第29話 ボロボロ。

「大家はえらくミチトを気に入っていたよ。

挨拶もする。家を綺麗に使う。

家賃の滞納はない。

仕事上長期間家を開けることもあるからと言って家賃は前倒しで多めに渡しておく。

出発前と帰還後には必ず挨拶に来る。

そして万一の時には前払いの家賃で足りなければ家にあるものを処分費用に充ててくれと言ってあった」


スードは悔しげな顔から怒りに赤くなりながら話を続ける。

リナはその表情でこの先も厳しい話なのを理解する。


「リナは古代神聖語と古代語の教授がくれた手紙の話は聞いたか?」

リナは横に首を振る。


「俺も大家が何を言って居るのかは帰ってきてロキ様の話を聞くまでわからなかったんだ。

ミチトは古代神聖語と古代語か読める。

それはR to Rに来た仕事で余命幾ばくもない教授の世話をした時に習ったんだそうだ。

その人に気に入られたミチトは最後に手紙を貰っていた。

その手紙には何もない感謝の手紙だったらしい。

大家はミチトがその教授の所から貰ってきた手紙を読んで泣いていたのを窓から見かけて声をかけたそうだ。

ミチトの奴は仕事でお世話をした教授から最後にもらった手紙ですと大家に伝えた。

何故か一年以上後にR to Rの連中がその手紙を無理やり奪いに来たんだそうだ。

大家はその時に羽交い締めにされて抵抗するミチトと羽交い締めにした奴、主導して部屋を漁った奴を見ていたそうだ」


「…なんでそんな事を?」

リナは気分が悪かった。相手の行動もそうだが何故こんなことになっているのか理解不能なのも気分が悪かった。


「わかりません。私がミチト君に聞いたのはその手紙は燃やされてしまい、もうこの世にはないと言うことだけです」

スードの代わりにロキが答える。


「受け取りに来た奴がその時の奴らだったのもあって大家は引き渡しを拒否した。

そうしたら奴ら、夜中に扉を壊して家の中のモノを盗んでいきやがった。

俺達はそれを知らないフリをしてR to Rに行き、ロキ様の命令でミチトの私物を回収して居る話をして提出するように言った。

目録を見せて言い逃れが出来ないようにした。

そして万一ミチトが貴族に訴えられた後で売りに出された事が判明した場合、ロキ様の名において厳罰が下ると伝えて釘を刺した。

そうしたらアイツら、探してみないとわからないとぬかしてな。2日後に来てくれと言う。

これ以上は追求出来ないから2日間はミチトの足跡を追いながら壊された扉を直して過ごした」


「2日後、行ってみたらこれだ…」と言ってスードが荷物を出した。

ボロボロの薬学書、ボロボロの服、ボロボロの鞄なんかだった。

普通に使っていてもこうはならない品々を前にリナが「何これ?」と思わず呟いていた。


「アイツら、自分のものにできないとわかるとメタクソにしてから渡してきやがった。特に酷いのがコレだ」

スードはショートソードを取り出す。

パッと見はボロボロに見えない。

だがスードが鞘から剣を抜くと刃は折れてボロボロに刃こぼれしていて、よく見ると錆びていた。


「アイツら、ご丁寧に塩水に漬けていやがった。

せめてもの救いは拳術の師匠の形見の手甲が無事だった事くらいだろう、手甲は片手しかないから売るにも売れないし元々盗まれていなかったんだ」

スードは怒りの表情から落胆の表情になっていた。


「私はこれに関してスードから相談を受けました。そして今は共に暮らすリナの意見を聞きたくて呼びました」

ロキはテーブルの品々をリナに見せながら言う。


「……私は、ミチトをここに呼んでこのままを見せるべきだと思います。恐らくミチトは想像していると思います。スード?目録にあった現金は?」

「…迷惑料で徴収されていたよ」


「迷惑料?」

「ああ、俺達はロキ様の名前でミチトに関してR to Rのメンバー12人に確認を取った」


こうしてスードが話した内容を統括すると以下の通りだった。


チームリーダーは貴族へのお詫びに少額とは言え金銭を渡した方が良いと言う意見を部下の1人からされてミチトの所有する現金から現金を包んだ。


だがチームリーダーはそのお金が無理矢理住まいを壊して奪ったものだとは思っていなかった。


チームメンバー1人1人に聞いたミチトの印象は決して悪くはなかった。中には好意的な意見も散見されていた。


だが同時にミチト1人が犠牲になる事でチームが円滑に動くのであればそれに越した事は無いと思っていた。



ここまで聞いていてリナもワナワナと震えていた。


「後は多かったのはミチトが全部悪いって意見だ」

「何それ!?」


「チームリーダーやサブリーダーの無茶な要求に答えるから要求が過激になってしまう。ミチト基準で計画された仕事には付き合っていられない。だから全てをミチトに押し付けて自分たちは楽をしようと思っていたらしい」


