第35話 夏の終りに


夏休みも終わり、ホッとしている大樹君のはずですが。


―――――


はあ、やっと疲れがとれた。激動?の夏休み残り二日、僕は、ずっと家でゴロゴロしていた。恵子と会った次の日は、昼過ぎまで寝ていた。はっきり言って疲れた。


 明日から、出勤だ。でも明日は金曜日、一日行けば都合よく休み。早く帰って麗香と一緒に夕食でも食べよう。


「麗香、夏期合宿はどうだった」

「うん、良かったよ。一段上がったかな。数学解いている時なんて、数学の神様が頭の中に降臨したみたいになる。秋の模試が楽しみだよ」

「麗香は凄いな。模試が楽しみなんて、聞いたことないよ」

「ふふっ、私はお兄ちゃんと同じ大学を同じように推薦で行くんだ。できればトップで」

「参ったなー。僕は、たまたまだよ」

「お兄ちゃん、公立大学をたまたまでは、推薦合格出来ないよ。自己評価もっと高く持たないと」

「そう言えば、絵里奈さんのお泊りデートはどうだった」

「お泊りデート。えっ」


「絵里奈さん。三日もお泊りで、お兄ちゃんのお世話してくれたんでしょ。へへへ。何か楽しい事あった」

「ない。ない」


参ったな。何という事、聞くの。そうか。絵里奈作戦か。


「何を黙っているの。ほーら、白状しなさい。楽になるわよ」


今時、何処の刑事ドラマだ。


「まあ、それなりにな」

「ふふっ、まあいいわ」

本当は、私が・・。


 夏休みが終わり、残り二週間。桂とは、四日に会ったけど、二十日の金曜日に会える。絵里奈から八月中にもう一度会いたいというので仕方なく、更に翌週二十七日の金曜日に会うことにした。


参ったなー。でも僕は、まだ二十四だ。決めなくてもいいだろう。


 金曜日、僕は仕事なので、桂とは、十八時にハチ公前交番で待ち合せた。あそこなら安心だ。僕の仕事場から見れば十七時に出なければいけない。先輩に用事があると言って、帰らせてもらった。早帰りと言っても三十分だが。


 待合せまで十分前。急いで地下鉄の階段を上がって交番の前を見ると、もう桂は待っていた。案の定、通りすがりの男たちの視線が集まっている。

 

 身長百六十センチ。ショートヘアの目鼻がくっきりとした可愛い顔立ち。今日は、薄茶色のゆったりとしたブラウスだからボリューム感のある胸は隠されている。それとクリーム色のパンツスタイルだ。


