ラージポットでの邂逅。(第17話~第22話)
第17話 ラージポット到着。
1枚目の壁を馬車で潜ると駐車スペースがあって、そこに馬車は止まる。
今ミチトの左手は小隊長の手で包帯が巻き直されていて痛々しい格好で小隊長と降りる。
係の兵士が下から上までチェックするようにミチトを見る。
怪我人1人を運んで来たことが不思議でならない感じだ。
ミチトは不機嫌を表している馬のところに行くと「ありがとう。俺なら平気だよ。だからキチンとこの人たちの言うことを聞いて」と言うと馬がようやく大人しくなる。
その様子を見て「この先コイツは大丈夫だろうなぁ?」と困り顔の小隊長に「ええ、この子はいい子ですから」と言うミチト。
小隊長の立場からすればミチト抜きで走らなくなっては困るのだ。
1枚目の壁の向こうは広めの塔を大きく広げた作りになっていて1キロくらい内側にまた壁が聳え立っていて、その壁に部屋が沢山あった。
岩窟住居を模してある感じだ。
一つの階が大体一般住居の1.5階から2階分の高さで、連れて行かれた場所は4階だった。
「移送小隊、ラージポットに到着しました」
豪華な扉の前で小隊長がそう言うと中から兵士が出てきて明るい顔で小隊長を見たがすぐにミチトに気付くとよそ行きの顔になる。
「任務ご苦労様です。門番から報告がありました。謁見ですね?」
「はい。予定時刻を大幅に遅れた事などをロキ様にご報告に参りました」
「少しお待ちください」と言って兵士が中に消える。
無精髭の兵士が「緊張することはないよ」とミチトに声をかけると糸目の兵士も「ロキ様はいい人だよ」と言う。
ミチトはそれは身内だからですよと言いたかったが我慢をして頷く。
正直それどころではない。
ここで仮に洗いざらい話されたのではひっそりと生き延びる計画が台無しになる。
すぐに兵士が中から出てきて「どうぞ」と言う。
4人が中に入るとその部屋は大きなガラス窓が特徴の部屋でその向こうにはラージポットの街並みが広がっていた。
沈みかけた夕陽に照らされた壁と街はとても綺麗だった。
その街を背にした黒と黄色の服を着た優しい面持ちの30歳くらいの男が立っていて笑顔でミチトを見ていた。
その男から少し離れた場所、一息で剣や盾になれるギリギリの箇所で先程の兵士が直立をしている。
「ようこそラージポットへ。私は責任者のロキです。生憎弟のヨシは城に行っていますが来週には会えるはずです」
ロキはそう言って「楽にしてください」と言って前に出てくるとミチトを見る。
「ミチト・スティエット君ですね。
君の事は聞き及んでいます。
何でも職種こそ定まって居ないものの、剣術に格闘術等をその道の初級者より使いこなし、多数の治癒魔術と攻撃魔術が使えるとか?
凄いですね。
攻撃魔術も火に氷に雷に風なんかも使えるそうですね」
手に持った紙を見ながらそう話すロキ。
そこまで知らなかった小隊長達は「まだ隠された力があったのか?」と驚く。
当のミチトは素性がバレている事に顔色が悪くなった。
小隊長たちは常に一緒に居たので小隊長達から漏れたものではない。
R to Rがここまで話して売り飛ばしたと言うことだった。
「君が到着をしたら話を聞きたいと思っていたのですが、まさかそちらから来てくれるとは思いませんでした。到着が遅れた事と関係がありますか?」
ここで小隊長が山賊に襲われた事を説明した。後は山賊の頭目が動物使いで狼を差し向けてきて糸目の兵士が大怪我を負った事。
多勢に無勢の中、ミチトが手を貸してくれた事を説明する。
その説明は過大も過小もしていない評価でミチトを不利にする事は何も無く、動物使いから支配権を奪い取った部分なんかはキチンと隠されていた。
これを昨晩3人で話し合ってくれたのだろう。
「まあ聞き及んでいる内容からすれば当然の結果ですね。行動に関しても問題の無い範囲です。所でその包帯は偽装ですか?
大丈夫ですよ。あなたが治癒魔術を使えても我々からは無理強いはしません」
ロキが穏やかな顔でそう言ったのだが「だが…」と言葉を続けた。
「実力を見てみたいので怪我を治して見せてください」
「…わかりました」
大きくため息をついたミチトは先に包帯を外すと捻ったと言っていた腕は赤黒く腫れたままだった。
ミチトが右手を左手の患部に添えて「ヒール」と言うと患部が光ってあっという間に腕の赤黒い色と腫れは消えた。
ミチトは初級のレベル1ヒールと言っていたがやはりミドルヒールくらいの効果があると見ている皆は思っていた。
「お見事です。さてミチト・スティエット君。長いのでミチト君と呼びますね。
先にこれからの話をさせて貰いましょう。
ミチト君にはこのラージポットでダンジョンブレイクを目的としたアタックをして貰います。無論、どこかのチームに入る事を強要しません。好きにしてください。
全員の目的はダンジョンブレイクです。
どのような手段を用いてもダンジョンブレイクをしてください」
「はい」
ミチトは諦めて返事をする。
「そして君はそれを成すまでラージポットからは出られません。いいですね?」
「はい」
「ですが、ここ、ラージポットでは私がルールです。なのでルールを作りました。出る方法はあります」
「は?」
驚くミチトを無視して「ここでの通貨になりますが」と言ってロキが小さな鉄の欠片を出す。
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