第30話 夏休み前に同僚は考える


緑川さん登場です。


―――――


 広瀬君、いつSS9取るのかな。それに合わせて私も取りたい。ちょっと聞いてみようかな。

 もうすぐお昼だし、今日は一日中、社内だから。広瀬君と食べられないかな。


ピンポン

ポケットに入れてあるスマホが鳴った。席を立って廊下に出てスクリーンを見ると緑川さんからだ。


『今日お昼一緒に食べれない』

『ちょっと無理、一時までに仕上げないといけない資料がある』

『その後は』

『その後で簡単に済まそうと思っている』

『そっか。ちょっと昼食兼ねて話せない』


なんだろう。あまり会社の近くでは会いたくないな。

『話ってなに』

『ちょっと会ってから』


『分かった。裏の出口でいい。一時に』

『いいよ』


話ってなんだろ。


裏口と言っても、表口がある訳ではない。都合上そう言っているだけだ。


一時少し過ぎてから裏口に行くと緑川さんが、外で待って居た。

「お待たせ」

「うん」

「道路反対側の和食屋で良いかな」

「うん」

「あそこなら、少し話せるし」


一時を過ぎるとピークを過ぎたのか、待たずに入れた。テーブル席ではなく、和室の奥の方に座る。

注文をお願いした後、

「緑川さん、話って何」

単刀直入に聞いた。


「広瀬君、SS9出した」

「あ、出したよ」

「いつ取るの」

「えっと八月一日~土日含めて九日まで」

「そうか」

「緑川さんは」

「まだ決めてないの。一日位、広瀬君と一緒居たいななんて思って」

「・・・」

「あっ、いやなら、いいよ」

「いや、いやだとかじゃなくて、予定が合うかなと思って。家族や友人とも時間取るから」

「そうだよね。・・空いている日ないかな」

少し寂しそうな顔で言う彼女にちょっと悪いかなと思ってしまう。


注文した食事が来たので、一度中断。


「そっちもまだ、はっきり決まっていない」

「分かった。休む日付だけ同じにしておく。そうすれば、合わせられるから」

「緑川さん、予定入っていないの」

「まだ、決めていない。広瀬君が、家族との休み決まったら、教えて貰えるかな」

「・・いいよ」


「そう言えば、広瀬君とデートしたの、あれきりだね。最近会ってくれない」

「そんな事ないよ。緑川さんも忙しいでしょ」

「私は広瀬君に合わせるよ。いつも私から誘ってばかり。たまには広瀬君から誘ってほしい」

「・・・就業時間がその日でないと分からない。突発的にスケジュール変更になるし」


「構わない。約束して貰って、仕事が急に入ったら、諦める」

「分かった。そうするよ」


緑川恵子が嫌いなわけではない。一時期、家の事情で結婚がちらついたが、それがないとこの前言っていた。であれば、彼女との夕食を断る理由はない。それなりに責任あるし。

 

「ちょっと待って。今日の予定見てみる」


ポケットから会社支給のスマホを取り出してスケジュールを確認すると、

「十九時からなら会社出れるよ」

「じゃあ、十九時十分位に地下の改札で良いかな」

「場所は良いけど、渋谷のハチ公前交番まで別行動しよう。うちの会社は、ゴシップ好きが多いみたいだし」

「ふふっ、そうですね」


予定通り、十九時十分に地下鉄の改札口に行くと、改札の反対側にある柱の前で待って居た。

 視線が合うと彼女もそのまま改札へ。同じ車両の同じドアから乗る。見知った顔の人が何人かいた。


何とはなしに、彼女が側に来た。僕の顔を見て嬉しそうにしている。吊革にみんな触れる程度なので、ちょっとと思ったが、視線を外して、他人の振りをした。

 

渋谷で降りると、

「大樹、酷い。まったく私を無視するなんて」

「無理言わない。会社の人も何人かいたでしょう。不味いよ」

「えっ、そうなの。でも大樹は、私といるところを会社の人に見られるのは、不味いんだ」

下を向いている。いじけているのだろうか。


「私は、大樹ともうそれなりの仲になっていると思っている。だから、そう言われると寂しい」


やはり下を向いたまま言っている。


不味いな。・・・。

「ごめん。会社でもどこでおおぴらにと言う訳には、行かないけど、普通するよ」

「普通って」

「まあ、普通に」


顔を上げたと思ったら急に笑顔のになって

「それじゃあ、ここから手を繋いで。ここなら、良いよね」

「う、うん」

彼女が、サッと右手を出してきた。僕から手を繋げという意思だろう。

目を合わせて手を繋げると

「行こっか」


難しい。絵里奈とは、また違ったタイプだ。何となく良い様にされている感じ。



渋谷でいつもの居酒屋に入った。週の中日なので空いていた。


グラスを片手に緑川さんが嬉しそうな顔で、

「久しぶり」

「久しぶりかな」

「久しぶりだよ。もう一ヶ月も会っていない」

「そうか、じゃあ久しぶり」


軽くグラスを合わすと口にビールを運んだ。緑川さんはビールも普通に飲める。


「ねえ、大樹の事教えて」

「何を。家族構成と現状は教えたよね」

「それ以外。ご近所に素敵な幼馴染がいるとか」


えっ、どういう事。なぜ知っている。

「ふふっ、やっぱりいるんだ。顔に書いてある」

「えっ」

「何となくそう思ったんだ。大樹その人の事どう思っているの」

「普通に幼馴染だけど」


細かい事言わない方がよさそうだ。


「幼馴染って、好き嫌いの感情ってあるの。あっ、こんなこと聞くと大樹から嫌われるかな」

「いや、良いけど。好き嫌いって言えば、好きだよ。物心着く前から一緒だし。兄妹みたいな感覚かな」

「恋愛の対象には」


突いてくるな。何を知りたいんだ。

「それは、ないよ。でも大切な人だと思っている」


急に下を向いて

「そうか、そうか。・・・」


「嫉妬しちゃうな。私が大樹と昔から一緒なら、そう思われているのは、私なのに」


大分、酔って来ていますね。今日は普通に帰さないと。


「大樹。夏休み、一日だけで良いから私と一緒の日作って」

「都合合えば、いいよ」


遅く飲み始めたので、もう午後十時前になっていた。

「緑川さん。そろそろ出ようか」

「うん」


清算をすると二人で外に出た。手をぎゅっと握って来る。

「緑川さん、今日は帰ろう。遅いし、明日も仕事だから。ねっ」


じーっと顔を見て来る。

「だめ?」

「だめ」

「じゃあ、少し大回りして駅に行こっ」


僕の手を引くように宇田川町方向あるいた。


TV局の前あたりに来ると人もまばらだ。

足を止めて僕を見つめている。これだけなら。

彼女の背中に手を回して、ゆっくりと顔を近づけた。柔らかい唇が触れる。僕の背中に手を回して、力を入れて来る。

 少しの間、そうしていると、ゆっくりと顔を離した。

「帰ろうか。大樹。今日は、我慢する」



―――――


大樹君。何となくズルズル行っている様な感じですね。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。


宜しくお願いします。

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