第22話 ロキとスードとリナ。

「来ましたね」

ロキにソファへの着席を命じられたスードは恐る恐る座る。


「怯える事はありません。

彼、ミチト君とはこの旅でどんな話をしましたか?」

「…ありきたりの日常会話です」

スードは怒られるのではなくミチトの話題だったことを訝しみなんとかミチトが不利にならないように話そうとしていた。


「特別な会話は何かありましたか?すべて話せば罪が軽くなりますよ?」

「言えません」


「ふふ、真面目ですね。ありませんではなく言えないと言う事は特別な話はあったのですね?」

そう言われたスードはしまったと言う顔で「あ…」と言う。


「まあそこに関しては黙秘で構いません。スードが彼を買っている事は理解しました。

彼を仲間にしたいと言っていた気持ちに嘘はありますか?」

「それはありません!」


「よろしい。それでは彼を引き入れる為の話をしましょう」

「本当ですか?」

怒られるどころかミチトを迎え入れられる話が出来ると思ったスードは嬉しい気持ちになる。


「ええ。有能な人材ならばいてもらう事が我がディヴァント家の為にもなります。

その為には余りにも彼に関して知らない事が多すぎます」

そう言ってロキはミチトの身上書をテーブルに置く。

そこにはR to Rでの任務歴が書かれていた。


「これ以前の事で話せる事は全て話してください」

「……ロキ様は本当にミチトを迎え入れてくれますか?この話を聞いてやめようとは思わないですか?」

全てを話してやはり不要となるのが一番困る事をスードは理解していた。


「彼は重犯罪者なのですか?」

「いえ、それどころか時代の犠牲者としか言いようがありません!」

5日間で話した内容を思い出しながらスードはなんとかしてあげたいと思っていた。


「彼に後ろ暗い過去が無ければ平気です。さあ、教えてください」

その言葉でスードは5日間でミチトから聞いた15歳からの5年間について話した。

それは顔を覆いたくなるような、貴族からすれば信じられない出来事ばかりだった。


「それがR to Rに入るまでの彼ですか…」

ここまで話したところでスードは青くなった。

無理矢理とは言えミチトはR to Rで詐欺の片棒を担がされていた事を思い出したのだ。


急にトーンダウンをして勢いがなくなったスードにロキは「その先は?」と聞く。


「あ…、あ…あの…」

スードが困り果てて脂汗をかいたところで兵士が部屋をノックして「ロキ様、19時半です。呼び出しましたが待たせますか?」と言うとロキは「ああ、ちょうど良かった。通してください」と言う。


「…失礼します」

そう言って入ってきたのは一般的な女性にくらべるとやや高身長の女性。

茶色の髪を後ろで束ねていて化粧はせずに汗ばんだ顔をタオルで拭いている。

その女性が大鍋亭の女主人、リナだった。


「リナ!?」

「あれまスード?どうしたの?」


顔見知りの2人は顔を合わせるなりロキの前だと言うのに驚いて顔を見合わせる。


「私が呼びました。用件はスードに話した事と同じなので同席をして貰いましょう」


何もわからないリナは「はぁ…」と言う返事をしながらスードの横に座ると小声で「何やったのよ」と言う。

スードは何も言えずに俯いていて普段のリアクションでは無い。

普段のスードなら「悪い!ちょっとな!」と笑い飛ばすのだが何も言えずに俯くのはかなり深刻なのがわかる。


「ロキ様?この人は何をしでかしたんですか?」

リナが恐る恐るロキに質問をした。



ロキは明日1人の冒険者がラージポットに入る事、その人物が色々と規格外で移送中にスード隊を窮地から救った事、スードが高く買っていてラージポットを攻略した際にはスード隊に入って欲しいと言って、禁止されている名前を明かし、リナを頼るように伝えた事を説明した。



