第38話 桂の家庭事情


私は、お母さんと一緒に毎日、世田谷市場に来る。ここは、青果と生花や花木を扱っている市場だ。幸い、ここは家から近い。


「今日も素敵な花、仕入れられたね」

「ええ、桂が、お店を手伝ってくれるようになってから、売上が右肩上がりで、お母さんも嬉しいわ」


「まさに、看板娘ね」

「その通りよ。でも桂、お店の事、考えてくれるの嬉しいけど、最近お付き合いしている人、どうなの。もし、桂がお嫁に行きたいなら、お店の事、気にしなくていいのよ」

「えっ、大樹さんとは、まだそんな」

「大樹さんって言うんだ」

「う、うん」

乗せられた。


「ねえ、桂、今度、お母さんに合わせて、大樹さんを」

「えっ、でも」

「だって、もう最後まで行っているんでしょ。桂の様子見れば、分かるわ」


下を向いてしまった。さすがに恥ずかしい。分かるものなのかな。


「分かった。聞いてみる」

「お願いね。大切な一人娘だもの。桂が選んだ人、しっかり見てみたいわ」

「しっかり見るって・・」



「お父さんが、亡くなってから、三年ね」

「ええ、ごめんね。本当は、桂に大学に行かせてあげたかったのだけど・・」

「気にしないで。大学に行ったからって、何も変わらないわ。今が幸せだから、私は、これでいい」


今日も、一日、忙しかった。

ポケットに入っているスマホが震えている。

あつ、大樹だ。


『桂、会いたい。』

『いつにする』

『明日、午後六時にいつもの所で』

『分かった』

珍しいな。いつもは二週間に一度なのに。でも毎週会えるのは、嬉しい。本当は毎日でも良いけど、それは無理。今は。


「桂、誰から」

「うん、大樹さん。明日会いたいって。良いよね」

「桂が、都合聞くなんて、珍しいわね」


 大樹とは、いつもの様に食事をして・・・えへへ。


でも、何か違う。食事をしている時も、抱かれている時も、なにかやるせない感じがした。いつも、私を大事にそして優しく抱いてくれる。今日は、何かを忘れようとしているような気持ちを彼から感じた。

 

彼に送って貰った後、心の底に詰まるものが出来た。



「桂、昨日も遅かったわね」

「うん」

昨日の事を思い出すと、少し微笑んでしまった。


「あらあら、心も体も大樹さん」

「えっ」

今度は下を向いてしまった。直接言われると恥ずかしい。


「桂、今日、お店閉めたら、少し話したいことがあるの」


なんだろう。軽く考えていた。



「桂。お母さん、再婚しようと思っている」

「えっ」

さすがに驚いた。


「お父さんが無くなって、まだ三年しかたっていないのに、ふしだらなと思うでしょうね。でも、お父さんが無くなって、桂だけに頼ってばかりだった。

 私が、桂の未来を奪ってしまっている。本当は、大学を出て、好きな職業について、素敵な人と結婚して、家庭を持つ。そしていつか孫を見せてくれる。

 そんな、桂の未来をお母さんは、壊すことになって、いや、もう壊し始めている。だから、お母さんが再婚すれば、桂も今の束縛から解放されると思ったの」


「・・・お母さん。私は、束縛なんかされていない。大学出ても、このお店を手伝ったかもしれない。素敵な人が見つかっても、お店手伝う事出来るよ。近くに住めば、孫だっていつでも見せられる。だから、そんな考え止めて。

 お母さんが、その人を本当に好きで、一緒に暮らしたいと思うなら、私を気にせずに、お母さんの気持ち。自分自身の気持ちに従えばいいよ。

 お父さんが亡くなって、まだ三年だけど、お母さんが幸せになる事にお父さんは、反対しない」


「桂・・・」



「大樹さんとは、どうなの。結婚するつもりあるの」

「まだ、そこまでは。・・それに二人共若いし。でもいずれは結婚したいと思っている」

「大樹さん、おいくつ」

「今年、二十五になる」

「そう。桂が今年二十二だから、年齢的にはちょうどいいんじゃない。それにその年齢の夫婦なんて、いっぱいいるわよ」



自分の部屋に戻った私は、ベッドの上で仰向けになった。


結婚かあ。まだ考えていなかったな。もう少し二人で楽しんで、将来の事も色々話せる様になったら、大樹からプロポーズして貰う。そんな感じを漠然にかえていただけだけどなあ。

お母さんから、あんな事言われるなんて。いま大樹に結婚の事なんて口に出したら、嫌がられるだろうし。でもそっと聞いてみようかな。


次の週末も大樹と会えた。何か変わったのだろうか。それとも私に絞ったのかなぁ。なんて言っていると碌な事無いのが、世の中だから。


食事をしている。大樹は、もう日本酒を二合飲んでいる。そろそろ聞いてみようかな。

「大樹」

「なに」

「・・聞きずらいけど、大樹、結婚について、どう考えている。もちろん大樹の今の気持ちでいい」

「・・・」

「あっ、いま、結婚してとかじゃなくて、大樹の将来的な事。そう将来的な事」


「・・うーん。いずれは結婚して、家庭を持って、子供が欲しい」


「その、・・その相手の中に私、入っている」

「うん」


えっ、簡単に返事してくれた。もっと悩むとか。だって大樹、美人の幼馴染さんいるでしょう。でもまさか。


「ねえ、大樹、その候補には、美人の幼馴染さんも入っているんだよね」


「・・・」


えっ、え、どういうこと。

分からなくなって来た。ここ三週間、毎週会ってくれるのは、幼馴染さんと会っていないから。だとすれば・・・。


「ねえ、大樹。お母さんが、大樹に会いたいって言っている」

「えっ、」

「あっ、いや。重たいよね。止めよ、こんな話」


「・・いいよ」


えー。本当。一気に・・・。



―――――

おや、まあ、大樹と桂。予想外?の展開に。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。



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