第37話 幼馴染が見たもの

済みません。投稿が遅れました。


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まったく、何を好き好んで、八時まで残業させた後、打合せだとか言って、誘うのかな。上司だから、仕方なくついて行ったら、私の体を見るわ見るわ、気持ち悪くて仕方ない。三十分で切り上げて来たけど、もうすぐ十時。早く帰らないと。


電車が降りる駅のホームに入って、他の人と一緒に降りた。


あれっ、大樹。

声を掛けようとした時、女性が大樹の手を掴んで嬉しそうに微笑んでいる。


 えっ、あの子。花屋の店員。そんな。


二人は、そのまま改札を出て、私たちが住む家の方向とは逆の出口に向かった。不安と好奇心で、後を付いて行くことにした。


二人は酔っているらしく、周りを気にしない。女性が、大樹の腕にべったりと体を付ける様に自分の腕を巻いて、歩いている。


 駅から歩くこと数分、我が家と駅を基点にして丁度反対側の様だ。住宅街を歩く二人が、歩くのを止めた。


 大樹が、女性に振り向くと、手を女性の背中に回した。女性も大樹の腰に手を回す。二人の顔が近づくと、口付けをした。見ていても甘―い口付けだ。


 二人の手の力が強くなりしっかりと抱き合っている。

 長い。人が来ない事を良い事に・・・。やがて人の気配を感じたのか、二人は体を離すと、女性が、大樹の耳元で、何か囁いている。


 大樹が、頷いている。もう一度二人が、口付けを交わすと、女性は名残惜しそうに家の中に入って行った。


 えっ、えっ。どういう事。大樹には、あの会社の女しかいなかったはず。大樹の話では、もう退職したと言っていた。理由は聞かなかったが、大樹と私の間に、邪魔者はないと思っていた。どういう事。


 あっ、大樹が戻って来た。私は気付かれない様にその場を離れた。


家に戻る間、今目の前で起きていたことを理解するに必死だった。まったく、予想外だ。一度会ったが、大樹と今の様な仲になる様子なんてかけらも無かった。だからあの時は、無視した。


ベッドの上で寝られずにいる。年末までには、大樹から婚約の約束をさせ、ご両親が、一時帰国した時、正式に婚約する。そして結婚。そうする、そうできるはずだった。


 なんなの、あの子は。・・大樹にはっきり聞こう。これだけの関係になっているんだもの、聞いてもいいよね。


 通勤途中、ポケットに入れたった。スマホが震えた。絵里奈からだ。

『大樹。今度の土曜日、会いたい。家にいて』


いつもながら、こっちの都合聞かずの約束。まあ、仕方ない。特に予定も無い事を頭の中で確認すると


『分かった』


時間書いていないから、待っていれば、好きな時間に来るだろ。


ピンポーン。

 絵里奈だろうと思って、玄関に行く。案の定、彼女だ。


ガチャ。

「大樹。部屋に行っていい」

「えっ」

「二人だけで話したいことがある」


いきなり、なにっという感じだったが、僕の言葉に耳も貸さずに、二階に上がって行った。

 ベッドの上に座って、じっと僕の顔を見ている。こういう時は、絵里奈が話し始めるまで、何も言わない事が、過去の経験で分かっている。


「大樹・・」

「なに」

「・・私の事。好き」

「好きだよ」

「幼馴染としてではなく、異性としてだよ」

「うん」


また、黙り始めた。


「大樹」

「なに」


「・・私が、もし、もしだよ。結婚してって言ったら、・・・大樹から私にプロポーズしてくれる。今すぐでなくてもいいから」


「・・・」


「なんで、黙っているの」

「いや、絵里奈の言っていることが、急すぎて。頭が追い付いていない」


「・・・」


「・・・」


「・・・私、見たの。大樹が、女の子とキスしている所」

「えっ」


「この前、十時頃、電車が駅について、大樹がホームにいたから、声を掛けようと思ったら、女の子と一緒だった。・・」


あの時だ。


「誰なの」


「駅前の花屋の娘さん」


「大樹。大樹が、私以外の女性と出会うのは、仕方ないと思う。でも、いつかは、その時は、私だけを見てくれるようになるんだよね」


「・・・」


「なんで、なんで大樹。私だけ見てっていったでしょ。他の女なんか、見ないでよ。あんな女の事なんか見ないでよ」


「あんな女は無いだろ、絵里奈。桂は、控えめで、優しくて、思いやりのある人だ。あんな女なんて言うんじゃない」


途中までは、絵里奈の気持ちも理解できた。でも桂の事を悪し様に言うのは、許せなかった。


「桂って言うんだ。・・好きなの、あの子の事」

「愛している」


「えっ・・愛しているって・・。そんな・・。だって、私には言ってくれたことない」


さっきまで我慢していた涙が零れて来た。

私には、好きとは言ってくれても愛しているとは、言ってくれない。ショックだった。

大樹の目を見た。言い間違えた顔じゃない。


「大樹のばか。ばかばかばか」


その後、大樹の部屋を飛び出して、自分の家に戻った。


「絵里奈・・・」


 今は選べない。絵里奈の事も大切だ。彼女の言う通り、いずれ一緒になる可能性は十分に考えられる。でも僕は桂を愛している。・・今、選択しろと言われたら桂を選ぶ。でもいまは選択したくない。



「お兄ちゃん。大丈夫。さっきから、お箸動いていないよ。美味しくないの」

「えっ、いやそんな事無い。麗香のご飯は、いつも美味しいよ」

「何か、有ったの」

「・・・。絵里奈と喧嘩した」

「絵里奈さんと喧嘩。いつもの事でしょ」

「ちょっと重い」


「そっか。お兄ちゃん。もし、あっちで悩んでいるなら、いつでも胸貸すよ」

そう言って、成長中の胸を大きく張った。


「ははっ、ありがとう。嬉しいよ。今回は、自分で解決しないといけないんだ」

「・・分かった。お兄ちゃんだったら、私いつでもいいから」

「そうか、ありがとう」

何かニュアンスが違うような気もしたが、いつでも相談に乗ってくれるという事だろう。


「お兄ちゃん、意味分かってないのかな。この前も、触らせてあげたでしょ」

そう言ってもう一度胸を張った。


「分かったから。麗香、気持ちだけで十分だよ」

「もうっ」

私は、いつだっていいのに。お兄ちゃんだったら、初めてをあげても良いと決めているのに。この鈍感が。


「麗香。何か良からぬこと考えていなかった」

「別にーっ」


麗香のおかげで夕飯をお腹いっぱい食べた後、風呂に入って部屋にいる。

次の日曜日、絵里奈から何か連絡あるかなと思っていたが、何も無かった。それどころか、一週間、全く連絡ない。やっぱり、あの事ショックだったからか。



―――――


花屋の店員、柳瀬桂さんの事が幼馴染の絵里奈さん知られました。

絵里奈さん。どうするのでしょ。次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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