第18話 スードとミチト。
「これはロキシーと言うラージポット専用の通貨。十万ロキシーで君はラージポットから解放されます。
無論、裸一貫ではなく、手に入れた装備も持ち出せます。
十万ロキシーは500ゴールドに換金されて支給されます」
それはミチトのダカンでの無職生活を意識した時の蓄え4ヶ月分だった。
ミチトは思わず息を飲んで震える。
その顔を見たロキが満足そうに話を進める。
「ラージポットから貿易都市までの馬車代は有料ですがそれを払っても新生活を行えるチャンスは残ります」
前向きになったミチトが「稼ぐ方法を教えてください」とロキに聞く。
「はい。毎月200ロキシーが私達から支給されます。そのお金で宿代、食事代、ダンジョンアタックの装備代に充ててください。
そしてダンジョン内の魔物の死骸は高価な素材になりますのでどんどん売ってください。それもロキシーに換金されます」
「レートは?」と聞くミチトを見てロキは嬉しそうに笑うと「おお、鋭いですね」と言って説明を始める。
「外で1ゴールドの薬草は5ロキシーです。
逆に外で10ゴールドの価値があるゴブリンの骨は5ロキシーです」
それを聞いてミチトはロキが得をするようにできている事をキチンと理解する。
1ゴールドでやり取りするモノをラージポットでは5ロキシーで売り、逆に10ゴールドの価値があるものは50ロキシーではなく5ロキシーで引き取る。
ゴブリンの骨を売って5ロキシーを得るミチト。
その骨をダカン等で10ゴールドで売ったロキ。
10ゴールドで薬草を10個買うロキ。
薬草10個を50ロキシーで買うミチト。
外でロキシーに価値がない以上仕方がない部分もあるし、ここの運営に使われるのだろう。中に居る罪人や冒険者が使った金額が小隊長達のお給料になる。
話ながら計算をするミチトを見るロキは計算が終わるまで待つ。計算が終わった頃を見計らって「他に聞きたい事はありますか?」とミチトに聞く。
「細かく聞きたい事はありますが大まかに聞けば、ラージポットは安全なんですか?」
「いい質問ですね。ラージポットの街は安全を優先しています。警備の兵士達も街を見回ります。法も外と同じようにある。そして罪は外より重くしてあるし、対人用の法はかなり厳しいです」
ロキが少し自慢げに説明をする。
大概流刑地や監獄なんて所は完全に看守が正しく受刑者が間違っていると言う前提で物事が進み決まりはあっても法は無いようなものだ。受刑者たちが勝手にルールを作ったりする。
だがラージポットにはそれが無くキチンと法に則っていると言う。
しかしミチトには通用しなかった。
今までの経験が上辺だけを見て満足できないようになっていた。
「だがその先、人目につかない部分はそうは行かない」
「君は鋭いですね。そう、ダンジョンの中は治外法権になります。後は街中でも十数人に囲まれて兵達に見られなければ中では何が起きるかわからないし、何が起きてもわからない。
口裏を合わせて何もしていないと言われれば路地裏の犯行は闇の中に真実が消える」
「では稼いだロキシーを持ち歩いてダンジョンに行けと?居ない間に盗まれたロキシーは自己責任になりますか?」
「いえ、門のところに銀行があります。ラージポットでは中の人間とその人のロキシーを徹底管理してあります。なので君にはこの身分証を持って行ってください。この身分証が銀行でロキシーを出し入れできるものになります」
そう言って渡されたカードには魔術で書かれた名前が書かれていた。
「これは本人以外が持つとインクの色が青色になります。なので奪って使用する事は出来ません。そして死者のカードはインクの色が赤色になります。その赤色のカードを銀行に届けるとその人の預金は全額持ってきた人のモノになります」
これがミチトの気にしていた財産を狙う犯行だろう。
現状、何人居るかは聞かないが軽く1000人が居て一か月後にそいつ等を皆殺しにしてカードを奪えば2人の人間が釈放されるだけのロキシーが手に入るのだ。
「早速、ここには小隊保護のお礼で300ロキシーと今月分の200ロキシーで500ロキシーを入金しておきますね」
そう言ってロキはベルで部下を呼ぶとミチトの名前等を告げて入金の指示をする。
「さて次です。私にはコチラが本題です」
ロキが真っ直ぐにミチトの目を見る。
ミチトはダンジョンの知識を問われるのかと身構える。
「君、何で丸腰で何も持たずにここに居るんですか?」
