騒音論
私は不眠症である。
ここしばらくは長いこと熟睡と言える程長い時間すやすやと寝た記憶はない。
不眠症の原因には色々な謂れがある。
仕事のストレス、漠然とした不安、体調不良の症状によって眠りが阻害されたり。
目が回る程酒を飲んだ時も目を瞑ると息苦しい暗闇の中で目だけが回っている感じがして気持ち悪くなって寝れないなんて事がある。
そうして寝入るタイミングを逃すと不思議と動悸が激しく感じたり足元がむずむずしたり熱くなってきたりするのだ。
思い付く所でこんなものか。
どれも不快極まりない所だが私はどれに当て嵌まるか。
実は前述のどれも当て嵌まらない。
いや嘘をついた。
酒を飲み過ぎてと言うのはごくたまにあっただろうか。
そうだあったな。
あったから酒の例だけやたら具体的に書けたのだ。
じゃあ酒以外で何が私を不眠症足らしめているのか。
それは夜更けを迎えれば自ずとわかる。
夜の帳が降りきった頃。
ふおんと遠くから金管楽器の鳴り損ないのような音が微かに聞こえた。
今日もやって来たぞ。私の不眠症の原因そのものだ。
音の発信源が段々近づいて来るにつれ、パーカッショニストのソロプレイに続々と他の楽器がセッションに参加していくようにたくさんの音が大きくズンズン響いてくる。
もうお分かりだろう、夏の夜の風物詩、暴走族だ。
およそ10人以上のビッグバンドが金銀キラキラとしたバイクに跨がりエンジンを勢い良くふかしながら高速のパレードが開催されている。
私の住むこの家は田舎の静かな田面道路沿いにある。
見た事のある者はわかるだろうが田舎の国道は広い。
その上夜は車の通りも少ないもんだから暖かくなってくるといつもこうだ。
先程私はここしばらく熟睡出来ていないと言ったが、そのしばらくとは夏の初め頃から世間が盆休みと言う今日までの間の事だ。
もう3、4週間程ろくに寝ていないのだ。
若者達は夏休みなのだろうか。
だとしたら恐ろしい事だぞ。
若者達の夏休みが終わる9月までこの不協和音の合奏会を毎日聞かされる事になるのだ。
またここ最近ずっと天気も良い日が続いてるのだから絶好の暴走日和なのだな全く。
これが走り去って行ったら終いだろうと読者殿は思うかも知れないがこれが田舎の困った所で、別に目的地になるような所が無いんだろう
しばらくしたらUターンして来て頼んでもない爆音アンコールをもう1曲聞かされるのである。
そう、これが私の不眠症の最たる原因だ。
もちろん仕事にも大きな支障が出ている。
1文章書く度に誤字脱字をするようになり集中力が続かないなんて事が多々あった。
だがしかし。
実は私はこの暴走行為を見ているのが満更でもないのだ。
自分でも変わり者だと思う。
ただ何故満更でないのかと説明すると僅かだが共感してくれる者もいる。
あの若者達もきっと不眠症なのだ。
きっと彼等は仕事か学校かわからんがそこでストレスを溜め込みつつ将来に対して漠然とした不安を抱え生きているのだ。
そんな傷だらけの精神を搭載した若く生命力に溢れる体からはやり場の無いエネルギーが今にも爆発せんとばかりに膨張しているのだろう。
そのエネルギーをオーバーヒートさせないよう上手く発散させる為に取った手段がこの暴走行為なのである。
そう考えると私は不眠症に苛まされながらもどうも憎み切れずにいた。
たかが夜寝付けないだけでそんなすぐに死ぬ訳でも無し。
自分の仕事に影響があろうがそんなものは気を付ければ良いし、もしミスをすれば直せば良い。
だから若者達よ。
思う存分走れ!
心行くまでマフラーを吹かし鳴らせ!
精一杯発散し不健全たる青春を謳歌せよ!
その先どうなるか等考えなくとも良い。
どうせいつかは永遠に眠れるのだ私もそうだ。
今は好きなだけ
狂走曲を大合奏するのだ。
その精神の赴くままに。
今を満喫するが良い。
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