第43話 絵里奈の覚悟


「大樹、きちんと聞いてね」


「うん」


「物心ついた時から、いつも大樹は、私の側にいてくれた。幼稚園も、小学校も、中学校も、そして高校も。

 私が、中学校の頃、告白された男の子を好きだった女の子からいじめられそうになった時も、大樹は、はっきり僕の彼女だと言って、その女の子からのいじめを防いでくれた。


 高校の時は、変な男に襲われそうになった時、私を救ってくれた。それから危ないからと言って、一緒に登下校もしてくれた。クラブで遅くなってもいつも待っていてくれた。

 その頃から、大樹を好きになって。だけど気付かれるのが恥ずかしくて、ちょっと強くいつも出ていた。


大樹は、全然気付いてくれなかったけど、私をいつも優しく、大切にしてくれた。大樹が側に居てくれるのが、当たり前になっていた。大樹が、私の我儘を聞いてくれるのが当たり前になっていた。


そんな大樹は、どんどん背が高くなって、勉強も出来て、運動神経も良くて、とてもモテた。いつも知らない女の子が、大樹の側で話していた。

だから、私は、大樹に女の子が迫ると、私の彼ですと言って、諦めさせた。


でも、このままじゃ、いずれ大樹にばれてしまう。恥ずかしいから、大学を別にしたの。理由にならないかもしれないけど」


 

「・・・気付いていたい。でも、俺も恥ずかしくて」

「えっ、・・・」


「僕は、幼い頃から、絵里奈の事は、僕が守る子、大切にする子と思っていたよ。そして、絵里奈の前では、絶対嘘つかないと自分で決めていた。おかげで、彼女らしい子は、全然できなったけど」


「・・大樹。貴方が、私の初めてを貰ってくれた時、決めたの。私は、この人に一生付いて行こうと。いつも側に居ようと。

 だから、もうはっきり言う。大樹、愛している。私を一生守って。大樹と一緒に生きて行きたい」


・・・・。


「大樹が桂さんを愛しているのは、知っている。・・・大樹と一緒になれるなら、桂さんを愛していてもいい。・・・大樹と結婚したい」


・・・。


周りの人に注目されているのが分かった。


「絵里奈。出よう」


二人で、近くの都立公園の方に歩いて行った。


 僕は、絵里奈は、大切な人。一生守っていかなければいけない人。どんな我儘でも聞いてあげる人。絵里奈を初めて抱いた時、僕は、この人が好きなんだと気付いた。

 でも、向かいに住む幼馴染に対する義務的な感情も入っていると思っていた。

絵里奈は言った。一生守ってと。それは愛情からきた言葉だとしたら、僕は、何か勘違いしていたんだろうか。絵里奈に対する愛情を義務と勘違いしていた・・・。


 もう少し考えたい。



「絵里奈、ありがとう。はっきり言ってくれて。

・・もし、僕が、絵里奈を選ばなかったら、どうするの」


僕の前にいきなり回り込んで

「大樹が他の人を選んだら自殺する。大樹がいない世界なんて生きていても意味ない」


いつものはっきりした顔で、僕の目をしっかりと見て言った。


・・・・そこまで。



 十月も終わる頃、朝一番で書留郵便が届いた。A4の厚い書類だ。送り主は、広瀬麗香様と書いてある。送り主は、僕の出身大学だ。


麗香は、急いで、ニューヨークに赴任している両親の元に連絡した。

今は、スマホやPCで映像付きの電話が可能だ。


「麗香、おめでとう。良かったな」

「うん。ありがとうお父さん」

「麗香、おめでとう。良かったわね」

「うん、ありがとうお母さん」


「これで、受験勉強は終わり。滑り止めもみーんな必要無しだー」

「あはは、気を抜きすぎて、病気や怪我をしない様にね」

「お母さん。大丈夫だよ。」

「お父さん、入学手続きがある。お父さんの署名や記入してもらう箇所があるから、一度日本に戻ってきてほしんだけど」

「大丈夫だ。こういう事なら、最優先で帰国するよ」

「ありがとうお父さん」



大樹のご両親が、先週帰って来ている事は、聞いていた。大樹に自分の気持ちを話してから進展はない。もう三週間。桂さんとの事は知らない。

せっかく、ご両親が帰って来たのだから、何か、一歩進める手立てはないのかな。

そうだ、お母さんに相談しよう。

 そして、私は、大樹に対する気持ちをお母さんに話した。当然、お父さんにも話は伝わるはずだ。


「お母さん、絵里奈さんのお母さんから、電話」

「はいはい」


『はい、お久しぶりです。突然ですが、三橋さん。娘の件で、少しお話したいことがあるので、お時間頂けないでしょうか。できれば、ご主人も一緒に』

『絵里奈さんの件ですか。私は、構いませんが、主人の都合は聞いてみないと』

『分かりました。ご連絡待っていますね』



「そうなんですか。絵里奈ちゃんが、そんなに大樹の事を。全然知らなかった」

「大樹は、そう言う事は言いませんからね」


「それで出来れば、ご両親が帰国している間に、両方の親が認める何か形にしてあげたいと、親ばかながら思っているのですよ」


「まあ、息子と絵里奈さんが、そこまでの関係であれば、問題ないでしょう。一応、息子にも確認しますから、今日の夜まで、返事は待って頂けますか。

 いや、断るとかは無いと思いますが、今の段階で息子が、そこまで考えているか、確認しないと。これは本人達の意向が重要なので」


「そうですね。失礼ですが、日本には、いつまで」

「二週間です。もっとも、その後、一ヶ月もすれば、クリスマスウィークで、三週間ほど、帰国しますが」

「それでは、ご連絡をお待ちします」



―――――


絵里奈さん、攻勢に出ましたね。



面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。



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