第31話 夏休み(1)


いよいよ夏休みです。四回くらいに分けて投稿したいと思います。


―――――


いつもより早く意識が覚めた。今日から実質の夏休み。時計を見ると、まだ六時だ。虚ろな頭の中で、ここ一ヶ月の事が、思い浮かんできた。


 絵里奈の事、桂の事、恵子の事。なんでこうなったんだろう。去年の秋までは、何もなかった。

絵里奈だって、兄妹程度のつもりだった。まさか僕の事好きだったなんて。今の絵里奈は、明らかに結婚を意識している。体を許した時、それを感じた。

 

 恵子にしても、まさか、大学からのつながりなんて想像もつかなかった。それも結婚相手として見ているような気がする。彼女の態度が、このまま過ごせば、当然そうなるという感じだ。


 桂さん。あれから二度会った。どちらも渋谷。でも食事して話をして別れた。本当は、・・だけど、体が目的の様に思われたくない。淑やかで、控えめで、芯がある。彼女を大切したい。


なんで、こうなったのかな。また、同じ言葉が浮かんだ。今の状況で一人を選べなんて無理だ。軟弱だな。

でも、もし三人が前に居て、誰か選べと言われたら・・。考えたくもない。



 夏休み。桂とは、八月四日の木曜日に会うことになった。お店の定休日だ。二人で海に行くことにした。店としての夏休みは十四日~十六日まで取るらしい。でもそれは、店内の全体清掃とか、普段出来ない事をするらしく、実質休めないそうだ。大変なんだな。

 

 絵里奈とは、最初の二日間、一日は二人で。もう一日は、麗香も一緒という事になった。

麗香は、夏季集中コースに出るらしく、合宿形式で行うらしい。それを聞いた絵里奈が、麗香がいない時は、私が家事をするとか言っているが、保留にしている。僕が休めない。

 

 同僚の恵子とは、七日に郊外にある、レジャー施設に一緒に行くことになった。彼女の家に迎えに来てくれと言っている。色々とあるらしく、ドライブも兼ねている。


 僕自身全然休めない夏期休暇だ。はぁ~。


夏休みは、八月二日から取っているが、七月三十日、三十一日は、土日。この土曜日に絵里奈に誘われた。本人曰く、夏休み内じゃないから、ノーカウントらしい。良く分からん。


いつもの様に渋谷で昼食を取った後、ウィンドウショッピングに付き合わされている。

「大樹、これ私に似合うかな」

絵里奈が僕に見せているのは、夏に着るブラウスだ。こっちのセンスは、全くない僕は、


「うん、絵里奈なら、どれ着ても似合うよ」

「大樹、相談に乗る気ないでしょ」

「そんな事ないよ」

「じゃあ、しっかり見てよ」


仕方なく、絵里奈の体系とブラウスを見比べる。どう見ても胸周りが苦しそう。

「大樹、何処見ているの」

「いや絵里奈がそれを着たら、どうなるかなって、イメージ作ってた」


絵里奈の頬がほんの少し赤くなる。

「で、どうなの」


ここははっきり言った方が、良さそう。

「あの、少し胸周りがきつそうかな」


「そ、そっか。そうだよね。私もそう思っていた」

頬が、また少し赤くなった。


結局、ブラウスは買わずじまいで、次のお店へ。


商業ビルを出た時、僕の手には、ブランド名が入った大きな紙袋が二つ、小さな紙袋が一つ握らされていた。絵里奈は、素手で有る。

 でもこれでいいと思っている。この歳までずっとこうだから。絵里奈も当たり前の様にしている。



 ドアを出て、少し休む為、この前行った三階にある、テラスバーに行こうとした時、

向こうから、見知った人が歩いて来た。目が合うと小走りに駆け寄って来る。


「広瀬君。こんにちわ。珍しいね。こんな所で会うなんて」


黒のTシャツにチェックのロングスカート、黒のパンプス。肩からトートバッグを掛けた夏らしい装いだ。

「そうだね。緑川さんも。ここにはよく来るの」

「渋谷は、普通に休日になれば出て来るかな」


隣にいる絵里奈が、緑川さんを見ながら

「大樹、こちらの人は」

「同期入社の緑川さん」

「そう、始めまして。大樹の恋人。三橋絵里奈です」


その言葉に、緑川さんが反応した。

「えっ、恋人」

「えっ、いや。絵里奈」


僕の顔を見るなり

「大樹。何かおかしい」

と言って、僕の腕に絵里奈の腕を絡めて来た。

「大樹が、お世話になっています」


だめだ、完全に意識している。

「三橋さん。大樹君は、私の大切な人です。恋人なんて気安く言わないでください」


終わった。

絵里奈と恵子がにらみ合っている。マンガだったら、火花が飛び散っているのだろう。


「大樹君「大樹」。はっきりして」」


あちゃー。ハモったよ。


「いや、緑川さん、今度説明する。絵里奈行こう」

僕がその場を逃げる様に歩こうとすると


「大樹君。七日楽しみにしているから」

恵子は、状況に進展がないと読んだのか、約束した日を口にするとそのまま、商業ビルに入って行った。


「大樹。どういう事。ゆっくり説明してもらうわよ」

 えーっ。絵里奈怒っているよ。


結局、テラスバーに行って、ひたすら説明。あくまでも同期で、一時期プロジェクトで一緒だった事以外は、彼女が勝手にそう思っている。絵里奈を見て、意味なくマウント取ろうとしたのだろうと、都合よく言い訳した。全然休めない。


 ただ、七日のデートの件だけは、納得いかないようで、もしどうしても行くなら、明日もデートしろと言って来た、何日間、絵里奈と一緒なの。


 次の日曜は濃厚な日になってしまった。明日も絵里奈と一緒、はぁー。


ふふっ、大樹と土曜、日曜デート。日曜は久々に・・・えへへ。明日もデート。明日は、一緒に海に行こうかな。次の日は、麗香ちゃん一緒だから、明日もいっぱい大樹と・・。

 でも、土曜日会った同僚だと言っていた女の人。ただの同僚じゃない。女の感だ。間違いない。

私の恋人だからモテる事は仕方ない。でも私と言う人がいながら・・。大樹に早くはっきりさせよう。もちろん大樹から言わせなくては。



絵里奈と三日間の連続デートが終わって、家にたどり着いた。もう午後九時を過ぎている。


「ただいま」

「お帰り。お兄ちゃん。どうしたの、そんなに疲れた顔して」

「えっ、疲れた顔している」

「鏡見てみたら」


もうお風呂も入り終わったらしく、Tシャツにホットパンツとラフな格好で玄関に出て来た麗香は、

「お兄ちゃん、明日お出かけ大丈夫。無理しなくていいよ。残念だけど」

「大丈夫だよ」


これでキャンセルしたら、絵里奈がおかんむりだ。明後日三日は休み、四日が桂とデートだと思うと頑張る気が湧いて来た。


「明後日から、夏期講習合宿で五日間開けるけど、お兄ちゃん大丈夫。絵里奈さんに家事の事、頼んでおくね」

「いやいいよ」

「なんで。私が帰ってきたら、足の踏み場もないなんて嫌だからね。冗談だけど。とにかく声はかけておく」

不味い、既に麗香の予定は教えてある。今保留にしているのに、麗香の後押しがあっては、叔母さんも乗り気だし。恵子と会う日も被っている。何とかしないと。



―――――


大変な大樹君。でも夏休みは、始まったばかり。



面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。


宜しくお願いします。

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