第9話 時代の犠牲者。

「さっきの話の続きだ。動物使いに何故ならなかった?」

「なれなかったんですよ」

ミチトが困り顔で答える。


「何故だ?あれだけの力があれば本試験だって…」

動物使いは実地試験が必要だ。

当日目の前に用意された動物達を使役してみせる必要がある。

だが初めて会った山賊の熊と狼を使役したミチトクラスの動物使いが落ちるなんて話は聞いた事がない。


「試験を受けるのって紹介が必要なんですよ。

俺にはそれがありませんから。

それに勤めた牧場は最初は乳牛の管理が主な仕事だったのに途中から食肉まで始めたんですよ。

俺は菜食主義じゃないけどやはり心を通じた動物に殺されるために屠殺台に乗ってくれとは言いたくなくて辞めてしまったんです。

辞めてから動物使いの試験を受けに行ったら紹介が必要って言われたんですよ」


「紹介…」

「ええ。それに教わったのではなく独学なんですよ。

最初は乳牛達がまったく言う事を聞かなくて、それで何とかしたくてオーナーの真似をしてみて、本当はオーナーに色々教えて貰いたかったんですけど俺は余り好かれなかったのか、何も教えてくれなくて夜中までかかって徹夜で翌日の仕事に取り掛かる事もあって、それでこのままじゃ倒れると思って何とかこの力を得ました」


ここまで聞いて小隊長には確信めいた考えが脳裏に浮かんでいた。

「なあ…。嫌な話をしていいか?」

「はい?」


「その牧場の仕事って何年前だ?」

「16の時だから4年前ですね」


「お前さん、その時はまだ国の雇用法が古いものだったのを知って居るか?」

「え?」


「あー…。やっぱり良いように使われたな。

2年前までは治安維持や安定収入、職業の安定と言った名目で各雇用者は従業員の名前を国に申請をすると一時金が支払われて居た。

その金は装備や道具を雇い主が揃えてやるようにするものだ。

そもそもは従業員に支払っても何を買っていいか分からない所に悪質な業者も居てまったく関係のないアイテムを売るんだよ。だから従業員ではなく雇用者に支払って適切な装備や道具を揃えてやって末永く働いて貰って国の治安を悪くしないようにしたんだよ。

だがそれを逆手に取って悪用した連中は過酷で劣悪な扱いをする事で折角来た新人をいびり倒して追い出すんだよ。

でも一時金は働いて1週間もすれば国から貰えるからこれを繰り返せば真っ当に仕事をするより儲けるんだ」

「じゃあ…」


「多分そのオーナーが動物使いで、使役した乳牛でお前さんをイビっていたんだと思う。

だがお前さんが牛達を乗っ取ったんだろうな。

それでお前さんが嫌がるように食肉まで始めたんだろ?」

「…なんか悪い事をしたみたいですね」


「はぁ?」

「お人好し過ぎるよ」

糸目の兵士と無精髭の兵士が呆れながら言う。


「いえ、オーナーじゃなくて牛達にです。そんなにコロコロと使役する主人が変わったら大変だなって思いました」

「そう言う事か、後はあのファイヤーボールや剣術、格闘技にしてもそうだ。簡単で良いから何があった?」

無精髭の兵士が「後はこの料理も」と質問をする。



「ファイヤーボールはR to Rの魔術師が…」

「あー、仕事放棄して代わりにやる羽目になって見様見真似なら説明いらないや」


「あ、そうですか?」と言ってミチトは説明をやめてしまう。

本当に魔術師が仕事を放棄した結果独学で習得したものなのか?

小隊長達は目と耳を疑った。


「剣術と料理は牧場の後でお世話になった道場で剣術を教えてくれると言われたのに身の回りの世話ばかりでいつまでも教えてもらえなくて、仕方なく見様見真似で覚えたので技とか何も知らないんですよ。料理は美味しいものを作れば喜んでもらえて剣術を教えてくれると思ったんで頑張ったんですよ。

でも教えてくれないのに続々と弟子をとってその弟子には剣術を仕込むんですよ。

俺なんて教える価値もないって事だろうって弟弟子から日頃からバカにされて、それでロクな剣術も教わってないのを知って居るのに練習試合って襲いかかってきたので頭にきてやり返したら破門されました」


「…それで?」

「根回しされたんでしょうね。最初は声をかけてくれた道場もあったのに約束の日に会いに行っても会ってくれずに他の道場も名を名乗ると全て門前払いされました。

それで2年半前に行く当てもなくてR to Rで世話になりました」


「格闘技は?」

「それは最初に自分を拾ってくださった師匠から初歩の技を教わりました。

とは言え拳の振り方と足の振り方だけですけどね。

初歩を5年。それから初めて技に行くと言って毎日熱心に面倒を見てくれました」


「なんで辞めたんだ?話ぶりでその師匠さんが良い人なのが伝わるぞ?」

「…面倒を見て貰って1年した時、師匠が突然病で倒れてそのまま…。当時ヒールが使えていればまた話は違うんでしょうけどね」


「じゃあ15で師事を受け始めた最初が格闘家で次が牧場で動物使い、それで半年は剣術道場で下働き、その後は今までR to Rなのか?」

「はい。結局どれも職業と名乗れるほど続けて居ませんし試験を受けるにも紹介が必要だったりして名乗れる職業もないからR to Rでも1番給料が安かったです」


雇用法が定まらなかった時期とは言えここまでついて居ない奴が居るのかと小隊長は愕然として居た。

1年の修練で山賊の腕をへし折る才能。

技を授かった弟弟子を見様見真似で返り討ちにする技術。

そして動物使いから動物を奪い取る能力。

ロクな教育もなく魔術を使う能力。

R to Rはとんでもない拾い物をしたと小躍りしたはずだ。

そして理由を付けて減給と薄給で身動きを取れなくする。

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