第15話 奪われた物。
昼食はお決まりのパンと干し肉と水。
無精髭の兵士が「夜にはラージポットかぁ…早いなぁ」と不満を口にした。
「お前はいつも長いと不満を言っていたのに今回はどうした?」
糸目の兵士が不思議そうに尋ねる。
「いやぁ、もっと話を聴きたくてな」
そう言ってミチトを見る。
ミチトは食べかけのパンから口を離すと「俺ですか?」と言う。
「そうだよ。本気で全部聞いたらダカンとラージポット何往復かかるんだ?」
「確かにな、聞いてみたい事とかはあるな」
糸目の兵士も一緒になって言う。
「そんなに面白い事はありませんよ?何が聞きたいんですか?」
「とりあえず何でそんなに身軽なんだい?」
糸目の兵士がミチトに質問をする。
「え?任務失敗して帰ってくるなり貴族に訴えられて、そのままR to Rから逃走防止の名目で家に帰らせて貰えていないんですよ」
「え?じゃあ家の荷物とか大丈夫なのか?」
「あー、ロクなものは無いですがR to Rの連中に奪われてますね」
呆れ口調でミチトが言う。
「よし!お礼をさせてくれ!」
突然糸目の兵士が立ち上がるとミチトを見る。
「え?」
「何を驚く!左肩のお礼だよ。俺達はラージポットとダカン周辺を回る仕事だから持ってきてやるよ!
ほら!目録作ろう!」
糸目の兵士は紙とペンを持ち出すとミチトに部屋にあるものを聞いていく。
「部屋はロキ様に頼んで数年は確保して貰っておく」
「そんな…」
「お前の分の礼だよな?」と小隊長が言うと無精髭の兵士が「はい!」と嬉しそうに返事をする。
「今日は従うんだろ?」
「……はい。でもあまり無理はなさらないでください?ダメなら諦められますから」
「諦めたくないモノだってあるだろ?」
糸目の兵士の圧に負けたミチトが「じゃあ」と言って目録を書いていく。
「出来たら確保をお願いしたいのは右手だけの手甲と古目のショートソードです。
後は薬学を身につける為に買った古本や着替えなんかです」
「現金は?」
「ありましたがそれこそ酒代に消えてます」
「幾らだ?」
「100ゴールドです」
「貯めたのか?」
「ええ…、俺の借りてる部屋なら食費も含めて月に60ゴールドで足りますがR to Rを辞めた後で根回しされて追い出された時に宿屋に長期滞在もあり得ましたからダカンの平均価格4ゴールドの1ヶ月分、120ゴールドを目指していました」
給料の額は聞けないがそう高くはないだろう。
「遠征時の食事代ってどうなっていたんだ?」
「サブリーダーと飲みに行けば支払ってもらえますが断れない二次会なんかがあったりすれば自腹です。酔ったフリをして払わない奴の分まで請求される事もザラでした」
そうなると殆ど残らないだろう。
「武器のメンテナンスは?」
「自腹です。それに俺は金が無くて自分でやっていたらR to Rのメンバー分全員のメンテナンスをさせられてました。材料費が自腹なので赤字です」
その中で100ゴールドの金額を貯めるのはどれだけ大変だった事であろうか…。
それは糸目と無精髭の兵士も同じ考えだった。
「まあ荷物は確保するよ。金もロキ様の名前を出して確保してみる。
それで手甲は左右一対だろ?なんで右手だけなんだ?」
「師匠の形見です。
亡くなった時、埋葬後に師匠の奥さんが半分ずつ持とうと形見分けしてくれました。
あの時、奥さんの言葉に甘えて残る道もあったんですが、奥さんは俺に良い感情が無かったんで遠慮しました。
俺に…と言うより師匠の弟子にですね。
俺は急死されたと思っていたんですが、師匠は昔怪我をした影響で身体が悪かったんです。
師匠の身体が良くないのを知っていたから師匠が弟子を取ったことが不満だったんですよ。
本来なら残された時間を弟子では無く自分に向けて欲しかったと言っていました」
それすら諦めているミチト。
普通、恩師の形見なら諦められないと必死になるはずなのに仕方ないと言い切れてしまうのは何故なのだろう?
小隊長は気になったが時間に限りがある以上聞けない。
「剣の方は?」
「ああ、あれは残っていないと思いますが親戚に歳のそう離れていない兄貴分が居ましてね。
兄貴の実家が商売で成功していまして、それで兄貴は護身用に剣を習ったんですよ。
それでその時に買ってもらったショートソードをお古で貰いました。「安物の新品よりは俺のお古の方がいいモノだからこれを持て」と言って15の時、故郷を出る時に持たせてくれました」
「お前さん…惜しくないのか?」
「え?」
「剣も手甲も唯一無二じゃないか?」
「まあそうですね。ですが自分で剣術を習った時に買った練習用のミドルソードをR to Rの護送任務に持ち出したら眠らされている間に盗まれて売られて酒代になりましたし、証拠不十分で眠らされた事もチーム間で狙われている事も全部俺が悪いとなった時になんだかどうでも良くなりました」
感情の死んだ笑顔。
なんと言えば良いのだろう…。
満足して亡くなった遺体がする笑顔に近い。
そんな笑顔だった。
「さあ、長くなりましたね。ラージポットは遠くに見えるあの灰色の建造物ですよね?よろしくお願いします」
ミチトが立ち上がるとそう言って馬を撫でて「優しいね。ありがとう。俺は大丈夫。君が無事なら今はそれで良いんだよ?」と話しかけると馬車に戻って行った。
「す…小隊長」
「ほら、仕事をするぞ。後の事はその後話す」
「はい」
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