第20話 妹は兄の気を引きたい
柳瀬桂(花屋の娘)との心の営みを順調に・・って、えーっ。
大樹君。この前、絵里奈さんと・・・。
どうするんでしょ。このままにしておくと・・・。
ちょっとデートの後半も
―――――
渋谷で食事をした後、桂さんを家まで送って行った。彼女は、まだお酒を飲めるという程ではないようで、白ワイン一杯で赤くなった。
食後、公園通りの方を歩いた。手を繋いで。有名なTV局辺りまで来ると人も少なくなっていた。
「広瀬さん、どのような女性が好きですか」
いきなり直球だ。
「えっと、優しい人かな」
当たり障りのない回答に
「私は・・その中に入りますか」
ワイン一杯だけだけど、私に勇気を出させるには十分だった。思い切って聞いた。昼の事を考えると拒否はされないだろうという思いを抱いて。
「・・・僕は、柳瀬さんと初めて会った時、心にストンと落ちるものがありましたと言いました。今もその気持ちは変わりません」
「・・・私もです。広瀬さんの側にいつも居られたらと思っています」
繋いでいた左手をそのままに彼女の正面に立った。僕に近づいて来た。繋いでいた手を放し、ゆっくりと彼女の腰に手を回した。
ぼくに顔を向けて目を閉じた。
ゆっくりと唇が近づく。最初は触れ合うだけ。やがて、お互い相手の唇を吸うように、そして優しく。
一度唇を離すと、僕の腰に回している手をぎゅっ締めて来た。体を思い切り付けて来る。
今度は、彼女から唇を付けて来た。それに合わすように僕も唇を付ける。自然に僕の右手を、彼女の左胸下に持っていくと、左手で止められた。
「もう少し、待って。まだ、気持ちが・・」
「ごめん」
「広瀬さん送っていくよ」
「桂って呼んで下さい」
「桂さん、送っていくよ」
「かつらです。」
「・・・」
「桂、送っていくよ」
「はい」
僕から離れて、顔が花開いたように明るくなった。
それから、同じ駅に降りるので電車で一緒帰った。彼女の家は、僕の家と駅を挟んで反対方向に有った。別れ際にもう一度、唇を合わせた。
§
お兄ちゃん、最近週末になると遅く帰って来る。
今日も夕食は、外食だ。英里奈さんとは会っていない様だし。誰と会っているのだろう。
一人で夕飯を食べるのは、寂しい。二人で食べたい。私にもっと魅力があれば、もっと一緒に居てくれるのかな。
おフロから出た音がした。机の上にある時計を見ると、十一時半。まだ、少し話せるかな。
コンコン。
「入っていい」
「いいよ」
じっと顔を見る。特に変わったところは、なさそう。
「お兄ちゃん、明日用事ある」
「・・どうして」
「なければ一緒に居て。・・最近週末は、いつも朝から夜遅くまで出かけている。たまには麗香と一緒に居て」
少し、目が潤んでしまった。
「いいよ。明日は、ずっと麗香の側にいる」
「ありがとう。じゃあお休み」
悪い事してたかな。確かに親が、ニューヨークに赴任して一年が過ぎた。慣れもあっただろうけど、家を空ける日が多かった。
受験生とは言え、一人で食事をするのは、寂しかったか。悪かったな。
よし、明日は、一日、家にいるか。
お兄ちゃん、私のパジャマ姿見ても何も言わなかったな。
パジャマの裾を掴んで、前に伸ばしてみる。
結構、子供っぽいか。そうだ。明日、お兄ちゃんと一緒にパジャマ買いに行こう。少し、大人っぽいのを買って、見せつければ、少しは意識してくれるかも。
§
うーん、手と足を延ばし、カーテンの隙間から入って来る光で、朝が来たことが分かる。
机の時計を見ると八時半を過ぎたところだ。
そろそろ起きるか。
パジャマ姿のまま、階段を下りていくと、リビングで麗香が、新聞を読んでいた。僕を見ると
「おはよう」
「おはよう」
「朝食の準備出来ているから、顔洗ってきて」
「うん」
麗香は、それを言うと台所へ足を向けた。
テーブルに白いご飯、お味噌汁、つくだ煮、紅鮭、海苔が並べられていた。