想像していた質問とは違ったために拍子抜けしたミチトは思わず「え?」と言ってしまう。
すかさず横の小隊長が「ご報告をしてよろしいでしょうか?」とロキに言う。
「何ですか?」
「彼は任務に失敗をし、怪我を負い帰還し、貴族から訴えられてから移送の日まで住まいに帰る事無く、チームハウスに逃亡防止の名目で監禁をされていたそうです。我々も道すがら彼に同様の質問を行い、そこで初めて発覚しました。無一文、丸腰でラージポットに赴きダンジョンアタックをすると言う事は無謀です。どうかロキ様の指示と言う名目で我々に彼の荷物を確保する事をお許しいただけないでしょうか!」
「…なるほど。目録は得ているんですか?」
「コチラになります!」
小隊長がミチトの荷物に関して書いてある紙を見せる。
「…ほう…薬学の書物もありますね。ミチト君は薬も扱えるのですか?」
「……素人よりかはマシなものです」
「素晴らしいですね。では怪我をした彼にも薬を?」
「はい。山賊の持っていた鎮痛剤と解熱作用のある草を配合して作りました」
「わかりました。ではあなた達はラージポットを出立後、ダカンを目指して彼の荷物を私の名を使い可能な限り回収して来てください。費用は私まで回すように」
「はい!ありがとうございます」
「え…そんな…」
思わず驚くミチトに小隊長は「恩人に恩返しをさせろ」と言い、ロキは「部下たちには移送される者との接触は極力控えるように言っていますがそれでもここまで熱心なのですから私も協力を惜しみません」と言い切る。
「後、彼は何も言えずに借家を後にしているそうなのでその部分に関しても大家と話をしたいのです」
「そうですね。では部屋の確保が可能であれば私が保証人で借りておきましょう。まずは部屋を確保できるかを交渉してください」
あれよあれよと話が進んでしまいミチトが困惑する中、ロキが小隊長達に「それでは今日は報告書の作成と馬の世話や馬車の整備、後は怪我の治療をしたら早朝出立をしなさい」と指示を出す。
「はい!」
そしてミチトを連れて部屋を出ようとしたのだが、ロキに「彼との話はまだあります。あなた達はここでお別れです」と言われてしまった小隊長が少し暗い顔で小さく唸る。
「お世話になりました。今もありがとうございました。俺なんかの為に無理はしないでくださいね」
そう言ってミチトが深々と頭を下げて小隊の3人に感謝を告げる。
小隊長は唸りながら「…ロキ様!すみません!!」と一度言う。
そのやり取りに驚くミチトの肩に小隊長が手を置く。
「本当に助かったのは俺達の方だ。頑張って生きてくれ!それでだな…荷物の確保、部屋の確保は部下たちからの恩返しだ。俺の恩返しがまだだったな」
そう言ってミチトの顔を覗き込む。
真剣そのものと言う眼差し。
ミチトはあまりいい予感はしなかった。
「小隊長さん?」
「スード、俺の名はスードだ。本当はお前さんが言った通り過度の接触を控えるために名前を教えたり、話し込むのはご法度なのだが俺はお前さん…ミチトに恩返しをしたいんだ。
ラージポットに入って真ん中がダンジョンの入り口だ。ダンジョンと門の間に[大鍋亭]と言う食事処がある。そこのリナって女は俺の古い知り合いで信頼できる奴だ。必ず俺の名を言ってラージポットでの生活拠点の相談に乗って貰え。アイツが口をきいてくれれば住む場所も全部何とかなる!」
ミチトはロキが怒る前にスードを止めたかった。
だがスードは一気に話し切ってしまおうと勢いを止めない。
「後、古い知り合いで最初期にラージポットに志願してきた冒険者にシューザって言う爺さんが居る。行方不明だが死んだって話は聞かないから絶対に生きて何処かで好き勝手やっている。ダンジョンの事はそいつに頼れ!いいな!それで生き残ってくれ!生き残ったらロキ様に雇ってもらって、俺と一緒にこの五日間みたいに一緒に馬車を走らせよう!!」
「…スードさん…」
「絶対だからな!リナとシューザを忘れるな!」
そう言ってスードは「すみませんでした!」とロキに深々と頭を下げると足早に部屋を後にした。
部屋の外からは「ずるいっすよ!俺だってミチトに名乗りたかったのに!」「ミチトが来たら追い出されるのは俺ですか!?」と大声が聞こえてきたがそれもすぐに聞こえなくなった。
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