第8話 下手(したて)にでる男。
「とりあえず処置だけしたいんですけど良いですか?」
ミチトがそう言って小隊長の許可を得る。
「は?お前さん…」
「早くしないとこの人失血死するし生き残っても肩が動かなくなりますよ?」
慌ててミチトは糸目の兵士の鎧を脱がせる。
ここまでの深手を初級治癒魔術のヒールでは癒しきれない事を知っている小隊長は「だがヒールは…」と言うがミチトは「大丈夫ですよ。とりあえず平気なところまで治していいですね?」と再度確認を取る。
「あ…ああ」と小隊長が返事をすると「ヒール!」と言ってミチトの手が光り、その光で糸目の兵士の傷がみるみる塞がって行く。
「は?ヒール?」
「これって神殿のレベル3ミドルヒールくらい…?」
小隊長と無精髭の兵士が唖然とする中、傷の塞がった糸目の兵士は血色も良くなり起き上がる。
「だいぶ良くなりましたね?良かったです。寒くないですか?」と言ったミチトはそのまま狼に向かってヒールを当てた後で小隊長達にもヒールを当てる。
「は?長時間?」
「お前さん倒れるぞ?」
「え?まだ平気ですけど?まあ血は止まった感じですね。じゃあ狼に質問してもいいですよね?」
そう言ったミチトは小隊長たちの答えを聞かずに伏せをして大人しくしている狼に「さっきの連中の寝ぐらまで案内してくれないかな?」と言うと狼は嬉しそうに遠吠えをするとゆっくりと歩き出す。
ミチトは「んー、小隊長さんだけ付いてきます?馬車があるからあまり全員で道からは外れたくないですよね?」と言って前進をする。
「何言ってんだ?」
「いや、薬とか無いとラージポットまで辛いですよね?寄り道も問題になるかもしれないし、それに折角の薬と食料があるならこのままにしておくと腐らせるだけだから貰えるものは貰いたいんですよ」
小隊長が「…わかった。俺がついて行く。お前達は無理せずに馬車で休みながら周辺警護だ」と2人に指示を出して付いてくる。
「良かった。ありがとうございます。じゃあ2人だけだと心細いですよね?」と言ったミチトは熊に「ここの周り、あの人たちと馬車を守ってもらってもいいかな?」と言うと熊も嬉しそうに唸ってから馬車の周りで丸まった。
山賊のねぐらは馬車からそう離れて居ない場所にあった。
見立てでは最近住み着いた感じでちょっとした食料と薬品なんかがあったので全て馬車に持ち帰ることにした。
「荷物を持たせてしまってすみません」
「いや、構わない。とりあえず命の恩人なんだから下手に出るな」
「あー、なんて振る舞えばいいのかわからないんです。すみません」
小隊長はそんなミチトの態度にやれやれとため息をつく。
「見張ってくれてありがとう!君たちのご飯もあったから食べてくれるよね」
ミチトはニコニコと熊と狼に餌を振る舞う。
「水も飲んでね」
木の器に水を入れると美味しそうに水も飲む。
小隊長達はそのやりとりにポカンと口を開けてしまう。
「お前さん、動物使いだったのか?」
「いえ、これはR to Rに入る前に約1年お世話になった所で身につけました。
でも動物使いでは無かったです」
「いや、だがその力は動物使いで、奴の能力がどのくらいかは知らないが人の使役した動物を乗っ取るなんて余程の力量差がないと出来ないだろ!?」
動物使いと聞いてハッとなったミチトは「あー、そうだった置きっ放しはダメか…、あれ、焼いちゃって良いですか?もう見られちゃったから隠せませんし」と言って斬り殺した山賊と熊に倒してもらった動物使いの死体をひとまとめにするとファイヤーボールで焼き尽くした。無論、ファイヤーボールの火力ではないのだがミチトはその事も知らずに暢気に構えている。
「とりあえず今晩はここで休んで明日から移動しませんか?流石に今晩は糸目さんも多少熱が出ると思いますし、ここならこの子達が居てくれるから安全です」
「…あー、そうするよ。その代わり少し教えてくれ」
「じゃあ夕飯は俺が用意しますから食べてください」
ミチトは先に糸目の兵士の包帯を取り替える。傷口は塞がって居るがいつまた出血があるかわからないと説明をしつつ「任務が終わったら神殿に属して居る治癒魔術師に治療を受けてくださいね。俺のヒールはレベル1の初級ですから、やはり本職には敵いません」と言う。
「いや、これヒールの威力じゃ…」
「そんな褒めて乗せる必要無いですよ。R to Rでも俺のヒールはダメだって酷評されまくって居て、いつも訓練って言って怪我したメンバーの怪我を治して居ました。
でも嘘でも褒めてもらえて嬉しいです。ありがとうございます」
そのやり取りに口を挟もうとした無精髭の兵士を小隊長が止めて首を横に振る。
ミチトはそれに気づかずに手早く料理をして並べて行く。
「少し早目ですが食べて休んでしまいましょう?そして夜明け前に出て少しでも先に進みましょう」
ミチトは馬の前に行き、草と水を出すと「ごめんね。今晩から少し大変だけど頼めるかな?」と言う。
馬はブルルルと返事をしたようだった。
小隊長達はその間に食事を始めずにミチトを待つ。
「ほら、お前さんが座らないと食べられないぞ」
そう言って急かすと「気にしないでいいのに」と言って戻って来て座るなり「ではいただきます」と言って食事を始める。
食べた料理も悪くない味付けだった。
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