第12話 君たちは自由だ。
朝日が出終わる前に下山し終えた。
「すみません、少し時間をください」
そう言って馬車を降りたミチトは馬に「少し休んで」と言うと狼と熊のところに行く。
「皆、ありがとう。昨日からずっとだけどすごく助かったよ。ここでお別れだよ」
そう言うと狼と熊は悲しげな声を上げてミチトにすり寄る。
「ありがとう。このまま一緒に居られたら素敵だけど、この先は人間が多いから君たちのストレスになるし、俺が行くところは危険なダンジョンだからこっちの方が安全なんだよ。
だからこの山に住むのも良いし、故郷を目指すのもいいよ。君たちは自由だ。ただ君達のためにも襲うのは昨日みたいな悪人にするんだよ?
無闇に人を襲ってもいい事はないからね」
そう言っても狼も熊も離れない。
「大丈夫、きっと君達ならうまくやれるよ。さあ、もう行くんだ。君たちは自由だよ。ありがとう。さよなら」
そう言ってようやく狼達はミチトから離れると山に入った所でミチトを見る。
「見送ってくれるの?ありがとう」
そう言って足早に馬車に戻ると馬に「ごめん、少しだけ速度を出して」と言ってあっという間に狼と熊の姿が見えなくなる。
最後に一際大きな熊と狼の声が聞こえた後、小隊長はようやく口を開く。
「約束だ。変わるぞ?」
「もう少し、次の休憩まではこのままで、手綱を引く人間がコロコロ変わるとこの子も疲れちゃいますよ」
小隊長はそう言うミチトの顔を見てなんとも言えない気持ちになっていた。
狼と熊に向かって2度「君たちは自由だ」と言っていた。
その言い方と言葉の重さがミチト自身が不自由さを訴えている風に思えたからだ。
そしてこの3日と少しで思った事がある。
還元し続けてそういう目で見ればミチトは自分のために選択をして行動したのかも知れないが、ラージポット行きも、そもそもの護送任務の失態も、今の状況も何一つ自身で選択をして行動をしていない。自由になっていない。
好き勝手に振る舞っている風に見えるが今も馬と糸目の兵士と呼んでいる兵士を最優先にしていて、その一段下では小隊長である自身達と期日までにラージポットに行く事を目的としている。
オーバーフローが見えているダンジョンに行きたがる奴は居ない。遅れる事も逃げる事もやろうと思えばできるのにしない。
そして動物達に向けた顔と人間に向けた顔の違い。
なんだか色々と歪んでいると思った。
「今日はお前さんの采配に任す。変われるタイミングになったら言ってくれ」
「助かります。じゃあ無精髭さんにも少し眠るように言いましょう」
そうしてミチトが声をかけると無精髭の兵士はあっという間に眠ってしまう。
「お前さん、やはり眠りの魔術が使えるんだな?」
昨日の疑念が確信に変わる。
「ご想像にお任せします。
今日は長い間馬車なので暇つぶしの話でもしましょうか?
R to Rって俺を含めて13人しか居ないのに一枚岩じゃないんですよ」
ミチトが突然R to Rの話を始めた。
「それで中は玉石混交、色んな奴がいます。
中に1人…万事において事態を悪化させて楽しむ奴が居るんですよ。
「聞かせたくない」って言葉、何種類かの意味がありますよね?
「自分に不利になるから聞かせたくない」や「相手の為にならないから聞かせたくない」等、そいつはこちらが「相手の為にならないから聞かせたくない」って意味で使っているのを理解しているのにわざとその相手に「自分に不利になるから聞かせたくない」と誤認させるような伝え方をするんです。
そして聞いた人間が不快感で顔を曇らせたり、困惑して憔悴するのを見て喜ぶんです」
この話をしているミチトの顔は嫌悪感や怒り、様々な黒い感情が入り混じった顔をしていた。
初めて見る顔に小隊長は背筋が凍る思いをしながら相槌代わりに頷く。
「家族を暴行被害で亡くして居るメンバーに配慮して聞かせたくなかった依頼の話なのに、儲け話を聞かせたくないって誤認させたりするんですよ。巧妙に無視できない話しぶりで言うので相手はつい油断して深入りしてしまうんです」
「それで?」
「俺が火の魔術を使えるようになったとき、治癒魔術と同じ理由でR to Rは俺に魔術師と名乗る事を認めなかったんですよ。そうしたら治癒魔術師以外に2名居た攻撃系魔術師に「ミチトさんに仕事盗られたらアナタ達どちらか追い出されちゃいますね。ひひひひひ」って挑発するんですよ。
やり取りが聞こえていた俺は全力でそれを否定するんですが、人って自分の欲しい情報を都合よく解釈して鵜呑みにするじゃないですか?結局2人居た魔術師のうち1人は任務中にボイコットをして不慮の事故を装って殺害を謀ってくるし、もう1人は更に乗せられて暗殺に踏み込んで来たんですよ」
空を仰ぎながら人差し指で円を描くようにミチトが説明をする。
「なんだそりゃ?あり得ないぞ…」
「あり得るんですよ。小隊長さんは国か貴族に委託を受けたキチンとしたチームでの仕事ですよね?だからある程度の安全と安定が保障されるんですよ」
ミチトが厳しめの声で小隊長の言葉を遮る。
そこにはあり得ないと言うのなら目の前に居る自分の事はなんと証明するのだろう?
思わずその疑問をぶつけてみたくなったが八つ当たりに過ぎないので我慢をする。
「…すまない」
「いえ、話を戻しますね。そして1人の魔術師、暗殺に踏み込んできた方は他人の力量を計るのが苦手だったんです。周りに俺が虐げられているからと言ってそれを弱いと捉えて簡単に倒せると思って直接暗殺をしようとしてまず失敗します。
でも報告をしてもそれはR to Rでは不問になりました。「トラブルなんかない」「トラブルなんかではない」俺1人が我慢をすれば、この先も上手く対処し続ければサブリーダー達は遊んでいても入ってくる報酬で毎晩大好きな酒が飲めて雇用問題、メンバー間のトラブル対処に時間を取られる事はない。そう言う考えに至りました」
ミチトが一気に言い切るとため息を大きく吐く。
「…なんだそれ?」
「簡単です。俺の代わりはいくらでも居る。大事な存在じゃないからおおごとにはしない。そういう事ですよ。実際にそう言われました。
まあ、百歩譲って好意的に捉えるなら俺を調子付かせない為にもぞんざいに扱うとかですかね?
話を戻すと、そこで終わりなんかじゃなくて事態を悪化させて楽しむ奴が性懲りも無く後がないって言って魔術師を煽るんですよ。
そしてわざと俺に聞こえる位置で殺害計画を話すんです。
精神的に疲弊させたいんでしょうね。
周りのメンバーもレクリエーションくらいにしか思っていません。
なのでチーム公認の不問です。逆に外に対して公になっていれば俺が罰せられる。R to Rはそう言う所です。
あ、殺害計画に話を戻すと、その中にあったのが魔物や危険な動物の俳諧する場所で休憩中に眠りの魔術を使って昏睡させて放置して殺そうと言う物です。
その日からすぐに命を守るために眠りの魔術がどういうものかを調べて打ち破り方を学びました」
小隊長はこれで確信が正しかったことが裏付けられた。
だが話はここで終わらなかった。
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