第27話 緑川恵子の失敗


GWで大樹とデート出来なかった緑川さんですが。



―――――


「おはよう。緑川さん」

「おはようございます」


朝から営業会議。今週の活動予定と先週の活動結果を先週分の週報を元に報告する会議だ。朝八時半から開催される。


うちの会社は、九時出社なのになんで八時半なのよ。


「川田、この件、緑川さんと一緒に対応してくれ」

「了解しました」

「はい」


会議が終わると、

「緑川さん、この資料に目を通しておいて。十時にアポ取ってあるから。三十分後に出る」

「分かりました」


 広瀬さんと一ヶ月も会っていない。前の部署だったら、デート出来なくても毎日顔が見れたから良かったけど。

 営業と開発はフロアが違う。配属されて三日ほど対面オリエンテーションを行った後は、Webトレーニングばかり。後は、この川田さんと一緒に営業。

 と言っても私は、何もしていない。見て覚えろっていう訳でもないだろうし。


 GWは、デート出来ず。デートを装って両親に会わせるつもりだったのに。


「緑川さん。出るよ。目を通しておいてくれた」


 考え事していて、見てなかった。ここは素直に、

「すみません。ちょっとお腹痛くて、おトイレに行っていたものですから」

「大丈夫。今からお客様の所だよ」

「大丈夫です」


じっと私の様子を見ていると

「分かった。行こう。でも調子悪くなったらすぐに言って。お客様の前では、途中退場は出来ないからね」

「すみません。注意します」


最初の営業を終わらせ、会社に戻った後、午後からもう一件、お客様へ行った。帰ってきたら、今日の振り返りと資料作り。結構厳しい。これなら開発の方が良かったな。


「緑川さん、着任して一ヶ月。慣れました」

課長の千城が声を掛けて来た。


「はい、まだまだです。流れは何となく分かって来たのですが。内容が、全然つかめなくて」

「いや、流れが分かって来ただけでも十分だよ。内容は、川田から教えて貰いなさい」

「はい、ありがとうございます」


それだけ言うと立ち去った。

 何が理由で、私をここへ呼んだんだろう。最初は、勘繰りもしたが、全然違う様だし。来てほしいと言われる程には、何がある訳でもない。


 とにかく、目の前の事を片付けて、広瀬君と会う時間を作らないと。そうだ、今日なんかどうなのかな。


スマホで今日の予定を聞く。

『今日は、予定が入っている』

『今週どこかで会える』

『今週は厳しい。来週の後半なら、今から押さえれば大丈夫』


よし。


『来週金曜日いいかな』

『いいよ』

『時間十九時ハチ公前交番でいい』

『いいよ』


やった。これで頑張れる。


「緑川さん、何ニコニコしているの」

「あ、いえ。何でもないです」

「スマホを使用する時は、自席でなく、廊下かリラクゼーションルームでした方がいいよ。誤解を受ける」

「誤解ですか」

「営業情報を外に出しているという誤解。セキュリティトレーニングで教えて貰ったはずだけど」

「あっ・・。済みません。以後気を付けます」


はあ、川田さんで良かった。これから気を付けよ。


ピンポン。さっと席を立って廊下へ。スマホを開けると


『緑川さん、今日、退社後用事ある』

川岸君からだ。珍しい。

『空いているよ。』

『会えないかな』


どういう事。彼は山越さんと仲良くなったんじゃなかったっけ。

『何か用事かな』

『相談したいことが有って。スマホじゃちょっと』


相談・・。私に・・。まあいいか。今日は特に用事無いし。

『いいよ。どこで待合せる』

『地下鉄改札前。十八時で』


また、目立つところを・・。

『分かりました』


どういう事だろう。会えば分かるか。


営業と言っても、新人に近い私は、まだ時間の都合がつきやすい。川田さんは、忙しそうだけど。


「待ちました」

「今来たところ」

「じゃあ、行きましょうか」


あれ、山越さんじゃ。こっち見ている。川岸君は、改札に入って行っちゃったけど。


どうも渋谷に行くみたいだ。

「ねえ、さっき改札で山越さん見たけど」

「えっ、そうなんですか」

「川岸君、山越さんと仲良かったんじゃ」

「そんな事ないですよ。席が近いから話はしますが」


そうなんだ。でもあの時。私の勘違いだったのかな。


「相談ってなあに」

とりあえず、渋谷の居酒屋に居る。


「実は、・・。僕、緑川さんが営業に行ってから。・・。ちょっと元気なくって」


はっ、何言っているの

「それで、その、もし緑川さんさえ良かったら、偶には会ってくれないかなと思って」


じっと私の顔を見ている。これって告白・・一歩手前ってやつ。


「会うのは良いけど、山越さん、さっきも改札で川岸君の事見てたよ」

「偶然じゃないですか。それに彼女ちょっと重くって」

「重い・・。」

「はい、前に広瀬さんや、緑川さんと飲みに行った後から。

急に接近して来て、退社後や休日に誘われるんです。最初は良かったけど。さすがにちょっと疲れたというか。

だから、最近は、ちょっと距離を置くようにしていたのですけど」


「でも、それって、山越さんが川岸君の事好きって事でしょ」

「そうだと思うんですけど。僕は、あまり彼女の事は・・。はっきりしなかった僕が悪いと思いますけど。仕事仲間だし。気まずくなりたく無くて延び延びしていたら、今みたいになったんです。

「じゃあ、あれってストーカー・・もどき」

「はい。だからと言う訳ではないですよ。さっき緑川さんに言った気持ち。分けて考えて貰えれば」


うーん、微妙なラインだよね。


話をしている内に二人共大分飲んでしまった。お店に入って二時間も経っている。

「そろそろ出ようか」

「あの、さっきの返事は、」

「さっきの。あっ、良いわよ。偶に会うのは、私も嬉しいし」

「本当ですか。嬉しいです」


彼の顔がパッと明るくなった。これって浮気じゃないよね。広瀬君。

来週末は、彼と会えるし。いいか。


えっ、気持ち悪い。何か変な物食べたかな。

ちらっと横目で川岸君を見ると

「えっ、緑川さん、どうしたんですか」

「ごめん、先に出てて、ちょっと行ってくる」


うわ、気持ち悪い。何も出ないけど。とりあえず駅まで行ってタクシーで帰ろう。


外に出ると

「緑川さん、大丈夫。顔色悪いけど」

「大丈夫」


歩き始めるとふらふらになって来た。

「不味い、川岸君、ちょっと休んでいく」

「分かりました」



―――――


緑川さん、飲み過ぎですかね?


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。


宜しくお願いします。

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