第4話 採用

「ふーーっ」 


例の役所に着いた。 

今日からここが俺の職場となる。 

あの意味不な面接の後、俺はてっきり落ちたものだと思っていたが 

なんと、採用されていた。 

人生、何があるかわからない。 

やはり、俺は大天才なのかもしれない。 

勤務の初日である今日は、業務の説明があるらしい。 

採用されてから言うのもアレであるが、実はどんな仕事をするのか 

未だによく分かっていない。 

 

俺は早起きは別に苦にならないので、早めに出勤した。 

この場合、正面から入れば良いのだろうか。 


またしてもウロウロしていると、あの声が聞こえてきた。 


「おはようございます。割山さん。お早いですね。」 


「ぉあ? ああ、どうも おはようございます。」 


俺の面接の相手だった、例の美女である。 

何か珍しい苗字であったような気がするが、思い出せない。 

しかし改めて考えると、この女が同僚となるのだから悪い話ではないかもしれない。  


「今日からですよね? ご案内します。」 

 

「はぁ どうも」  

 

同僚となる予定の人に連れられて、職員用の出入り口へ向かう。 

改めて見ると、この女、相当器量が整っている。  

なんで役所勤めなんてしているのだろうか。 

テキトーな男に貢がせておけば、楽に暮らせそうである。  

が 事情があるのだろう。ホスト狂いなのかもしれない。 

 

割山が相も変わらず無礼極まりないことを考えていると 

二人は出入り口の前に着いた。 

そして役所の建物の中に、二人は入っていく。 

しばしの沈黙の後、女が口を開く。 


「雇用契約書はご確認いただけましたか?」 


「あーー 一応読みました。」 


「割山さんは、期限付きの契約公務員といった雇用形態となります。」 


「ああ、そうですね。」

 

まぁそうだろう。ろくな学歴も経歴もない俺が、正規職員として採用される 

はずがない。 

言われた仕事をやるだけだ。 

やはり、悪質なクレーム対応とかだろうか。 

水際作戦とかは、なんとなくやりたくはない。 


二人は建物に入った後、申し訳程度の会話をしながら進んでいく。  

そして長身の二人組は、やや広い会議室のような部屋に着き、その部屋に入室する。 

その部屋には、例の男が待っていた。 


「どうも、割山さん。お待ちしていましタ。」 


あのガタイの良い男である。やはり、名前が思い出せない。 

そして俺は、部屋の中の椅子の一つに座るように指示される。 

 

「改めまして、割山さんと同じ部署になります、弐式です。」 


「同じく錦条です。よろしくお願いいたしまス。」 


「…ああ、どうも 割山です。よろしくお願いいたします。」 


「これから、あなたの担当する職務について、映像資料を視聴していただきます。」 


「あ、はい。」 


よくわからんが、なんかの映像をみせられるみたいだ。 

心得7カ条 みたいなものだろうか。 

とにかく、寝ないようにしなければならない。 

 

そしてプロジェクターが作動し、映像が再生される。 

しかしその内容は、またしても俺の予想とは違うものだった。 

30分程で、映像の再生は終了した。  

 

「…えっと、なんですか、これ?」 


その映像は、なんとか法とかいう法律を解説するものだった。 

まずこの国の状況について、軽く振り返っている。 

少子高齢化、格差拡大、社会的不安の増大 などなど 

俺でも聞いたことがある話題だ。あまり関心はなかったが。 

そして、そうした状況に対応するために施行されたのが、この法律であるらしい。 

なんだか難しい話だ。残念ながら、俺のキャパを超えてしまっている。 

 

しっくりきていない割山をみて、弐式が補足を始める。 


「つまり、我々の職務は、この映像の法律に基づき執行されるのです。」 


「はぁ… すみません、よくわかんないですね」 

 

正直な感想が出てしまった。採用取り消しとかにはならないだろうか。 

しかし、そんな俺の様子をみて、むしろ弐式とかいう女は満足そうであった。 

 

「やはり、高い適性をお持ちですね。割山さん。」 


「…恐縮です。」 


またしてもよくわからんことを言われる。この女、無表情でボケまくるタイプの 

人間なのだろうか。 

割山の集中がやや切れ始めた頃、弐式は表情を変えぬまま、より核心に入っていく。 

 

「つまりは割山さん。私たちは、尊厳死を希望する人々と面接を行い、 

その可否を総合的に判断する、そのような職務を行うのです。」 


「……尊厳死…?」 

 

 

なじみのない言葉が、割山の耳に届く。

流石の割山も、困惑せざるを得なかった。 


 

 

 

 




 





 


 

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