないよ。私の話なんてマテの事しかないもん」
「ううん。家族のためにラージポットに来たリナさんを俺は尊敬するよ。俺は生まれてくるきょうだい…赤ん坊を見捨てて逃げたからさ」
「見捨ててない!逃げてないよ!尊敬なら私だってミチトを尊敬するよ!それだけの事があったら人間嫌いにだってなるよ!それなのにミチトは今ここにいるんだよ!尊敬するよ!」
リナは必死になって言う。
始まりはロキやスードの話があったからだが今は違っていた。
「私は自分にある女でミチトを癒せるのなら光栄だけどミチトはそれを望まないならこれからもこうして居るよ」
「リナさん…」
「ミチトは幸せになるんだ。このラージポットで幸せになるんだよ!」
リナが必死になってミチトに言い聞かせるように何回も幸せになると言う。
驚いた顔のミチトが嬉しそうに「ここ、ダンジョンですよ?」と返す。
「故郷よりもダカンよりもマシでしょ?」
「まあ、それは…」
「ならここで幸せになるの!まだ当分は不幸の尾ひれが付き纏うけど少ししたらマシになるから頑張る!返事!」
「なんかすごい説得力です」
ミチトが目を丸くしていた。
今まで出会った女性の中ではトップクラスの勢いと圧を持っている女性だと思った。
呆けているとリナが再度「返事!」と言う。
ミチトがリナの顔を見て「はい」と言うとリナも満足そうにミチトにくっ付いて目を瞑る。
そして「よろしい。じゃあ寝ましょう?」と言ったのだが窓の隙間からは朝日が見えていた。
「リナさん、もう朝だよ」
「あらら。長くなっちゃったね。でもこれで夜明けと同時にミチトの夜も明けるよ!」
リナがドヤ顔でミチトに言うとミチトは嬉しさから笑ってしまう。
「上手い事を言ったぞって顔ですね」
「そうだよ。とりあえずもう少しくっ付いていてあげるから人肌で温まりなさい」
「はい」
ミチトは確かに夜明けとともに少し心が晴れた気がしていた。
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