「アンタ何やってんの?それで怒られてションボリしてるの?」

「いや、そうじゃないんだよ…」

大柄なスードが小さくなりながらリナに返事をする。


「今、明日君のところに向かうミチト君に関して話をしていたのだが、急にこうなってしまってね」

困った顔のロキを見たリナが横に座るスードを見て「どうしたのさ?」と聞く。


「いや…その…な…」

そう言ってゴニョゴニョと口籠るスードにラチがあかないリナはロキに「ロキ様はなんの話をしていたんですか?」と聞く。


「私はミチト君のこれまでの仕事内容なんかを聞いていたんだ。

彼が後ろ暗い重犯罪者でなければ有能な人材は招き入れたいからね」

「ではそこで黙るって事はソイツは人殺しなの?…って窮地から救ってもらったなら魔物や人の命くらい取るわよね?何やった子なのよ?どうせその事を忘れてロキ様に一生懸命売り込んでいたのに途中で思い出して青くなったんでしょ?」

付き合いの長いリナはスードのやりそうな事を知っていて突っ込む。


「ああ、それで口籠ったんだね。スード?ミチト君は何をしたんだい?」

「…R to Rで詐欺の片棒を担がされていました…」

観念したスードが暗い顔で告白をする。


「詐欺?そんな悪い奴なのにアンタ惚れ込んだの?」

呆れながらスードをジト目で見るリナ。


「違うんだって、ミチトは行くところもないし頼れる人もいないし、R to Rってチームで使い潰されて辞めさせても貰えないし金も貯まらないように邪魔ばかりされていてチームメンバーからも遊び半分で何べんも殺されそうになってるんだよ。それを何回も撃退してさ。それで金以外の辞められない理由までは知らないけど詐欺の片棒を担がされてんだよ。だからその事でロキ様がミチトを雇わないって言い出したらって思って!」

スードが必死になってリナに説明をする。


「何それ?」

「スード?話しなさい」


諦めたスードはミチトがR to Rで移送任務の保険契約の詐欺行為に加担させられていた事、移送任務は13人のフルメンバーで申請しても実際に任務に赴いたのは5人くらいでミチト以外のメンバーが何もしないでいる事、逆に事故に見せかけて何回もミチトを殺そうとしている事、その中で魔術に目覚めた事なんかを説明する。


「スード、それは問題ありません。私は善悪の判別は出来ますし過失の有無くらいは理解できます」

ロキが呆れた顔でスードを注意するとスードは涙目で「良かったぁぁぁっ」と漏らす。


「それで1人でラージポットに身一つで売り飛ばされたそのミチトって言う子が私を頼るんだね?任せなよ!」

「おう…頼むぜリナ」

スードがリナの手を取って力いっぱいミチトの事を頼む。



「さて、スード。スード隊には特別任務を与えます。

ひとつ目は最優先でミチト君の荷物を確保してください。そしてラージポットに戻り次第渡してあげる事。

ふたつ目は全力で彼の過去を調べる事。出身地からなぜ後ろ盾が無いのか。彼の家族は何処に居て何をしているのかを調べてください。

後は月に一度はラージポットに帰還して必ず私に報告をして彼に面会をする事。

今までは面会の制度は作っていませんでしたがミチト君をテストケースとして今後に活かすことも良いと思います。

これを繰り返して最終的には彼にダンジョンをブレイクして貰います」

「…は…はい!」


「そしてリナ。君には彼の身の回りを彼が望めば正面から、望まなければ陰ながら面倒を見てください。後は彼から過去の話を仕入れてもらう事、ダンジョンブレイクの障害になる怪しい虫がつきそうな時などは私に逐一報告をしてください。勿論報酬は弾みます」

「はい!」


こうしてリナとスードはロキの部屋を後にして門のところで解散する。

「久しぶりだけど元気そうで安心した」

「私こそ安心したよ。これからは仕事が増えそうだからよろしく頼むよ」


「ああ、すまんな」

「いや、特別ボーナスのためにも頑張らないとね」

そう言ってリナは門をくぐってラージポットに帰っていった。

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