第29話 夏の訪れ


さて、皆さん、夏を楽しくする為の準備に妄想しています?


―――――


六月も終わり、七月の声を聴く頃、


「広瀬、SS9は、出したか」

「まだです。早く出しておけ。先輩を気にしていたら、取りたい時に取れないぞ」

「ありがとうございます」


SS9。春と夏の四月から九月までの間に最高連続九日間の休みを取れるシステムだ。


どうしようかな。去年は、まだ、学生時代の気分で適当に取得したけど。今年は仕事もあるしな。


 麗香は、夏期講習だから、家空ける訳にはいかないし。出かけられない。ちょっと考えるか。


「麗香、夏休みの事だけど」

「お兄ちゃん、私の立場知っているよね。それ嫌味」

「違う。俺の夏休み。今年は、麗香の夏期講習もあるから、どうしようかなと思って。

 麗香優先で考えたい」

「・・ありがとう。でも私の事は気にしないで。お兄ちゃんの夏休みだから。絵里奈さんと旅行なんていいかも」


「おまっ、無理言うな。麗香を置いて勝手にどこかに行ける訳ないだろう」

「本当に気にしなくていいよ」

「でも夏期講習も夏休み全部じゃないだろ。少し位休んでもいいんじゃないか。脳だって、リフレッシュ必要だぞ」

「そうだね。考えておく」


 夏休みかあ。私にとっては、来年の事だな。

でもお兄ちゃんと二人だけの旅行ならなぁ~。絵里奈さんと二人でなんて言ったけど、やっぱり嫌だし。

 友達は、遊びに行くみたいだけど、私は無理だな。余裕無いし。


 それに、あの時以来、二週間に一度位、添い寝してくれる。お兄ちゃんは、親がいないから、私が寂しがっていると誤解しているみたいだけど、それでもいい。一緒に寝ていると心が落ち着く。これで十分。


 あっ、でも、お兄ちゃんが夏休みという事は、一日一緒に居れる日もあると言う事だ。ならいいや、出かけなくても十分。・・プール位連れって貰おうかな。やっぱりリフレッシュ必要だし。お兄さんと二人でプールか。良いかも。


§

 そろそろ夏休みの計画立てないと。大樹の事だから、忘れているかもしれない。そんな事ないと思いたいけど。GWの事もあるし。

 そうだ、それを理由に明日会うか。・・我ながら良い考えかも。


ピンポン。


誰だろ。こんな時間に。絵里奈。

『大樹。明日仕事の後、会いたい』


もう、いきなり。

スケジュールを見てみるか。会社支給のスマホで見れるのはありがたい。ありゃ、何も入っていない。あいつ、凄いタイミングだな。


『いいよ。どこで何時』

『返事遅い。すぐ返して』

我儘だな~。


『スケジュール確認していた。明日は空いている』

『じゃあ、十八時半に表参道のいつもの改札』

『了解』

ペンギンが喜んでいるスタンプが帰って来た。


絵里奈とは、二週間に一度位で有っている。いつも金曜日。あれ以来、二度に一度は、我儘を聞いている。


明日は、その我儘を言われる日か。麗香に遅くなるって言っておかないと。なんだかんだで、絵里奈のペースだな。慣れて来る自分がちょっと怖いかも。どう見ても既成事実の積み重ねの様な。まあいいか。


そうだ。桂さんとも連絡取らないと。



§

川田さんにSS9の事、聞かれた。どうしようかな。大樹君と旅行出来れば最高だけど。

でも、五月の終わりに会ったきり。もっと会いたい。もっと彼の事知りたい。どうすれば。どうにかしないと。


 十二月まで、後六か月。一年なんてない。あの時は、もっと順調にいくと思っていたから、ああ言ったけど。


彼の性格からして、強引は無理だし。何か考えないと。この夏がラストチャンス。お父さんの紹介相手なんて、まっぴら。


伏線張る。いやいや誰を。川岸なんて最低だし。川田さん、上辺だけしか知らないし。

どうしようか。



§

「お待たせ」

「おう、待ったぞ。十分前に来たら、二十分遅れだから。心配したぞ」

「へーっ、心配してくれたんだ」

「当たり前だろ」

「なんで」

「・・・どっかのTV局の番組みたいな事聞くな。今日はどこ行く」


 素直じゃないな。絵里奈が好きだからって言えばいいのに。


「渋谷行こうか」

「分かった」


宇田川町にある居酒屋に入る。金曜日の十九時なんて、思い切り混んでいると思ったけど、そうでもなかった。もう少し後かな。混み出すの。自分もいつもなら今頃会社出るからな。


「大樹、何考えているの」

「いや別に。簡単に入れたなと思って」

「そうかな。入れたからいいんじゃない。注文先にしよう」

「そうだな。最初はビールで良いか」

「一杯だけね。後は白ワインがいい」

お刺身系とサラダ系を適当に注文する。最初はビールだが、絵里奈が、ビール苦手なので、瓶ビールにした。


「大樹。夏休みどうする」

「うーん。先輩からも早く予定出せと言われているけど。決まっていない」

「そっか。じゃあ、考えよう。二人で海でも行く。お泊りで。」


「えっ、・・・」

「今更でしょ。お母さんにもバレバレだし」

「うーん。良いけど、麗香の事もある」

「そっか。そうだね。麗香ちゃん、今年受験生だから、夏期講習とかあるものね」


「じゃあ、麗香ちゃんも一緒では、どうかな。麗香ちゃんと色々話もしてみたいし」

「絵里奈がそう言ってくれるのは嬉しいけど・・。聞いてみる」


「ふふっ、大樹。今日は二回に一回だね」

「ナンノコト」

「なんでそこで棒読みになるの」

目が笑っている。


「・・・」


「行こう。大樹」

「わかった」

何となく、この習慣に慣れてくるのが、少し怖い気もした。これで良いのかと。



「大樹。今日は、大丈夫の日だから」

高揚感に包まれながら、彼を受け入れると、意識が遠のいていった。



 今日は土曜日。ゆっくり休もうかな。

昨日は、・・・。思い出すと恥ずかしい。初めての日から、何度か、大樹が私を包んでくれる。嬉しい。もう気持ちも決めてくれているのかな。

 今年の秋辺りに・・。こ・ん・や・く、出来たらいいな。私もう二十四。来年は二十五。来年中には、式上げれるといいな。

 顔が赤くなっていくのが分かった。


―――――


それぞれの夏休みへの思い、有りますね。

絵里奈さん一歩リードというところですか。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。


宜しくお願いします。

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