第19話 写本。
「あの…」
ミチトは恐る恐るロキの顔を見る。
この後の会話はあまり良い展開ではない。
小隊長…スードの決断はありがたい反面困るものだからだ。
「流石ですね。君の話を貰ってから彼の小隊を向かわせましたが彼は真面目で職務に忠実で違反なんかをする男では無いんです。
それなのに彼は君の為に決まりを破った」
ミチトは何でそこまで?と疑問に思うしこれでスードが何かを言われるのも嫌だった。
それが表情に出ていたのだろうロキはミチトの反応を見て「しかし…決まりは決まりなので…」と淡々と言う。
ミチトは思わず「え!?」と反応してしまい次の瞬間には「しまった」と後悔した。
「まあそこは君次第としましょう」
そう言って笑うロキの顔は悪い顔をしていた。
やはりスードを弱点として認識されてしまった。
「2人で話がしたい」と言い、ロキは兵士に席を外させようとする。だが兵士は「承服しかねます!」と言った。それは間違っていない。
ここではロキは一番権力を持ち守られるべき存在で、ミチトは正体不明の受刑者なのだ。
「別に2人きりになって私が殺されてもヨシが後を引き継ぎます。それに彼は私を手にかけようなんて思いませんよ。仮に何かをしでかしたら、仮にここから脱出出来たとしても指名手配の身ですし、それこそ彼をこの部屋まで連れてきたスードの責任になる」
「…くそっ」
スードの名前を出された事に小さく悪態をつくミチトを見たロキは満足そうに「ほらね」と言って兵士を部屋の外に待機させる。
「そんな顔をしないでください」
ロキがミチトに笑いかけながらソファに着席を促す。
長くなるということを察し素直に着席をしながらミチトは「何をすれば良いんですか?」と聞くとロキも「話が早いですね?助かります」と言った。
「最初は荷物や部屋の確保を申し出てから何かを言うつもりがスードさんの暴走でそれ以上の状況になった」
ミチトは思ったままを口にする。
「はい。その通りです。そしてこれは元々予定していましたから言いましょう。
協力してくれれば1,000ロキシーを支払いますし、他にも厚遇を約束します」
「そこまでするほどの物だと…」
「そうですね。それはこれです」
そう言ってロキが鍵付きの机から取り出したのは一冊の本だった。
「これは…!」
ミチトが驚くのも無理はない。
これは国営図書館の中央室で見かけた古代神聖語で書かれたダンジョンについての本だった。
「やはりご存知でしたね。
まあそれは君を紹介してくれた君のチームからの情報で知っていましたから驚きはありません。ただ中身に関しての詳しい情報はミチト君しか知り得ないと言われました」
最悪の展開だった。
誰がここまで愚かな選択をしたのか二度と会いたくないR to Rメンバーの所に行って問い詰めたいくらいだった。
単純に戦闘力だけをバラされていれば後はどうとでもなった。
逆に戦闘力は秘匿されていて古代神聖語で書かれたダンジョンについての本についての知識だけをバラされたならこちらもどうとでもなった。
だが大安売りで両方バラされたのは最悪の展開だった。
下手をすれば「一手に全てを収束させて見せろ」と言われかねない。
思わず心のままに「…くそ……」と言う声が出てしまいロキは「は?」と聞き返す。
「いえ、それでどうしろと?」
「理想なのは正確に一冊を翻訳をして貰いたい。まあ時間がかかるでしょうから最低限必要と思われる箇所に注釈をつけて欲しい。ですが同時にダンジョンアタックもして貰いたい。
なのでダンジョンの箇所のみで結構です。頼めますか?」
この場合の頼むは「やり遂げろ」だ。
やって当然、できて当然の厚遇。
逆らいようはない。
「俺の知識は独学に近いですが読めると思います。
ですが読むのは生活基盤ができた後、スードさん達が何も問題なく荷物を持ち帰ったらにしても良いですか?」
「…やや承服しかねますね。ですが大体は構いません」
ロキは顔を硬らせて「やや」と言う。
これは手付代わりが必要だと言う事だ。
「…何をすればややでは無くなりますか?」
「君が見たと言うページを開く事、そこにはどういった物が書かれていたのか説明する事、後はなぜ君が古代語と古代神聖語を読むことが出来るのかを説明する事。この3つを今ここで行ってください」
「…わかりました」
ミチトは記憶を頼りに本を開きページ左上の部分を読み進めてみるとあの日見てしまったページに遭遇した。
だがここでミチトはとんでもない事に気づく。
「この本はどうされました?」
「尊いお方が貸してくださったのです。国営図書館中央室にある宝物とされる原本の写本ですよ」
ロキはありがたいもののように説明をする。
「…………驚かないで聞いてください。
この本は偽物です。
写本だからじゃない。
恐らく写本する時に意図的に改竄されています。
ここが俺が読んでしまったページ。ダンジョンについて見解が書かれています」
「…そうですか。やはり…」
「やはり?では読めたのですか?」
「私は読めません。ですが地位を使えば読める者は雇える。その者の説明を聞いていて違和感を覚えただけです。ちなみにどこに改竄がありますか?」
「一部のオーバーフロー条件とステイブルの記述がないです」
「オーバーフローとステイブル?」
「詳しくは荷物が戻ったらで良いですか?ここで話して用済みで…って言うのは困ります」
ミチトは笑いながら首に手をやって横に引く。
「では意味だけは教えられますか?」
「…既に説明があったと思いますが、魔物がダンジョンから溢れる事をオーバーフローと書かれています。ステイブルはダンジョンの安定化。生まれたダンジョンがブレイクや消失をせずに後世に残る事を言います」
「ありがとう。それでは何故君が古代語と古代神聖語を読めるかについて教えて貰えますか?」
「別にたいした話じゃありません。R to Rに入った俺は最初の仕事が住み込みで大病を患った学者先生のお世話だったんですよ」
そう言いながら2年半前、勤務2日目…牧場で乳牛の世話をしていた経験からお前がちょうど良いと言う何も考えていない無茶苦茶な話で有無を言わさず連れて行かされた豪邸。
その離れで体験した日々を思い出しながら話した。
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