第33話 夏休み(3)


向かいに住む幼馴染、三橋絵里奈が大樹の元にやって来た。

妹がいない間のお世話をすると言って。


―――――


今日から、麗香ちゃんが帰って来る明後日までの三日間。大樹のお世話だ。彼も夏休みだし。ふふっ。将来の妻の実力をしっかりと分かってもらわないと。


「絵里奈、顔が緩んでいるわよ」

「えっ。やだ、お母さん。今から大樹の所に行くの。しっかり家事をしないと」

「そう、大樹君に呆れられない様にしなさいね」

「大丈夫。お料理、掃除、洗濯。バッチリだから」

「家でもそうしてくれると助かるわ」

「えっ、家ではお母さんいるし」

「はいはい、行ってらっしゃい。そうそう、お泊り」

「えっ」


考えていなかった。向かいだからって泊まることだってできるわよね。でも大樹嫌がらないかな。四日間も一緒にいたから。聞いてみようかな。

そうだ。お風呂セットと着替えも、もっていってしまおう。準備あれば憂いなしだね。


絵里奈さん。備えあれば憂いなしです。


 今日から、三日間、絵里奈が、僕の世話だとか言って、来る予定になってたな。

麗香が、余計なことを言ったタイミングで叔母さんも乗ってしまったし。休めねー。


机の上の時計を見ると、まだ八時半。まだ寝れる。絵里奈が来るのは、昼過ぎだろう。

ピンポーン。

がちゃ。

「えっ」


パタパタパタ。

トントントン。

ガチャ。


「やっぱり寝てる。大樹、おはよう」

「え、絵里奈。まだ八時半だよ。来るの昼過ぎじゃ。それに鍵は。」

「何言っているの。朝ごはんから作るのよ。鍵は麗香ちゃんから合鍵貰っておいた」


麗香のやつ。


「もう少し寝かせて。まだ八時半だよ」

「・・・私が洋服脱いで、大樹のベッドで一緒に寝かせてくれたらいいよ。昼まででも、夜ままでも」


「起きます」


タオルケットをはじいて思い切り起き上がった。

「きゃあー」

「えっ」

「パ、パンツ」

顔を真っ赤にして下を向いている。


人のベッドに入ろうなんて言っていたのに。分からん。

「早く、着替えもって洗面所に行って」


開いているドアから一階に降りて行ってしまった。


白米、お味噌汁、焼き鮭、つくだ煮、サラダ。凄い。


「これ、絵里奈が作ったの」

「うん、具材は、家から持ってきた。昼の分からは、買い出しに行く」

「そうか。悪いな」

「いいよ。今日から三日間、しっかり大樹のお世話するから」

「いや、それは・・」

「いやなの。私じゃいやなの」

悲しそうな顔で聞いてくる。


「そんな事ない。絵里奈が家事してくれるなんて嬉しくてたまらない。でも絵里奈が大変かなと思って」


パッと顔が明るくなった。

「えへへ。心配してくれてありがとう。でも大樹のお世話は、全然構わない。嬉しいぐらい」


朝食が終わって、リビングでコーヒーを飲みながら新聞を読んでいると

「大樹、洗濯と掃除終わったら、お買い物一緒に行って」

「いいよ」

新聞を見ながら気にせずに応答する。


ふふっ、新婚さんみたい。嬉しいな。今日はいっぱい大樹に甘えよう。お泊りの件は、その時でも構わないや。


新聞を読み終えて、ふと絵里奈が持ってきた荷物を見るとやたらバッグが大きい。何が入っているんだろう。


「絵里奈。バッグが大きいね。何入っているの」

「女性は、何をするにも色々必要なのよ。気にしないで」

気にしないでと言われても・・。


掃除も終わり、スーパーへ買い物に行く。さりげなく絵里奈が手を繋いでくる。

周りの人の目が暖かい。何か誤解されているような。


新婚に見えるのかな。嬉しいな。

「大樹、近くのスーパーだと、無い食材があるから、先のスーパーに行こう」

「う、うん。いいよ」


この時間を少しでも長くしよ。


買い物かごを持って絵里奈の後を付いていく。何か、良く見ているな。玉ねぎやニンジンにそんなに大きな違いあるのかな。


「大樹。今日の夜は、何を食べたい」

「うーん。絵里奈の作ってくれたもの」

こちらを振り向いて

「そう言うの一番困るんだけど」

マジに言われた。


「じゃあ、八宝菜」

