第19話 花屋の娘とデートパートⅡ
柳瀬桂(花屋の娘)さんと大樹のデートです。前より進展があるかな?
―――――
今日は、先々週に柳瀬さんと約束したデートの日。初めてのデートから何回か会っている。
今日で四度目かな。声を掛けてからもう三ヶ月が経った。もうすぐGWだ。
いつもの待合せ場所、駅の改札口で待っていると、柳瀬さんが現れた。今日は、ベージュのスカートに淡いピンクのブラウスに白のカーデガンを着ている。足元は、ローヒールのパンプス。
爽やかな春の感じがする。
「待ちました」
「僕も今来たところです」
定番のやり取りをした後、改札を通る。今日は、渋谷で映画を見る予定。
改札を通って、二階下のホームに着くとちょうど電車が入って来た。日曜日も十二時を過ぎると結構混んでくる。座ることはもちろん、吊革にも掴まれない。
仕方なく、入り口の中ほどに立って、二人で向き合っていると、電車が動き出した。田園都市線の揺れには体が慣れているので、進行方斜めに足を向けて立っていると、動き始めてすぐに急ブレーキがかかった。
「きゃっ」
そのタイミングで、柳瀬さんが、僕の胸に飛び込ん来た。突然だったので、彼女の体を体で止めて、腕で包み込むようにすると、何とか倒れずに済んだ。周りの人は結構悲惨。
彼女の体は、とても細かった。そして柔らかい。シャンプーの匂いだろか、オーデコロンの匂いだろうか、甘ーい匂いがしてくる。そして、とても柔らかい物が胸に当たっている。ふにゅって感じ。不味い。でもこのままでも・・。
「済みません」
顔を赤くして、かろうじて僕の顔を見ている。
手を緩め、離れようとすると彼女の手が、僕の腰の回ったままだ。
「えっと・・」
離さない。
耳元に
「僕も嬉しいのですけど、周りの人が僕たちを・・」
言い終わる前に
「あっ」
と言って、サッと離れた。でもまだ、距離が近い。
赤くなっている顔を下に向けて、僕にしか聞こえない位の声で
「すみません」
隣の池尻大橋を通過した。少しして、ブレーキが掛かったが、今度は、体が飛んでくることは無かった。
「昼食を食べてから映画を見に行きましょう」
「はい」
もう、先ほどの事は忘れているようだ。映画の予約時間は、昼食をゆっくりとれる時間にしてある。
映画館のある通りを一つ越えた通りのレストランに入る。
店員が、メニューとおしぼりを置いていくと
「何にしましょうか」
「ラザニアで」
「僕は、ハンバーグにします。コーヒーは、映画館の近くのお店で飲みましょうか」
「はい」
「もうすぐ、ゴールデンウィークですね。どこか行かれるのですか」
「いえ、特には、お店は開けますし」
「そうですよね。失礼しました」
「いえ。広瀬さんは、会社員なので、長い連休になるのですか」
「まあ、カレンダー通りに休みます。特に行く所も無いので・・。一日位、二人でどこか行きたいですね」
彼女の目が大きく見開いて、嬉しそうな顔になった。
「実を言うと私も同じ思いを・・」
「では、連休入る前までに二人で決めましょうか。スマホで連絡取れますし。あっ、お店がお休みの日を聞かないと」
「母に聞かないと分からないので、今日帰りましたら、聞いて連絡します」
「分かりました」
注文の品が来たので、会話を止めた。
映画館の近くのコーヒーショップに移る。まだ、映画まで一時間有った。
「先ほどの話ですけど」
「行先ですか。そうですね。広瀬さんは、どちらがお好きですか」
質問を質問で返された。ここは、答えるしかなさそう。
「うーん。海かな」
「では、私も海」
「なんか、僕に合わせただけの様な」
「いえそんなことないです。広瀬さんの行きたいところが、私の行きたいところです」
そう言いながら頬が赤らんでいる。歯が浮きそう。電車の中の事といい、僕、都合のいい方に捉えていいのかな。柳瀬さんにはっきり聞ける訳ないし。
「では、場所は、スマホで連絡と言う事で」
「はい」
映画は、海外のミュージカルを題材にしたもので、結構人気があるらしく、席は満杯だった。
左に座る彼女の手が、僕の手の甲に触れた。
えっ、ゆっくりと目だけ動かすと、彼女はスクリーンを見ているだけだ。こちらを見てはいない。
そっと据えられた手は、動くこともなく、たまにしっかりと僕の手の甲を握ったりしてきた。ちょっと気になって映画が頭に入ってこない。
柳瀬さんって積極的な人。勘違いしそう。頭の中が、そっちに飛んで行っている。ちらっと顔を見るとやはりスクリーンを見ている。
僕が、手を上げて彼女の手を今度は握るようにすると
ぴくっ、と体が動いた感じがした。でも顔はスクリーンを向いている。やがて彼女の手が、一度離れたと思ったら、手のひらを僕の手のひらに充てて来た。ゆっくりと。
僕の指の間に彼女の指が、絡んでくる。まるで指の横を撫でる様に、僕の指の間に彼女の指が入って来る。とても細い指。彼女の指の付け根が僕の指の付け根と出会った。恋人握りの様になっている。
柳瀬さん、僕に・・・。
映画が、ほとんど頭の中に入らないまま、終わってしまった。
エンディングが終わり、館内が明るくなると、柳瀬さんが、こちらに顔を向けて、柔らかく微笑んだ。
「ありがとうございます。映画見ていたらつい。迷惑でしたでしょうか」
「あっ、いえ、そんな事ないです。まだ、手も握ったことなかったので、その・・。嬉しかったです」
ふふっと微笑むと
「出ましょうか」
手はそのままに、二人で館内から外に出た。
「すみません。ちょっと」
「あっ、僕も」
「では、ここで待ち合わせしましょう」
ふふっ。広瀬さんの手を握れた。知り合って三ヶ月、デートも4回目なのに手も握ってくれない。
電車の中で、ちょっと強硬に出たけど、彼、拒絶しなかった。『僕も嬉しいのですけど』と言ってくれたので、映画を理由に手に触ってみた。そしたら、今度は彼から私の手を触ってきた。
だから、彼の指と指の間に私の指をゆっくりと撫でる様に入れてみた。ちょっと心がしびれちゃった感じ。でもこれも彼は、拒否しなかった。嬉しい。
これも良かったみたい。広瀬さん、私の事、どう思ってくれているのかな。
柳瀬さんから手を握って来るとは。それもゆっくりと指の間に指を入れて来た。どういうつもりなんだろう。
でも、ああするってことは、僕に好意的と思っていいんだよな。今日夕食誘ってみようか。
待っていると、柳瀬さんが、出て来た。
一緒に外に出ると、大分暗くなっている。何げなく腕時計を見ると六時半を回ったところ。誘ってみるか。
「柳瀬さん。もしですけど、都合よければ夕食も一緒にどうでしょうか」
「・・・」
「あの、無理にとは言いません」
「母に確認しても良いですか。夕飯作っていると思うので」
彼女はバッグからスマホを取り出すと
『お母さん、今日、夕飯外で食べていいかな』
『あっ、うん。遅くならない。広瀬さんと一緒』
『ありがとう』
「大丈夫です」
「それは良かったです。和洋中、いずれにしましょうか」
「広瀬さんの好きなところで」
「分かりました」
―――――
ふむ、ちょっと進展あり?でも二人共、自分に自信無しモード。
次回は、夕食場面から・・かな?
明日も今日くらいの投稿時間になりそうです。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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