第26話 GWの約束(5)


GW四日目を迎え、大樹は、柳瀬桂さんと過ごしますが。



―――――


彼、もう来ているかな。待合せの十分前。いつもの待合せ場所、地下鉄の改札に着いた。

いないか。仕方ないな。でも早く来て欲しかったな。

 

 待っている間、通りすがりの男の人がチラチラ見てくるのが、いやだ。早く来て大樹。

この前のデートから、大樹と呼べるようになった。彼、桂(かつら)って呼んでくれるかな。


 見知った人が階段を降りて来る。やっと来た。私は自分の顔がほころぶのが分かる。


「桂さん。遅くなって済みません」


「・・・」


「えっ、怒ってます。でもまだ時間に・・」

「桂さんではないです。かつらです」

「・・桂、遅くなった」


彼女は花が開いたように笑顔になって

「いいえ、今来たところ。大樹」


自分の顔が赤くなって来た。そう言えば、この前そんな約束してた。


「じゃあ、行こうか、桂」

「はい」


直ぐに手を繋いできた。改札はすぐそこなのに。


改札を通ると、また手を繋いできた。僕の顔を見て嬉しそうにしている。

今日は、白のスキニーパンツに淡い水色のブラウス。歩きやすいようにスニーカーだ。小さなショルダーバッグを持っている。


三軒茶屋でレンタカーを借りて第三京浜に入る。


「まだ、夏前だというのに、人がいっぱいですね」

「そうだね」


車を江の島の近くの駐車場に止めた。江の島の中に入ると出入りが面倒だし、橋を二人でのんびり渡る方がいい。潮風が気持ちいい。連休前半はずっと天気だ。天気の神様に感謝。


「風が気持ちいい」

黒髪のショートが、少しだけ風に揺れる。二人で手を繋いで歩いていると、周りから何となく見られている気がした。

 ショートヘアで、目鼻立ちがスッキリとした小顔で、胸はしっかりと出ている。スレンダーな体と相まって、モデルでも通るだろうと思う。見られるのは仕方ない。


「みんな、大樹の事、見ている。嬉しい。私の自慢の彼だから」

「いや、桂を見ているんだよ」


彼は、身長が高く、短めの髪の毛ですっきりとした顔立ちだ。取り立てイケメンと言う訳ではないが、それがいいのだろう。側にいて落ち着く。


お互いに顔を合わせて微笑むと、江の島の方へ歩いて行った。


「お腹空いたね」

「はい」

「ここまで来たのだから、地元名産で行こう」

「はい」


「僕は、釜揚げしらす丼とお刺身セット」

「私は、お刺身セットにします」

「しらすは」

「大樹の少し」


えへへ、と笑うと可愛くてたまらない。


「桂、今度は、鎌倉の大仏でも行こうか」

「中学以来ですね」

「そうだね。そう言えば、年齢少ししか違わないから、同じか」

「そうみたいです」


笑顔がたまらない。本当に楽しそうで良かった。


「大樹、見てあれ」

自転車に乗って、真っ黒に日焼けしたダンディなおじさんが、ボードを小脇に抱えている。


「おう、湘南だ」

「大樹見てあれ」

二人の良く日焼けしたお兄さんが、やはりボードを抱えて砂浜に降りていく。


「さすが、地元。車ではなく、家からボード持ってくるのか」

「「湘南だー」」


二人して笑った。


鎌倉の大仏様は、人気があるらしく、近くの駐車場は満杯で、仕方なく鶴岡八幡宮へ車を向けた。混んではいたが、車を停められたので、参拝した。


「大きいですね」

「そうだね。鎌倉時代に建てられた割にはしっかりしている。当時の武家の守り神だからかな」

「これも中学の範囲ですね」


二人で手を繋ぎながら散策する。中々広い。


何とはなしに時計を見ると、もう午後四時を過ぎていた。

「桂、そろそろ渋滞覚悟でゆっくりと帰ろうか」

「はい。大樹となら渋滞も楽しいデートです」


結局、レンタカーを返したのは、午後七時を過ぎていた。

「夕食、一緒に食べれる」

「もちろんです」

「三茶は無いから、渋谷か二子玉。どちらがいい」


僕の顔をジーっと見ている。

「大樹は」

うっ、投げ返された。

「・・・」


「今日は、いいですよ。お母さんにも遅くなると言ってあります」


えっ、・・・。今度は、僕がじっと彼女の顔を見た。その笑顔、どう見ても僕を試している。

「じゃあ、渋谷」

下を向いてしまった。


ゆっくりと顔を上げると

「行きましょうか」


彼は、二三才。私は二一才。まだ若いけど。後、三年も経てば・・。

電車の中で下を向いている彼女に小さな声で

「ゆっくりでいいよ。まだ時間あるし」


彼は、私の気持ちを読んでくれたんだろうか。優しい人。この人なら。


「何のことですか。何食べようか、考えて頂けです」

「そうか」


結構強情だな。


今日は、そちらに行かない様に、二四六を挟んだ向こうにあるビルの三階のイタリアンレストランを選んだ。


「「楽しかった一日に」」

グラスを合わさない様にして乾杯すると彼女が微笑んだ。


一時間半位経ったか、

「大樹、そろそろ出よう」

「そうしようか」


チェックを終わり、外に出ると、気温がちょうどよくなっていた。少しアルコールも入っていたので、気持ちいい。


手を握られた。僕の顔をじっと見ている。こちらには、その地区はないはずと思うと

「少し、酔いを醒まして帰ろうか」

頭を縦に振った。


坂上まで来ると横断歩道を渡って、二四六沿いに渋谷駅に向かえばいいはず。

彼女は手をしっかりと握って、僕の顔を見ている。

「坂上まで行って、横断歩道渡ったら、駅に行こうか」


今度は何も言わずに歩いている。横断歩道を渡って、渋谷駅に向かって今度は、坂を下る。少し冷めて来た。


途中まで来ると急に立ち止まり、左に行こうとする。そっちはダメだって。

まっすぐ歩こうとする僕の手を握って動かない。


彼女の目線に合わせて

「今日、帰ろう。桂の事大事だから」

「だめ、今日は良いって言った。気持ちの準備出来ている。大樹、私の事、大事なら離れない様にしてほしい」


困ったなあ。どうすれば。

そうこうしていると、周りの人がじろじろ見ている。

不味いなあ。これじゃ、僕が誘っているみたいじゃないか。よし、一気に道玄坂を下って駅に行く。


手を繋いで、左に曲がった。あっ、まさか、ここ、まだ有ったの。

策士、策に溺れる?仕方ないか。


彼の腕の中。初めて。でもいいんだ。私が選んだ人だから。


桂を送って家に帰った時は、零時を過ぎていた。



―――――


初夏の陽気は、人の心を惑わせる。でも大樹君、どうするの?


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。


宜しくお願いします。



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