「分かったわ。八宝菜と具沢山の中華スープ。それとトマトとモッツアレラチーズとルッコラのサラダ。それにスモークサーモンかな。どうこれでいい」

「十分だよ。」

「そうだ。大樹は、晩酌する。ビールとか。日本酒とか」

「うーん。ビールは飲むかな。後白ワイン」

「じゃあ、それも買っておくね」


テーブルの上に、買い物の時に言っていた、料理が並んでいる。結構あるな。

「はい、ビール」


トクトクとコップに注いでくれる。

「絵里奈も飲む」

「もちろん」

既にグラスは絵里奈の前にある。


トクトクトク。


「大樹のお世話一日目中。乾杯」

「一日目中?」

「そうだよ。まだ食器洗いもあるし、お風呂もあるし。ベッドもね」


ビールを呑み込んだ後で良かった。


「絵里奈、帰らないの」

「当たり前よ。大樹のお世話、一日中だよ」

「だって、向かいに家が。それにご両親が心配する」

「大丈夫。お母さん、お父さんは、了解済みだよ」

「えーっ」

「ふふっ、そんなに驚いて嬉しいの」


返す言葉がなかった。完全に堀は埋められ、本丸を残すのみ。こっ、これは。


食事が、終わり、二人でTV番組を見ている。僕の横には、絵里奈が座っている。


「大樹、お風呂先に入って」

「いや、いいよ」

完全に籠城作戦だ。

「でも、大樹先に入って」

なんでこんなに強く言うんだろう。

「もう、恥ずかしいでしょ。自分のお風呂の後に男の人が入るなんて」


分からん。絵里奈の頭の中分からん。そんなものなのか。


「分かった。先に入る」


よし、これで、一歩前進。


「絵里奈出たよ」

パジャマズボンにTシャツ姿で出て来た。


「じゃあ、入って来るね」


ふふっ、これが大樹の入った後のお風呂か。体にお湯を撫でる様にする。気持ちいい。


髪の毛を洗面所で乾かした後、リビングでビールのショートサイズ缶を口にしていると


「出たよ」


短パンにゆるゆるタンクトップ。はぁー、どうしよう。

「絵里奈パジャマは」

「うん、後でね。お風呂上りに直ぐ着ると汗で濡れてしまうから」


なるほど。


濡れている髪の毛をタオルで拭きながら、僕の側に座った。

「私にも少し飲ませて」

「いいよ」


一瞬で飲まれた。

「あっ、ちょっと残り少なかったみたい」


絵里奈さん。それ今開けたばかりですけど。


髪の毛をタオルでくるりと巻いて、僕に上目遣いしてくる。不味い。ブラしていない。思い切り顔を横に向けて


「絵里奈さん。もう少し、胸元を閉めた方が」

「えーっ、お風呂上りは暑いよう」


わざと体を僕に擦り付けて来る。まずい。生理的なものが、発動しない内に対処。


サッと立って。TV方向を見て

「絵里奈、髪の毛を乾かしてきて」

「ぶーっ。分かった!!」


何がぶーですか。こっちが、緊急事態です。


絵里奈が、頭を乾かしている間に、キッチンと一階の窓のチェックをする。どこも大丈夫だ。今のうちに退避。


「大樹、終わったよ。あれいない。たいきー」

部屋を暗くして寝たふり。


がちゃり。

「大樹、もう寝たの」


しばらくして、もぞもぞ、僕のベッドに侵入者が。壁方向に寝返りを打つ。少しベッドを開けてあげる。えっ。


「ちょっと。絵里奈の部屋は、両親の部屋でしょ」

「あなたのご両親の部屋のベッドを勝手に使うなんて出来ないわ。大樹の横がいい」

「でも」

「お願い。お願い。一緒に添い寝してくれるだけで良いから」

「・・・分かった。添い寝だけだよ。壁際に来なさい。そっちだと落ちてしまうから」

「はーい」


「大樹寝たの」

「zzz・・」


「もう、仕方ない」


ほっぺにキスをして寝てあげる。


うっ、頬にキスして来た。諦めたかな。それが分かると、急に睡魔に引き込まれた。


―――――


絵里奈の大樹のお嫁さん準備発動。残るは、大樹の本丸のみ。

攻め手か、守り手か。後、二日間あります。

乞うご期待。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。


宜しくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る