第28話 18日ぶりの報告。

スード隊が戻ったのはミチトがラージポットに入って18日目の事だった。

日が沈む少し前の帰還で少々トラブルがあるからとスードは戻るなりロキに報告と相談をし、ロキとスードもリナの報告等を聞きたいと言ってリナも呼び出された。



「ごめんねミチト。スカウト組はたまにロキ様に呼ばれちゃうんだよ」

リナが店の裏口に来て居た兵士と何かを話した後で申し訳なさそうに「今晩ロキ様に呼ばれた」と言ったのだ。


「あ、そうなんですか?お店どうします?」

時刻は開店30分前で料理の用意は終わっている。

今日は肉団子シチューとパン、後は付け合わせにチーズが沢山かかったトマト味の野菜の炒め物。ミチト飯はトマト味のハンバーググラタンとパンの炭水化物マシマシメニューだった。

もう軒先から客をひきつける匂いがしていて、客たちはリナが今日のメニューと書かれた黒板を外に出すのを今か今かと待ち望んで居た。


「30分早く切り上げて店を閉めてから行くよ。片付けと仕込みを頼めるかな?」

黒板にメニューを書きながらリナが聞く。

もう長年のパートナーですと言っても初心者たちは信じ込むだろう。

それくらいの雰囲気だ。


「良いですよ。今日はレタスの入荷が多かったから、明日のメニュー俺の方は焼いた鶏肉とサラダのサンドを考えてました」

「いいね!私はレタスを付け合わせのサラダにするから備蓄のベーコンでパスタをメインにするよ」


「じゃあ倉庫からパスタを出してベーコンを切っておきますよ」

「それ助かるよ」


そんな阿吽の呼吸をしてからリナは前回同様に19時半に店じまいをすると着の身着のままでロキのところに行ってしまった。

ミチトは閉めた扉の向こうから閉店間際だとサービスしてもらえる余り物を期待した常連の「しまった!今日は早じまいか!」と言う声が聞こえてきて申し訳なく思った。




「入ります」

リナが扉を潜ると中には暗い顔をしたスードといつもと変わらぬ顔のロキがリナを待っていた。


「やあ、よく来てくれました」

「おう、お疲れさん」


「こんばんはロキ様、スードはなんか大変そうだね」

リナは前回同様にスードの横に着席をしてロキを見る。


「ミチト君は慣れましたか?」

「まあまあです。大鍋亭としてはこのまま彼にはダンジョンアタックをやめて貰って一緒にお店を続けたいと思うくらいです」

リナは遠慮なしにロキに言う。ロキは満足そうに笑っている。


「滅茶苦茶慣れてんじゃないか…」

スードが驚きの表情でリナを見る。



「ロキ様、先に私の仕入れた話をして良いですか?」とリナが真面目な顔で言うと「何かありそうですね」と言ったロキはリナに発言を促す。


リナはミチトが北部の生まれで雪は降るが豪雪地帯ではない場所とだけ教えてくれた事。

幼少期から何か虐げられるようなと言うべきか、蔑まれるような扱いを受けて居るような環境で育っていたようで、もしかしたらミチトが被害妄想癖の持ち主かもしれないと話す。


「北部ですか。それではスードにはそちらを調査させましょう」

ロキは18日でキチンと情報収集が出来ているリナを満足そうに見ながら言う。


「あ、待ってください。その前にまだあるんです」

ミチトの剣術道場とR to Rの間に同時進行で工房勤めがあった事、後は2ヶ月間の飲食店勤めがあった事を伝える。


「それでメシが旨いのか…」と言ったスードを無視して「後…、彼の…ミチトの人間嫌いの原因の一部を見つけました。スードから動物使いとして使役した狼や熊、スードの馬車の馬と通じ合えた時の印象の話を聞いてピンと来ました」と言った。


「ほう、それは?」


「ミチトは初めて交際をした女性に騙されて250ゴールドを盗まれて居ます。

後は飲食店の経営者達が剣術道場からの嫌がらせに遭った為に飲食店を辞め、街を離れてダカンに移り住んだようです」


当然スードは「何だそりゃ!」と怒りをあらわにすると思って居たのだがそうならずに「…またか…」と青い顔をして居た。それに驚いたリナが「スード?またかって何?」と聞く。



「リナ、あなたの報告は以上ですね?では次はスードの番です。スード、リナに説明を」

リナを制したロキがスードに説明を促す。


「今回、俺はダカンに行ってきたんだ。ダカンでシルゲが約束通り部屋の確保の為に身上書を頼りに大家のところに行ったんだ。そうしたら部屋は荒らされていた。

大家は突然現れたR to Rの連中がミチトが任務に失敗して貴族の怒りを買って流刑地に送られたからと言って荷物の受け渡しを求めてきたと言う。

死んだ仲間の為にチームメンバーが遺品を引き取って弔ったり故郷に持っていく話は聞くがR to Rのメンバーからその気配はしなかった上に、ミチトは前々から大家には仕事上いつ死んでもおかしくないからと話して家賃は大目に払って居たのでそれを理由に家賃切れまでは引き渡しは拒否したらしい」


いつ死んでもおかしくない。

ではなく

いつ殺されてもおかしくない。

が正解だ。


それは全員が理解していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る