リナとの出会い。(第23話~第33話)
第23話 リナ・ミント。
朝食を出してもらったミチトは兵士に御礼を言う。
「いいって、なんだっけ?糸目だっけ?友達なんだよ。助けてくれてありがとう。後さロキ様達に怒られちゃうけど俺達も巡回でラージポットに降りたりするから会ったら挨拶しようぜ」
人懐っこい笑顔の兵士が笑いながら朝食を出す。
「ありがとうございます。スードさん達は?」
「もう出動したよ。今日からは山賊に荒らされた山の整備と後は安全なルートの開拓が今回の任務だってさ。
なんか長期間、いろんな街とここを結ぶ道を探すんだって」
確かにあの山は山賊が住み着く可能性がある。
住み着けないようにするのは難しいからそうなると他の安全に移動できる道が必要だろう。
「俺の…せいですかね?」
「そんな事ないって。それにスードが言っていたけど気にしすぎだってさ。
俺は君が謝ったり気にしたりしたら笑い飛ばしてくれって頼まれたんだよ」
「え…?」
「だから君は気にせずにラージポットで頑張ってくれよな。後さ、落ち着かないと思うけどラージポットまで頑張ってね。食べたら食器はそのままでいいから。じゃあね」
人懐っこい兵士はニコニコと言いたいことを言うと部屋を後にする。
ミチトは「ここがラージポットなのになんで頑張るんだ?」と疑問に思いながら食事をした。
料理人の好みなのか火加減が甘い気がする料理だったが食べたことのない味付けにも関わらずとても美味しかった。
そして人懐っこい兵士の言いたい事は食後にすぐ分かった。
廊下に出て門を目指すミチトの前に手隙の兵士達が花道を作るように廊下に出てきて「ありがとう!」「スード隊を助けてくれてありがとう!」「門はあっちだ。ラージポットでも頑張ってくれ」「応援してるからな!」と口々に感謝をされながらミチトは門を目指す。
ミチトは褒められ慣れていないのでどんな顔をしていいのかわからない。
「照れなくていいぞ」
「スードから人となりは聞いてるから気にすんな」
「胸を張って歩いていいんだぜ」
そんな事を言われながら門まで歩くと門番に「身分証を」と言われる。
昨日の身分証の事だろう。
ミチトはそれを出して見せると「よく来た。ミチト・スティエット。この門の向こうがラージポット。覚悟はいいな?」と言われた。
正直覚悟も何もなく言われるがままに連れてこられてダンジョンブレイクをするように言われてしまっている。
まあ、水を差すのもなんなので「はい」と答えるミチト。
「門を開ける」そう言って門に手をかける兵士もミチトに「ありがとう」と言った。
門は人が3人、3人が余裕をもって同時に潜れるくらいの大きさで、ミチトは全部開かなくても通れますよと思ったのだが門は完全に開く。
そして門の向こうにやや背の高い女性が腕組みをしていてミチトはその先の景色が見られずに居た。
ミチトは仕方なく横にスライドをする。
だが女も合わせてスライドをする。
数回のやり取りの後でミチトが「すみません、通してください」と女に声をかける。
「アンタがミチトって子だろ?」と返事が返ってきた。
慌てて女の顔を見るミチト。
健康そうな顔。
化粧気はなく整った顔立ち。
「スードに頼まれたんだよ。私がリナ。アンタこれからうちに来るつもりだったろ?迎えにきたんだよ」
「え?」
「迎えにきたの。ほら行くよ!」
そう言ってリナがミチトの肩を掴んで歩き出すと門番に向かって「んじゃ、この子連れて行くから。スード達によろしく!またご飯食べにきてよ!」と言った。
街並みは一般的な街と同じ、白い壁に茶色の屋根。
違うのはここが城塞都市のような壁で囲まれている事だが普通の壁と違うのは返しが内側についている事だ。
昨日のロキが演技でなければ誰かがオーバーフローとステイブルや消失を知って準備をしただろう。
「長い付き合いになるんだ!なんでも聞いておくれよ!私もアンタに色々聞くからさ」
「え?聞く?」
「だって名前とか食事の好みを知らなきゃやっていけないだろ?
