第25話 東西南北。
リナの提案はスードが武器を取って戻ってくるまでの間、ラージポットに慣れる為にも大鍋亭の手伝いをして欲しいと言うものであった。
正直、ミチトには寝耳に水で困った顔をする。
それを見たリナは畳みかけるように「私と仕入れに行く最中に信頼できる店を紹介するし私と一緒なら相手の覚えもいいから騙されるような真似もないわ。後は街の状況なんかも教えてあげる」と提案をする。確かにミチトの不安材料の中には身一つで来て武器なんかの目利きはある程度は出来るが通貨がロキシーで競合他社が万一ない場合には不良品を掴まされたり、金額を騙される心配もあった。
「それに、本格的にダンジョンにアタックするまでは住み込みで働いてさ、家賃も浮かせつつ、キチンとした条件に合う物件も探せるわよ?」
そう言われた所でミチトは1つ疑問が生まれた。
「あの…」
「何?」
「ラージポットはそんなに家なんかが無いんですか?」
「ああ、それ?あるにはあるわよ。考え方次第なんだけど、唯一の門に近い、ダンジョンに近い、ウチみたいなご飯を食べさせてくれるお店に近い、武器屋に近いなんて物件はどうしても割り高で、壁ギリギリの家なんかは安いけど、家の裏がホームレスまみれみたいになってしまっているから治安は最悪よ。
それにもうここには3,000人近い冒険者やその家族が暮らしているんだから良い家なんかはどうしても埋まるわよね。空きが出るって言うのは…ね。わかるでしょ?」
それは簡単に言って3つの理由があるだろう。
1つ目は家族が出来て手狭になって家族と暮らす広い家を選択する場合。
2つ目は家賃が払えなくなった場合。怪我で長期間収入が滞る場合もこれに含まれる。
そして3つ目は命を落としてしまい。住む人間が居なくなることだ。
「はい」
「だからさ、お店の手伝いをしてくれたら食費と家賃はいらないから、このまま住んじゃいなって、それでスードが帰ってきたら改めてダンジョンアタックを考えて、その時に良い物件が無かったら家賃と食費は貰うから住んでさ?」
そう言われて好条件なのは分かっているがどうしてもこの美人と一つ屋根の下と言う状況は甘んじていいものかと悩んでしまう。
「何が嫌なの?」
「いえ、嫌とかじゃなくてリナさんはとても綺麗な女性なので俺が一緒に住んだら…」
「あはははは、無いわよ。安心してよ」
「あ、無いんですか…」
「え?ガッカリした?」
「いえ、そうでは無いんですが、何か申し訳なくて…」
「いいのよ。ミチトの分までスードにたかるから。アイツ、仕事は真面目人間だからお金は貯まるし少しは私に還元をさせたいのよね」
リナが嬉しそうに言うのでミチトは「じゃあ、ご迷惑でなければよろしくお願いします」と言った。
「よし、じゃあお腹は落ち着いた?動けるなら仕入れとか行きたいんだけどいい?」
「はい。よろしくお願いします」
そう言って2人は外に出るとリナが「ついておいで」と言って前を歩く。
「ご近所さん達の名前は追々覚えればいいさ。大事な点だけ言うから覚えな」そう言ってリナが真面目な表情で街の中心に進んでいく。
中心には大きな家が1軒分の穴が開いていて、その周りに兵士が2人居た。
「あれがダンジョンね。穴の中は幅広でらせん状の通路が大体…家で言えば1.5階くらいの高さで続いていて降りた先が1階、そこからはらせん状が緩くなるって話よ」
ダンジョンからは嫌な空気が漏れてきていて、多分ダンジョンに入ってしまえば気にならないのだが街の空気と混ざると気持ちの悪い空気になる。
「いいかい、ここから東側にウチと門がある。大体の飲食店やお医者様はこちら側だから覚えてね。後は北にも南にも西にも食べ物屋さんはあるけど、何処も癖が強いからおススメは出来ないからね」
「癖?」
「味だけの話じゃないよ。東まで歩いてこれない連中相手だから値も張るし雰囲気が悪いのさ。酷い場所じゃ何を入れられているか分かったもんじゃない」
そう言われてミチトは背筋が凍る。
正直、食べ残しの再利用くらいは覚悟する必要もあるだろう。
余程の事情がなければ食事は東側が良い事を悟った。
「次、ここから北側が武器防具の店と工房なんかがあるからね」
「工房があるんですか?」
「そりゃああるよ。いちいち他の街から仕入れていたら値段が跳ね上がっちゃうでしょ?」
確かにそう考えればそれは正しい。
「そんで、南側が市場関係。でも南東が食料関係の市場で、南がダンジョンアタック用の道具類や魔術師達が使う道具類ね。それで南西に治癒魔術師用の小さな神殿。後は西に向かう度に売っている内容がいかがわしくなっていくから注意して」
「いかがわしい?」
「そうよ、違法薬物に違法な魔術触媒なんかから媚薬とかそう言ったものが西に行くたびに増えていくわ。そしてここから西側がまあ、申し訳ないけど、歓楽街とか暗黒街って感じの場所よ。まだ表側はホストやホステスが居るアルコールを扱うお店だけど、通りを1本中に入る度に冒険者たちが春の売り買いを行って居るお店、違法薬物と違法触媒で嫌な事を忘れちゃうようなお店。そして西の最果てはさっき話したスラム街でダンジョンアタックを諦めたゴロツキ連中を取りまとめる連中が居たりするわ。まあ言い方悪いけどミチトならあっという間に有り金全部巻き上げられちゃうわよ」
何となくミチト自身にも容易に想像が出来た。
「…気を付けます。でもここって法に則っているってロキさんが…」
「なんでか知らないけどロキ様も取り締まらないのよね。本当なら追い出してほしいんだけどね」
ミチトはそれを聞いてオーバーフローを防ぐためだと理解をした。
恐らく、人死にはあるだろう。
酔った勢いでの喧嘩、違法薬物での中毒死、薬物は使わないが魔術師が処方した違法触媒を使って夢のひと時から戻れなくなる奴も居たりする。
その命がオーバーフローを打ち消しているのだろう。
「それ、ロキさんの管轄なんですかね?」
「え?あー、そう言うのはヨシ様かもね」
ミチトはこの言葉で気を付ける相手はロキではなく弟のヨシなのかも知れないと思っていた。
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