第3話 面接

「受験番号2221の割山です。よろしくお願いします。」  


「こんにちは。本日の面接を担当いたします弐式です。」 

「同じく錦条です。よろしくお願いします。それではお座りくださイ。」

 

まさかあの美女が面接官だったとは。しかしながら受験前にトイレに行ったことが 

合否に影響するとは思えない。それにしても弐式とは珍しい苗字である。

 

「実を言いますと、割山さんとはずっとお話したいと思っていたんでス。」 

彼女の隣の男がいう。これまた隣に劣らない美男子である。

座っている姿であるが、ガタイも良い。

お話したかったとはどういうことだろうか。

残念ながら俺は男には興味がない。 そもそも初対面である。

 

「オンラインの一次試験の結果が、割山さんの非凡さを示していました。 

本日の二次試験と合わせまして、大変すばらしい数値でした。」


今度は例の美女が話す。わけのわからないまま褒められることほど 

気味の悪いことはない。ただただ困惑する。出来の悪いコントのようだ。  


「申し訳ありません。お二方のおっしゃっていることが良くわからないのですが」 

  

「実は本日の試験は二次試験、三次試験でして、一次試験はオンライン上の応募の 際に合わせて行われていたのです。入力フォームに、一次試験の問題も掲載されて

いましたが覚えていませんか。」  


「あ 応募は酒飲みながら入力したので、ちょっと定かではないです。記憶のはて

ですかね はい」 

既に自分の敬語が崩壊しつつある。こうなれば勢いだ。こういうとき、自分が 

無表情な人間で良かったと思わざるを得ない。  


「期待通りです。それではこの度の志望動機及び死生観について 

お聞かせください。」  


期待通りとは何だ。 皮肉か。志望動機の他に何か聞こえたような気がする。 

 

「はい まず私としては、以前より公務員の職務について興味がありまして、よって多角的な観点が必要ではないかと考えまして、え、まあ 憧れといいますか、なんといいますか いわゆる一つの公共性が重要であるとの結論に至り、志望しました。」 

  

これはまずい。どこかの名誉監督みたいになってしまった。  


「公務員の職務において、何が一番重要であるとお考えですか。」  


「公務員かどうかに関わらず、仕事は仕事だと思います。その えっと  割り切りといいますか 住み慣れた我が家とは違うといいますか  

あくまでもビジネスパートナーだ、仲間じゃない みたいな です。  はい」 

 

アカン。 質問に答えられていない。

 

「すばらしい素質をお持ちですね。期待以上です。最後に今年4月から全国で 

施行された、総国民尊厳保全法についてご存知ですか。」  


尊厳? なんだそれは。  


「 そうこ…   申し訳ありません。知りません。」  


「テレビ等のマスコミでニュースにもなっていると思うのですが。」 

 

「私の家にはTVはありませんし、政治はよくわかりませんし、この質問の意味も よくわかりません。まぁ N○Kとは仲良くやりたいと思っていますよ ははは 」 

 

完全に失敗だ。すぐに帰りたい。いっそのこと、全裸になって目の前の美女に抱き着いてやろうか。ていうか揉みたい。  

 

「最後に質問はありますか。」  


「ちょっと今は何も信じられないです。自分に質問したい感じですね。」 


「大変参考になりました。ありがとうございましタ。」 

 

「結果は合否に関わらず郵送にてお知らせします。本日はお疲れ様でした。 

お気を付けてお帰りください。」

 

退出する。建物の出口に向かう。どっと疲れが出る。 

散々だ。自分の準備不足といえばそれまでだが、あの二人が言っていることは 

よくわからなかった。しょうがない。こういう時は酒を飲むしかない。  



手ごたえが無かったので、試験を受けた後、レストランとドラッグストアに面接を

申し込んだ。そういえば俺には大した資格もない。今更だが、普通科なんかには 

行かず、工業系にでも行けばよかったとも思うが、問題はそこではない気もする。

 

そんなこんなしていると、郵便が届いていた。先日の採用試験の結果である。 

ライターで消し炭にしてやろうかと思ったが、一応結果を確認することにした。 

そこには意外な結果が記されていた。

 


   

 

 


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