ちなみにアンタのことは任されたんだから断らないでよね。
アイツに請求するんだから協力してよね」
リナはそう言って歩きながら笑う。
道行く人たちがリナに挨拶をしてリナも気持ちよく返す。
中には「彼氏っすか!ズルいっすよ!」なんて言う冒険者も居た。
それを見たミチトが「もて…ますね?」とリナに声をかけた。
「はぁ?今の子?故郷の味が懐かしいんだよ。私の食事がそれに似ていたからって懐いてるの。あー…、アンタって呼ぶのもやだな。なんて呼べばいい?」
笑い飛ばすリナがミチトとの距離をどんどん詰めてくる。
呼び方を求められたミチトは「み…ミチトで呼んでください。本名はミチト・スティエットです」と自己紹介をする。
「ミチトね。私はリナ。スードの奴から私の事を聞いてるのよね?リナ・ミント。よろしくね。リナって呼んでよね」
リナが右手を出してきて握手を求めながら自己紹介を済ます。
2人は歩きながら握手をするとミチトは「はい。リナさん」と言う。
リナは「さん?」とさん付けが気に入らなかったので変な顔でミチトを見る。
ミチトは「呼び捨て苦手なんですよ」と困り顔で笑う。
「あらら、親御さんの躾?いいとこの坊ちゃんなの?」
思ったままを聞くリナ。実際、スードの願いとロキの依頼の事もあって普段以上に踏み込んで普段以上に聞いて行く。ただ、この質問が嫌だったのかミチトは表情を曇らせて「…いえ」と言う。
「ふーん。まあいいわ、これが私の店「大鍋亭」よ」
リナが指差した所にはやや大きめな店がある。
「1階が食堂と倉庫ね。2階が私の家。どうする?一緒に住む?」
ニコリと笑ったリナは美人なのでとても魅力的に見えてしまう。
ミチトがまさかそんな事を言われるなんて思っていなかったので「え…!?」と言って驚く。
リナはそんなミチトの表情を見ないで「大きめに建てて貰ったから別に部屋はあるのよ。ただ住む相手は居ないんだけどね」と言って笑う。
ミチトが慌てて「あ…あの…」とリナを止める。
リナがようやくミチトの表情に気付いて「ああ、ごめんね。面倒を見てって言われたから張り切っちゃって飛ばしちゃったね」と言って笑う。
「いえ…」と言ってホッとしたミチトを見て「とりあえず中で話そうよ」と言ってリナが階段から二階に入る。
ミチトは困った顔でその後ろを着いて行く。
見る人によってはお説教をされる子供に見えるだろう。
偶然通りかかったリナのファン達が羨ましそうにミチトを見る。その視線を感じてミチトは居心地の悪い気持ちになっていた。
「二階だけどね。いらっしゃい!ようこそ大鍋亭に」
「おじゃまします」
ミチトは言われた通り着席をしてリナが紅茶を淹れる。
「うちは夕食だけのお店なんだ。だからこの時間は仕入れとか倉庫整理とか仕込みなのよ。だから時間の事とか気にしないでね」
「あ、はい」
「それでさ、ミチトがどうしてここに来たのかとかは追々教えて貰うとして、これからの話だよね。志願者じゃないからダンジョンをブレイクするのが目的だよね?」
「はい。スードさんからリナさんを頼るように言われました」
ミチトが向かいに座るリナを見る。
「ああ、それも珍しいね。あの仕事では真面目なスードが移送対象に名前を教えちゃうなんて私ビックリよ。だからこそ私の甲斐性を見せてあげるからね」と言ってリナが軽快に笑う。
「…。いや、本当はスードさんにもリナさんにも悪いので頼らずに自分で行動をしようと思っていました」
ミチトが深呼吸をした後で俯きながら言う。
「はぁ?なんでさ?」
「…俺は特にこれと言ってスードさんに何かをしたって訳じゃないんですよ。それなのに良くして貰うなんて申し訳なくて…」
本当に申し訳なさと驚きの連続だった。
そもそもミチトの移送がなければ糸目の兵士も怪我をする事は無く、スード達も窮地に立たされる事は無かった。それなのに協力をして乗り越えただけでここまでして貰えるのは申し訳ないし、ここまでして貰った事が驚きだった。
「ああ、昨日スードが挨拶に来た通りだね」そう言って呆れ顔になっているリナを見て「え?」と驚くミチト。
「だから、スードの奴が移送中に窮地に陥って助けて貰って、恩返しがしたい男がいるんだってミチトの事を言うのさ。それで「ミチトは遠慮して頼らないかもしれないからよろしく頼む」って言われてたから私は門でミチトを待っていたのさ」
ミチトはスードがそこまで手を回していた事に驚きつつ、どこかこの状況をありがたいと思っていた。
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