第7話 適職知らず。

「あら?それが積み荷?けが人じゃない?」

太った男女がミチトに気付く。


「お前さん!出てきたのか?」

「危ないから馬車の中に居るんだ」

「ここは俺達がなんとかするから」

3人がミチトを気遣う。


「嬉しいです。ここがR to Rなら「早く何とかしろ」って怒られていました」

ミチトが自嘲気味に笑う。


「何とかってこの規模だぞ?1人で何とか出来る訳が無い!」

小隊長が必死になって言う。



「あ、俺…器用貧乏なんで今までもなんとかしてきたんですよ」

そう言いながら小隊長の前に出ると一度だけ太った動物使いの男女を見る。



「あの、一応聞きますけどこの戦闘は免れませんよね?」

「はぁ?アンタ頭いかれてるの?それで包帯を巻いているの?」


このやり取りに山賊たちが嬉しそうに「けが人だから勘弁してくださいってか?」「大変でちゅね?でも人質の価値がないなら死んじゃうんでちゅよー」「わはははは」「男なんかに用は無いから死ねよ!」等と言っている。


「あー、そうなりますよね」と呆れながらに言うミチトは小隊長達に「とりあえず馬と馬車は守ってください。お願いしていいですか?」と言う。


「何?」

「は?」

「え?」


「怪我をしているので出来たらお願いしたいんですけど、ダメなら俺一人でやってみます」

そう言ってミチトが前に走り出す。


笑っていた山賊の1人が厚みのある剣を抜いて「バカか!?」と斬りかかってきた。


ミチトは長めの深呼吸をすると「破!」と言って怪我をしていない右手で殴る。

その拳は剣の持ち手を狙っていて持ち手は指がぐちゃぐちゃに折れ曲がり、肘が逆を向いた山賊が突然の激痛に蹲る。


「ひぃぃぃぃぃっ、手ぇぇぇぇぇっ!!?」

必死に折れていない腕で折れたひじを抑える山賊。


「こいつ!格闘家か!!?」

「油断するな!格闘家相手なら距離を取るんだ!!」

そう言ってミチトを囲む5人の山賊たち。


「…その剣、貰いますね」

そう言って蹲る山賊から肉厚な剣を持ち上げるとそのまま山賊の首を一刀で切断してしまう。

蹲っていた山賊は何もできずに絶命をする。

辺りに鉄臭い臭いが充満すると動物使いの横にいた狼たちがグルルと唸り声を上げて興奮している。


「兄貴!!?」

「格闘家の癖に剣を使うのか?」

「まぐれだ!リーチを埋めただけに過ぎない!かかれ!!」


5人の山賊の中から2人が襲いかかってくる。

1人の山賊は槍でもう1人が先ほど殺した山賊と同じような剣だ。


「突き殺す!」

そう言って槍で向かってくる山賊は槍ごと真っ二つにされ、その足で躊躇していた剣を持つ山賊も斬り裂かれた。

一度の拳撃と三度の剣撃で3人の山賊があっという間に絶命をする。


「こいつ、格闘家じゃなくて総合戦闘職か!?」

「なら3人で一斉に襲い掛かるぞ!!」

「隙を作るな!」


残った3人の山賊は諦めずにミチトに襲いかかる。

1人目の山賊は長刀を振りかざし襲い掛かるがミチトはそれを回避する。

そして反撃の瞬間を埋めるように2人目が更に小剣で斬りかかる。

その隙すら埋めるように3人目は火の玉を投げつけてきた。

ミチトは後ろに退きながら「魔術師…」と言う。


「よし、3人で攻めれば勝てるぞ!」

「兄貴たちの仇だ!」

「アイツを休ませるな!」


そう言ってまた長刀、小剣、火の玉と流れるような連携が始まる。

ミチトが困った顔で「どうしよう…」と言っていると後ろから悲鳴が聞こえてきた。


一瞬後ろを振り返ると二匹の狼が小隊長たちに襲いかかっていて、糸目の兵士が左肩を大きく噛みつかれていた。


そして目を前に向けると動物使いの男女の所には熊だけが居た。

「一斉攻撃よ。早く降参しなさい」と動物使いが嬉しそうに言っている。


「くそっ、最悪だ…」

ミチトが悪態をつくと接近をしていた小剣使いの山賊が「最悪だよなぁぁぁぁ!!」と言いながら斬りかかってきた。


「身体強化、剣速上昇」

その掛け声で速度の上がったミチトがあっという間に小剣使いの山賊を斬り伏せると長刀使いに向かって前進をする。


「そうはさせるか!ファイヤーボール!!」と言って魔術師の山賊が火を放ってきた。今までのミチトであれば回避を選択していたが今回は違っていた。包帯を巻かれた左手を前に突き出すと「ファイヤーボール!!」と唱えたのだ。


魔術師の山賊が放ったファイヤーボールは拳大の大きさだったがミチトの放ったそれは成人男性の頭部程の大きさだった。


魔術師の山賊が愕然とした顔で「え?それ…ファ…」と言った所で魔術師の山賊のファイヤーボールを飲み込んだミチトのファイヤーボールが直撃して魔術師の山賊を消し炭にしていた。


長刀使いの山賊が「魔術!?何だお前は!!」驚きながらミチトに向けて剣を振るう。

ミチトは「俺も良く知らない。俺は器用貧乏なだけだよ」と言って長刀使いを斬り殺して居た。



「え?何で?へ?」

動物使いの男女が情けない声で唖然としている間にミチトが狼の所に行く。

小隊長たちは狼と一進一退の戦いをしている。

どちらも死んではいないがお互い満身創痍だ。

特に糸目の兵士に至っては出血が激しくて倒れてしまっている。


「ほら待て!」

ミチトは剣を捨てて素手で狼の額に手を置く。

上から手が出る事を嫌がる狼だが唸り声をあげるだけで何もできなくなる。


「はぁぁ?なにやってんのよアンタ達!さっさとこいつを殺しなさいよ!!」

動物使いの男女が金切り声を上げながら叫ぶが遂に狼は大人しくなる。


「よし、怪我をしているんだから伏せをして休むんだ」

そう言って狼を休ませると動物使いの男女を見る。

怯えた様子の動物使いの男女は「やっちゃって!」と言って熊をけしかけてきた。



「まずい!来るぞ!」

「熊なんてどうすんだ!?」

小隊長と不精髭の兵士が困惑するがミチトは何事も無い様子で前に出ると熊に向かって手を出す。


「よし、わかってくれて良かったよ。駄目だったら戦わなきゃいけなかったよ」

そう言って話しかけると狼の時と同様に始めは唸り声をあげて威嚇していた熊があっという間に大人しくなる。


「はぁぁぁ?何で私の熊と狼が大人しくなってんのよ!?」

「何でって。お願いしたんです」

普通の事だと言わんばかりに説明をするミチト。


「そうじゃないでしょ?何で支配権を奪ってんの!?アンタ動物使いなの?」

「いえ、その適職を貰ったことはないです」


「じゃあ魔術師なの?」

「いえ、その適職も…」


「じゃあ…」

「剣士も戦士も格闘家もありません」


「はぁぁぁぁ?」

「すみません、適職知らないんです。とりあえず俺器用貧乏なんで、なんとかしちゃっただけで適職って教えて貰った事ないんです」

そう泣きそうな顔で言いながら熊の頭を優しくなでると熊も嬉しそうにする。


ミチトは「とりあえず生かしておくと良いことが無いので死んでください」と言った後で熊に「ごめんね、ちょっとお願いしてもいいかな?」と聞くと熊が嬉しそうに元主人である動物使いの元に走って行って首をかみ砕いていた。

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