第14話 魂が汚れる話。
5日目、天気は曇り。
初日や2日目みたいに牢の中にはミチトと小隊長が座っている。
「揺れてますけど糸目さんをこっちにしてあげても良いんですよ?」
「バカを言うな。怪我人と移送中の奴を一緒にして逃亡を謀られたら困るだろ?と言う建前だよ。諦めろ」
小隊長が呆れながら言うと「そうですね。きっとそろそろ小さくラージポットが見えて来る頃ですもんね」とミチトも遠い目をする。
「五日間ありがとうございました」
「礼を言うのはこっちだよ」
何を言うんだと呆れながら小隊長がミチトを見る。
「いえ、そもそも俺を送らなきゃこんな事にはならなかった事ですし…」
「まったく、その考え方は変わらないな。まあいい。今は何個かまだ聞きたいんだよな」
小隊長がミチトの顔を覗き込む。
「何ですか?」
「お前さんを殺すように煽った奴は何者だ?」
そう、ミチト自身の事は何となくだがわかった。15で外の世界に出てついていないと言わざるを得ない目に遭った職業も定まらない自称・器用貧乏。
だが過酷とも言える職業経験で数々の才能を開花させた存在。
だがそうなると疑問なのは外に出る前の暮らし何かにもなるがそれよりもここまでしつこくミチトを殺させようと煽り続けた謎の存在を聞きたくなっていた。
だがその話題が出た途端にミチトが嫌そうな顔になる。
「あ、嫌な話題なら避けてくれよ?」
困った表情と泣きそうな表情は散々見てきたが明確な嫌悪感の顔を見て小隊長が慌てて言う。
「別に込み入った話は出来ないししたくないですけど概要なら問題ないですよ。深く話すと魂が汚れる気がするんです」
「あ…?ああ。それで良いんだ」と小隊長は言ったが「魂が汚れる」という表現も過激に聞こえて気になってしまう。
「名前はマンテロー・ガットゥーとか言う辺境貴族の放蕩息子らしいです」
「らしい?」
「俺はアイツと仕事以外に話をしたくなかったんで詳しく知りません。
プライベートについて詳しく話をしませんでしたから、メンバー達の世間話で聞き及んだくらいです。
なんでも自身が住む辺境に見切りをつけてさっさと都会に出てきたものの首都では鳴かず飛ばずでそのまま20年近く各地を転々としながら色んなチームに入っていたそうです」
「らしい」「そうです」等、曖昧な表現が続くがとにかく嫌っている事はよく分かった。
小隊長は「幾つだそいつ?」と相槌を打つ。
「確か35とか37とか言ってましたよ。俺は年下と言うだけでアイツから小馬鹿にされていましたから」
ミチトは自覚があるのかわからないが言葉遣いが荒々しい。
「職業は?」
「来た時には魔術師寄りのオールラウンダーを語っていました。R to Rに魔術師が十分居ることを知ると前衛職に名乗り出ていましたよ」
オールラウンダー、前衛から後衛まで全てをこなす者は確かに居る事は居るが稀有な存在でチームに居れば重宝がられる。
それなのにミチトが言った「20年近く各地を転々としながら色んなチームに入っていた」が本当だとすると妙な気分になる。
「何処まで話せて何処まで詳しい?」
「いや詳しくないですよ。答えられるのは職歴がおかしい事と渡り歩いてきたチーム遍歴がおかしい事くらいですよ」
「何だそりゃ?」
「アイツは腐っても貴族の息子なんで紹介状だけは毎回実家に言えば書いてもらえるし、身元もしっかりしてるんですよ。だから住むところも紹介が必要な職業もなんとかして入り込めるんです」
何となくミチトが嫌っている理由が分かる気がした。
ミチトは四苦八苦しながら紹介も無く職歴が付かず。逆にマンテローと言う奴は手紙一枚で紹介や身元の確認が出来て職歴がついて行く。
「実力は?」
「この世界で20年近く生き抜いているくらいには出来ますが、アイツは戦闘力よりもコミュニケーション力で生き残るタイプですね」
その言い方で中途半端に使い物にならない事がわかる。
「トゲがあるな?」
「トゲの理由は何個かあるんですが、まずは都合よく立場を使い回すんですよ。
治癒魔術師でもないのに治癒のイロハを自慢気に語ってみたり、治癒術師に修練度の確認をしてみたり、あげ足を取ってみたりして、そのくせ治癒魔術が必要な状況で出し惜しみをしたり、今は治癒魔術師じゃないからみだりに使わないと言って逃げたり、そう言ったかと思えばチームリーダー達の回復は我先に名乗り出たりと…。だからキ…苦手です」
ミチトがハッキリとイヤだと言う顔、例えるのなら食堂で不衛生なネズミや害虫を見た時の表情で言う。
「他だとどんなのだ?」
