第30話 リナの心変わり。
リナが帰宅をすると玄関でミチトは待っていた。
まさかのことで驚いたリナは「あら?どうしたの?」とミチトに聞く。
「遅かったので心配になりました。お風呂沸かしますよ」
ミチトが嬉しそうに立ち上がって風呂に向かったのだがリナはその後ろ姿がどうしても見ていられなかった。
スードの報告、裏付けるように滅茶苦茶にされた荷物達。
「お風呂?あれ?ミチトはお風呂に入ってないの?」
「ええ、もしリナさんに何かあったら駆け付けられるように臨戦態勢のまま待っていたんですよ」
そう言いながら浴室に行ってお湯を用意するミチト。
ラージポットは治水もしっかりしているし水も壁からキチンと配管が伸びていて家にも水が届いている。
さらに言えばミチトが水の魔術で水を出すこともできる。
「もう、嬉しいけど年上を甘やかすんじゃないわよ。ミチトこそ年上の私に甘えなさい」
気付いたらリナはミチトに抱き付いていた。
「リナさん!?」
「あれ?なんか気づいたら抱き付いてたよ。
私はこの日々がさ…楽しくて辞めたくないって思えてさ。ミチトは?」
「俺は…ダンジョンブレイクをしないと」
「真面目だなぁ。それを抜きにしたらどう?」
「すごく居心地が良いですよ。リナさんは優しいし、俺をキチンと大鍋亭の一員にしてくれるし。本当、もっと早くにダンジョンブレイクの事もなくこうして会えていたら楽しかったと思いますよ」
「ありがとう。嬉しいよ」
リナが心のままに感謝を口にするとミチトが「え?」と言って驚いた声を出す。
「どうしたの?」
「リナさんがありがとうって言ってくれたから…」
感謝は自分には無縁だと思っているのか…。
必要にされたいけれど使い潰されたくない。
ミチトにそれは難しい話だ。
叩いたら叩いただけ潰れずに伸びる才能。
稀有で規格外。
だが…、
だからこそ必要なのはこの言葉だ。
「ミチトはミチトが思うよりもステキな人間なんだよ。私はミチトと会えてよかったよ。だからありがとうって言ったの」
「……俺もです。リナさんに会えてよかった。ありがとうございます。スードさんに感謝ですね」
「そうだね。ねえ、ミチトは私と男女の仲になる?10近く年上のおばさんは嫌かな?」
リナは自然と言葉が口から出ていた。
スードやロキの依頼からはここまでする必要はない。
リナ自身、気軽に男と男女の仲になるような女ではない。
自然と出てくる気持ちで言っている。
「リナさんにはスードさんが居るじゃないですか」
ミチトはリナとスードは知り合い以上の仲だと思っているしスードの名前を出す事でリナを牽制した。
それに気づかないリナではない。
「そうだね。でも何もないままもう12年さ。
ミチトはまだ女は怖い?」
ミチトは躊躇なく「はい」と答える。
周りにダメ出しをされてようやく出来た恋愛で痛い目に遭う。
恋愛をしていたのはミチトだけで相手の女性は何も思っていないのかも知れない。
これ以上は踏み込めなかったリナは「そっか。じゃあ男女の仲にはなれないね。代わりに少し話そうか?」と言う。
ここでの少しは一杯飲みに行こうと同じで誘い文句なだけで一杯では済まないように少しの話ではない。
ミチトはそれを理解しているから「朝になっちゃいますよ?」と答える。
甘えるような声でリナが「嫌?」と聞く。
「俺は平気ですよ。ここに来て毎晩キチンと眠れる暮らしなので一晩くらい寝なくても平気です」
毎晩キチンと眠れる。
命を狙われる心配が無い日々。
言葉の意味がよりわかるとなんて悲しい話なのだろう。
「じゃあお風呂入るからそうしたらダラダラと話そうよ。私の話を聞いてくれないかな?」
「良いですよ。いつも俺ばかり聞いてもらって居たから聞かせてください」
「え?アレは私がミチトを知りたかったんだよ。それを聞いて貰っているって思っていたのかい?」
リナは振り返ってミチトを見て笑うと「一緒に入る?」と聞きながら風呂が沸くと入って行った。勿論リナはミチトが来ても来なくても良かった。そして来るとは思っていなかった。ミチトはリナの後で風呂に入る。
ミチトが風呂を出るとリナはテーブルに居ないで「こっちにおいでよ」と言ってミチトを自室に連れて行く。
一緒の家で暮らしていたがミチトはリナのプライベートエリアには踏み込まなかった。
なので初めて入った部屋は極力物を置かないようにしたが長い年月の間に物が増えた。そんな感じだった。
「ほら、何もしないで良いからベッドで話そうよ」
リナがミチトの手を引いてベッドに誘うと2人で添い寝をするような形になる。
「狭いかい?」とリナが聞くと「平気ですよ。でも良いんですか?」とミチトが返す。
この良いんですか?は誰に向けたモノだろう。恐らく誰にでもなく「こんな事をして良いんですか?」なのだろう。それでもリナは「何がだい?細かい事は良いんだよ」と笑い飛ばす。
ミチトは「わかりました」と言ってベッドで寄り添いながらリナの顔を見ないようにしている。
「なんでこっちを向かないの?」
「美人が近いと照れます」
ミチトは本心で言った。リナは年上の美人で間近で見ていると緊張してしまう。
「うまいんだから。ミチトは女を知っているのかい?」
凄い質問が飛んできて驚きながらミチトは「…まあ」と答える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます