第42話 大樹の気持ち


 参ったな。なんで最近このフレーズばかりなんだろう。絵里奈と明日会う事になっている。家に来ると言っていた。まだ考える時間が、少しある。


何気に、ポケットのスマホを見た。

あれっ、絵里奈からだ。今すぐ会いたいって・・。明日、会えるのに。受信時間を見ると三十分前だ。まだいいか。おもむろに返事をした。

『どこにいるの』


ベッドの上に置いてあるスマホが震えた。大樹からだ。遅いよ。

『もう家。でも会いたい。今どこ』

『もうすぐ家に着く』


家は、もう目の前。と思ったら、絵里奈が、家から飛び出して来て、僕に走って来る。

いきなり、抱き着いて来た。


「うわっ」

「大樹、大樹、大樹」

そう言うと、泣き始めた。近所に聞こえそうな声で。仕方なく、背中を擦りながら

「どうしたの」

「私、私、犯された」

「えっ、えー」

「ちょっと、僕の部屋に行こう」


仕方なく、妹には、緊急という事で了解してもらった。麗香も絵里奈の様子が尋常じゃない事がすぐに分かったようだ。


部屋に入っても、僕に抱き着いて、泣き付いている。こうなったら待つしかない。


涙が止まるとじっと、僕の目を見た。この雰囲気は・・・。雰囲気を切らす様に


「絵里奈、ゆっくり話してごらん。何を聞いても驚かない。絵里奈は、僕の大切な人だから」


少し間をおいて話し始めた。

僕が、桂を愛していると言って飛び出したけど、僕からの連絡を待っていた事。

会社の同僚から食事に何回か誘われて、今日デートした事。

そのデートの終りで、キスをされそうになった事、お尻を触られた事。

「みんな大樹が、私に連絡くれないから。寂しいから。・・・」


何か話がおかしい、絵里奈は犯されたと言っていた。まさか。


「絵里奈、犯されたって、言ったのは、お尻を触られた事」

「うん、だって、私の体は、全部大樹のもの、他の人には絶対触られたくない」


はーっ、そこまで、僕の事を。

「分かった。辛かったね」

また泣きだした。


「大樹、あの気持ち悪さ、忘れたい。抱いて、今から」

「えっ、いや、それは。それに隣で麗香勉強しているし」

残念そうな顔をして

「どうしてもだめなの」

「うん」

「どうすればいいの。私、あの気持ち悪さが、お尻に残っている。忘れさせて」

仕方なく


「絵里奈、立って」


頭に疑問符を描かれながら立たせると、唇にキスをした。少し濃い目の。絵里奈が、動かない様にしている。僕はゆっくりとお尻に手を持って行った。


 最初、ビクッとしたが、段々、体を僕に預けるようにして来た。口を開けてきている。舌を少し入れてみた。絵里奈の舌が、僕の舌に始め突くように恥ずかしさを出しながら、段々からませて来た。

 強く抱きしめて来た。どの位経ったのか分からないが、絵里奈がゆっくりと体を離してきた。


「ありがとう。大樹」

「忘れる事で来た?」

「うん。しっかり出来た」

「良かった」

「じゃあ、大樹、明日来るね」

そう言うと、僕の部屋を出て行った。


玄関から出るのを見送る。絵里奈が向かいの自分の家の玄関に入ろうとした時、こっちを見て笑いながら手を振って、入って行った。


玄関の鍵を閉めて、振り返ると


「お兄ちゃん。リビングに行かない」

妹が、真面目な顔をして言っている。


リビングのソファに二人で座ると、

「お兄ちゃん、二つ言いたいことがある。

 一つは、私、もうすぐ、推薦の試験がある。二週間後。今、そういう立場にいる妹が同じ屋根の下で暮らしているという事を、頭にもう一度、しっかり入れて。言いたいこと分かるよね。


 二つ目は、・・。お兄ちゃんの人生だから、妹の私が、何を言う資格は、無いけど、でも兄妹として、言わせて貰うけど、私から見ても、お兄ちゃん、ふらふらしすぎ。

お兄ちゃんは、どっちつかずでもいいと思っているかもしれないけど、花屋の店員さんも絵里奈さんも相当に真剣よ。もう方向性決めた方がいい。こういうのは、先延ばしにすればする程、傷が深くなるわ」


「なんか、妹に言われる言葉じゃないけど、その通りだな。所で何故、桂、いや、花屋の店員の事知っているんだ」


「駅前のお花屋さんでしょ。ボーイッシュで可愛い感じの女性よね。知っているわ。お兄ちゃん、あそこで立ち話していたり、駅で待ち合わせしたり、良く見たもの。地元だからね」

「はあ、そう言う事」


翌日、昨日の件もあり、僕は、十時位には、目が覚めていた。


どうすればいいんだろう。


僕は、桂を愛している。絵里奈の事が無かったら、間違いなくプロポーズしている。


僕は、絵里奈が大好きだ。一番大切にしたい人。この好きは、愛ではないけど、言葉では、表現できない。何が有っても守りたい女性だ。


もう、時間無いのかな。もう少し、今のままで居たかったけど、桂と絵里奈がお互いを意識している以上、はっきりさせなければ、いけない時が来ている。




ピンポーン。

ガチャ、

パタパタパタ、

トントントン。

ギーッ。


「大樹起きてる。あっ」


そう言うといきなりベッドの上に乗っかって来た。


「分かった。起きる」

「だめ、私が、お目覚めのキス・・・」

口を顔に付けてきたので、両方の頬を引っ張った。

「にゃにひすんでひゃか」

「朝から、発情しない。起きるからどいて」

「ひゃーい」


絵里奈がしっかり退くまで、頬を引っ張っていた。頬を擦るながら

「ひどいよ。大樹。女性の頬を引っ張るなんて。顔はデリケートなんだよ」

「絵里奈がもうしなければいい」

「ぶーっ」


起き上がって、パンツ一枚になると

「キャーっ」

顔を背けて、手で目を塞いだ。


開けているドアがノックされた。


「お兄ちゃん、絵里奈さん。もうすぐ推薦の試験があるって言ってなかったっけ」

腰に手をやって、ぷんぷんと怒っている妹がドアの前に立っていた。


「「済みません」」


仕方なく、僕が着替えると、二人で駅前と言っても隣町に近い方にあるコーヒーショップに入った。

 絵里奈がコーヒー。僕がコーヒーとモーニングサンド。


絵里奈と僕がコーヒーを飲みながら、少し黙っていると

「大樹、きちんと聞いてね」


そう言って、僕の目を見た。



―――――


絵里奈さん、なにを言うんですかね。



面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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