 僕が手を上げるとパッと明るい顔になって近づいて来た。


「待った」

「ううん、ちょっと早く来たけど、でも五分位」

「今日は、何処に行こうか」


「大樹君。今日パルコに行きたい。ちょっと、欲しいものが有って」

「いいよ」


僕達は、そのまま、パルコに向かった。


「ねえ、これどうかな」


 見せて来たのは、花柄の可愛いワンピースだ。いつもパンツスタイルの桂には珍しい選択。


「とても可愛いよ。似合うと思う。桂が、ワンピースってちょっと新鮮かな」

ふふっと笑うと試着室に行った。


着替え終わったのか、首だけ出して

「ねえ、見て」


 中々行きづらい所だが、仕方なく前進。他の女性からの視線が・・・。

僕が試着室の前に来ると、パッとカーテンが開いた。


とてもよく似合っていた。

「うん、素敵だ。とてもよく似合っている」

「じゃあ、これ買うね」


試着室から出て来た桂に

「桂、それ僕に買わせて」

「えっ、いいよ。自分で買うつもりだったから」

「うん、でも買ってあげたい」

「うーん。分かった。ありがとう」


嬉しそうな顔で、一緒に会計に行った。


「今日は、何を食べたい」

「うーん。大樹」

「ちょっ、ちょっと。いきなり。ダメ」

「けち」


 まだ、二回体を合わせただけだけど。夏休みの時位から桂の方が積極的な感じがする。

「とにかく、ご飯食べるよ。お腹空いたし」

「へへ、実言うと私もお腹減ってる」


 最初に会った時から比べると、桂の気持ちの表現に壁が消えたような気がする。気を許してくれているのかな。


「じゃあ、和食がいいな」

「分かった」


 パルコからそのまま宇田川町に抜けて、知っている和食屋に入った。最近は和食屋でも白ワインは、置いている。飲ませ過ぎない様にしないと。


「ねえ、大樹。夏休み、私と会っていない時、どうしていたの」

桂、焼き餅焼きだったっけ。ワイン二杯目だ。


「うーん、色々」

「色々ってなあに。私、大樹の事もっとよく知りたい。お仕事がお休みの時とか、お仕事何しているかとか」

「うーん。全然構わないし、教えるけど、急にどうしたの」

「好きな人の事、色々知りたいのは当たり前でしょ」

「好き・・。」

「体まで許した人を嫌いな訳ないでしょ。大樹、意地悪な人だったの。それとも好きでもない私を抱いたの」

真面目に悲しそうな顔をする。


やばい。

「そんなこない。僕は、桂の事、愛しているよ。ただ、いきなり言われると、ちょっとドキッとして」

「ふふっ、そうなんだー。嬉しいな」


なんか、今日酔いが早いような。

「じゃあ、今日も愛していること証明してくれるよね」

「へっ?」

「へっ、じゃないでしょ」


 結局、桂は、ワイン二杯で止めさせた。でも、おかげで僕はビール中瓶と日本酒一合だけ。足りない感じ。まあいいか。


 一回目、二回目は恥ずかしそうにしていたのに。今日は、積極的だ。何かあったのかな。

一戦終わった後、


「桂、どうしたの。今日は、積極的だったし」


僕の胸に顔を置きながら

「恥ずかしいこと言わないで。・・。最近、大樹の周りに女の人の匂いがする。負けたくない。大樹とずっと一緒に居たい」

「女の匂い?」

「匂いじゃない。存在を感じているって事」


女性って、凄い。桂には、全く接点が無いはずなのに。


「大樹。綺麗な幼馴染さんがいるでしょう。あの人とどんな関係。私と同じ」


ストレートに聞いて来た。


「・・・」

「やっぱり。でも負けない。綺麗な幼馴染さんに負けない。大樹を私の虜にする」

えーっ。


「ねえ、もう一回」


この状況で断ることも出来ず・・・。二回戦突入・・チーン。


結局、桂を家に送って、自分の家にたどり着いたのは、十二時を過ぎていた。


ドアを開けると


麗香が、パタパタと廊下を走って来た。

「お兄ちゃん、お帰りなさい。えっ、どうしたの。また疲れた顔をしている」

「い、いや」


クンクン。麗香が犬の様に僕の体に近づいて嗅いでいる。


「石鹸の匂いと香水の匂い。もう。今日は絵里奈さんじゃないよね」

冷たい視線を送られた。


「私、もうすぐ寝るから」


そう言って、またパタパタと玄関から立ち去って、自分の部屋に行ってしまった。


ベッドの上に横たわる。

どうしようかな。桂の事、愛している。間違いない。今日はちょっと我儘だったけど、それも可愛かった。普段は控えめで、気遣いもある、心の優しい女性。愛していると言っていい。

 

 絵里奈。幼い頃からいつも一緒。我儘で、優しくて、とても綺麗な女性。麗香を覗いては、僕が一番大切にして、どんな時でも守らなければいけない人と思っている。

でも絵里奈への気持ちは、愛なのか。好きであることは、間違いないが。


 その上、交際は、絵里奈のご両親公認。当然、既に肉体関係がある事も知っているはずだ。いずれは、僕の妻になると、ほとんど確信しているだろう。


 参ったなー。最近このフレーズ多い気がする。



―――――


夏休み終わっても、悩みまくる大樹君でした。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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