確かに言い分は分かる。

だがそれは相互理解、話し合いでチームのリーダーやサブリーダーと残りのメンバー、それとミチトで話し合って最適解を出す必要がある話だ。

チームメンバーは無理をしない範囲で要求に応えられるだけの努力をし、リーダーたちはキチンとした戦力を把握して無茶な要求をやめる努力、そしてミチトには無理を当たり前にしない努力。

だが今回は、リーダーたちは利益のみを優先してチームメンバーの実力を推し量ろうとしない。メンバーたちは努力をせずに自分の現状維持に甘んじた。そして無理を無理ではなくなるまで追い込んでいき、剣術、拳術の他に治癒や攻撃の魔術まで習得してしまったミチト。

全員に非があると思う。



「後はチームリーダーを含む11人全員が口をそろえていたのは、何故かこの1年、ミチトの事を無意識に敵視をしていたし殺意もあったと言っていた事だ。

正直、俺達はここに来るまでにミチトの話を聞いていたから耐えられたのだと思う。

「マンテロー・ガットゥー」

そいつと話している間、気が付くとミチトの不満を引き出そうとし、不満があると決めつけてきて、どんな些細な事でも問題を大きくして敵視をするように、殺意を抱くように仕向けられていた」


「なにソイツ?」

「ミチトに聞いていたが、事態を悪化させて楽しむのが趣味な辺境貴族の息子らしい。ミチトの真逆の人生を歩んで居ながら似た場所に着地したような奴だったよ。ちなみに剣を折って腐食させたのも、詫び金を支払おうとチームリーダーに進言したのも、他のメンバーを焚き付けて私物を台無しにしたのもソイツだよ」



スードは話ながらマンテローとの会話を思い出していた。


「ひひひひひ、どうされたんですか?あなた確かミチトさんを連れて行った人ですよね?あの人はまた何かしたんですか?」

ニヤニヤとしながら人懐っこい感じで話しかけてきてミチトが何かをしでかしたと決めつけて質問をしてきた。そして身上書を見ていてロキが興味を持ったと言うと途端に術関係を否定してきた。そして論理武装をしつつ自身の正しさを強調しながら「そう思いますよね?」と絡みついてくる。

数点の確認だけをして話を切り上げるスードに「俺はいつでも協力は惜しみませんから言ってください」と言って「ひひひひひ」と笑いながら去って行った。


「ミチトの逆?」

「ああ、ロキ様の許可を貰って国に登録されている奴の情報を閲覧してきたんだ。生まれのしっかりした奴なら情報があるからな。

南の辺境、ガットゥー家には3人の子供、1番目が長女のロシー、2番目が長男のマンテロー、3番目が次女のロリーが居た。辺境時代のマンテローには何かの問題があったのだろう。

家督は長女のロシーが婿を取ることになったがコチラも何が問題だかわからないが縁談が成功した事は無い。

マンテローは17才で家を出て魔術師を目指す。1年で最初の師匠から別れて次の魔術師に師事を受けている。それを20才まで続けている。そして特筆点は全て自分理由ではなく師匠側から「隠居をする」「学問の追求の為」等と言う理由で致し方なくマンテローは方々を渡り歩くことになる。そしてその先も興味を持った仕事で紹介状やコネが必要なものは全て実家を頼っている」


コネも何もない中で苦労をしたミチトの逆。コネで労なく次々と師匠やチームを変えて渡り歩くマンテロー。



「とりあえず話を一度まとめよう。スード?ミチト君に問題はないね?」

長くなりそうな話を纏めたのはロキだった。スードは「はい」と答える。


「この荷物の惨状をリナはミチト君に見せた方が良いと思っているんだね?」

「はい。そして出来たらミチトに装備やお金の補填をして欲しいと思います」


「その部分は追々話すよ。リナ、君の方からは他にあるかい?」

「はい、お願いがあります。ミチトがダンジョンアタックを始めるにあたり、住居を探しています。その住居を何とかウチの傍に出来ませんか?監視の目的もそうですが、今のミチトは長時間1人に出来ません」


「ふむ。それは私とスードの意見と合致をするね」

「は?」

何を言っているのかと驚くリナにスードがとんでもない事を言い出した。


「嘘でしょ?」

「嘘じゃない。だから困ったんだよ。信じられないなら帰りに外壁側、俺の馬車を見てから帰ってくれ」


「じゃあ、その部分は明朝スードがミチト君を迎えに行って話す事にしましょう。そしてその流れでこの道具たちの話をしましょう。リナ、同席をして下さいね?」

「え…?」


「勿論、報酬は上乗せしますよ?」

「よろこんで!!」

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