「口だけは上手いんで、サブリーダー達なんかから次の依頼は狭い場所だからナイフ装備でと説明を受けた時は返事はいいんですけど、練習なんてしないのに一番いいナイフを練習しますって持って帰って翌日には「大体わかりました」って言うくせに当日はナイフを持ってこないでソード持参で来て役に立たなかったりするんですよ。
でも口が上手いしコミュニケーション力もあって、酒を飲んでチャラにしようとしたり実際チャラにするんです。R to Rは酒飲みが多かったですからね。
後は人をけむに巻いたり人心を惑わせるのが趣味なので注意や説教をうけても相手に何を言わせたいかを見失わせていつの間にか説教の標的をこっちにして「ひひひ」と笑うんです」
小隊長はミチトの主観が入っているだろうが確実に関わりたくない相手だと言うのは分かる。
「チーム遍歴は?」
「かなり多いですよ。聞いた話では何処も最長で3年以内、最短だと1か月で辞めてます。そして辞めた後の空白期間も長いです。
更に言えば何処も脱退理由がチームが離散した為、壊滅した為、リーダーがチーム運営を辞めた為って理由で自己都合は一切ない事」
「20年間ずっとか?」
「ええ、変ですよね?」
「R to Rは何でソイツを雇ったんだ?」
小隊長が不思議そうに聞く。
「輸送部門を増やそうとしたんですよ。
それで未経験者か逆に中途半端に値下げ交渉の出来そうなベテランを雇い入れて、貴族からの輸送仕事を増やそうとしたんです。まあ、増やそうとしたと言うか貴族側からR to Rの料金なら回数を増やしても儲けが出るから専属になってくれって言われたんですよ」
この話が本当だとすれば詐欺同然の輸送でこれからもR to Rはやっていくのだろう。
だがそうなるとやはり腑に落ちない点もある。
「なあ、お前さん抜きでR to Rはどうやって輸送業をやり切れると思ったんだ?
無論、お前さんをラージポットに引き渡さないといけなかったと言う状況は分かっているんだが、それを抜きにした場合の話って聞いているのか?」
「想像の範囲でいいですか?」
「構わん、教えてくれ」
「簡単ですよ。アイツの…マンテローの自己評価が凄いので過大評価気味にリーダー達に自分を売り込んだんですよ。そしてこう言ったと思います。
「ミチトさんなんていらないですよ。彼が居るとチームの輪や結束が乱れるし、いつも1人で勝手に仕事をしちゃって他の人達の仕事を奪うんですから、そこら辺俺ならしっかりやれますから大丈夫ですよ」って…。
まあ、リーダーはどうか知りませんがサブリーダーは鵜呑みにしてこの先はマンテローに丸投げしたと思いますよ」
「…それ、本当に大丈夫なやつなのか?」
「ふっ…、何言ってんですか?」
ミチトが更に見せた事のない怖い顔、怒りと嘲笑と不快感が相混じった顔で小隊長を見つめると話を続ける。
「ダメに決まっていますよ。アイツは在籍しているチームに未練も愛着もないのに「誰よりもこのチームで皆さんと仕事が出来て良かったと思っています」って平気で言いますからね。
ロクにアイツと仕事をしていない人間はまず騙されます。
そして弾避け、批判避けに使っていた俺が居なくなったんです。一緒に働いていた連中もじきに違和感が確信に変わります。そしてその頃には全責任を皆になすりつけますよ。最初の数回は「ミチトが悪い」「今まで1人でなんでもやっていたから」って全部俺のせいにします。
ですがサブリーダー達だって損害が増えれば黙っていられなくなる。そうなるとさっさとサブリーダーに取り入って末端の人間やアイツと相性の悪い人間から罪を押し付けて弾劾していきます」
「なんでそこまで言い切れる?」
「アイツは酒に酔って潰したチームの自慢をしていましたし、仕事中も勝手に損切をするんですよ。依頼者がサービスで頼んできた仕事を平気で断るしサービスの内容に無知蒙昧と言い切って依頼者を小馬鹿にして怒らせます」
「あー…、わかった…すまなかった。その後始末と尻ぬぐいと責任をなすりつけられたんだな?」
「後はサブリーダーから聞き出した俺の故郷を人の住むような場所じゃないと酷評もしましたし、借りていた住まいも身元の保証も出来ない貧乏人にはお似合いの場所と蔑まれました」
「すまん。もう聞かない。だからその顔をやめてくれ」
小隊長が手を上げて降参のポーズを取りながらミチトに謝る。
ミチトは「あ…すみませんでした。つい…」と言って謝るといつもの表情に戻った。
そして丁度なのか外の2人が気を利かせたのかキリが良い所で「昼食にしましょう」と言って馬車を止めた。
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