全部、麗香が作ったのか。夕飯も同じように作って待って居てくれたのか。申し訳なさで、胸がちょっと詰まる思いがした。
「おいしそうだな」
嬉しそうな顔で言うと
「食べよ」
「「頂きます」」
「お味噌汁、美味しい」
「いつもと同じだよ」
「そうか。でも今日は、一段と美味しい感じがする」
ふふっ、とだけ笑った。
「お兄ちゃん、今日買い物したい。一緒に来てくれる」
「いいよ。何買うの」
「それは、行った時に」
また、ふふっと笑ってご飯を食べている。何を買うつもりなんだろう。まあいいか。今日は一日、麗香と一緒に居るって約束したし。
妹と二人で二子玉に来ている。以前と比べると、商業施設が大幅に拡充されている。今日も人手が多い。
妹の足の向く方にそのまま付いて行く。ついて行くと・・・
「麗香、外で待って居る」
僕の手を掴んで、
「ダメ、一緒に入る」
「えっ、でも居ても邪魔だろうし。ちょっと男が入る場所では」
「いいの。お兄ちゃんが、選んで」
「いやいや、ムリムリ」
入り口で兄妹と話していると、周りの女性達が、怪訝な顔で僕だけを見ていく。
やばい、なんか、あの兄妹なんですけど。念じる念じる・・僕のテレパシーは、皆さんに通じないのか。
・・・普通通じないよね。そんな能力無いし。
結局引きずられて中へ、反対の並びには、見てはいけないものが、マネキンに着せられている・・。
「これなんか、似合うかな」
見せられたのは、半スケスケのネグリジェ。
「や、やっぱり、外で・・」
「だめ」
もう。
「麗香、若いから、もう少し、厚手が」
「もう初夏だよ。薄着でないと暑いでしょ」
「これは、」
今度は、二着見せた。左手は、ピンクで透けてはなさそう。でも薄い。 右手のもう一つは、胸と腰の部分が、透けてなく、腕やお腹辺りは、透けている。
「左手の方が」
「えーっ、こっちの方がいい感じするんだけど」
と言って、ネグリジェを僕の顔の前に突き出した。
「分かった。分かった、暑くて汗かくから、じゃあ二着買ったら」
店から出る事で頭一杯の僕は、無難に事を済ませようと・・
「じゃあ、両方買うね。後、こっちに来て」
左手にパジャマを持った麗香が、右手で僕を引く。目の前に並んでいるのは・・
ブ、ブラ・・。そりゃ、僕も見ていますよ。絵里奈のも・・でも、でも、ここではシチュエーションが違うでしょ。
「麗香、さすがに勘弁してくれ」
「えっ、なんで」
「えっと、いくら妹とはいえ、下着の選択までは、・・・」
「いいでしょ。今日は麗香の側にずっと居てくれるって約束した」
上目づかいでじっと見て来る。
僕の心臓は、完全に・・。頭はパニック。
「まいったなあ。もう」
「えっ、お兄ちゃんどうかしたの」
いたずらっぽく、目を細める。
「食事にしよ。食事に」
「うんそうだね。麗香、一階の中華飯店がいい」
「時間が時間だから、少し待つけど行くか」
「うん」
お風呂の中で、足を延ばしながら、
えへへ、今日は、ずーっと、お兄ちゃんと一緒だった。いっぱい側に居れた。手も繋げた。
下着売り場のお兄ちゃんの顔、茹でタコみたいだった。
今度選んだ下着、お兄ちゃんに見せよう。もちろん着てね。・・ふふっ、何とか、妹から女性へと認識を改めさせるのだ。 そうすれば・・。
本当は、今日だって、お兄ちゃんのベッドで一緒にと思ったら、疲れたと言って、サッと寝てしまうんだもの。
でも、一度に無理は禁物。ゆっくりとね。私の魅力見せつけてあげる。絵里奈さんにだって、負けないんだから。
―――――
麗香ちゃんのお兄ちゃんの気を引き付ける作戦、少しは、成功したかな。
次回は、久々に緑川さん登場です。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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