第17話 幼馴染とデート後編


大樹君、久々に絵里奈(幼馴染)とのデート、続きます。


―――――

絵里奈と一緒に駅に向かう。

「絵里奈、今日は、何処に行くの」

「う、うん。付いて来て」


いつもの事か。と思ってついて行くことにする。途中、桂さんの花屋を通った。彼女が、店先の鉢を整理している。目が合うと桂さんが自然に頭を少し下げて笑顔を見せてくれた。


絵里奈が隣にいるが、と思いながら僕も頭を下げて笑顔になった。


えっ、大樹、なんで。


そのまま通り過ぎようとすると

「大樹、今、お花屋に居た女性、知合い」

「あっ、うん。絵里奈の誕生日の時、花を選んでもらった」


どういう事。あの赤い薔薇と白い薔薇は、大樹が自分の気持ちを私に告げる為に自分で選んだのではなかったの。

 それにあの笑顔。花屋の店員が、花を一回位買いに来たお客に見える笑顔ではなかった。


急に胸の中が詰まった感じがした。

大樹は、先ほどの事など、何も気にしない顔で隣を歩いている。後で聞いてみよう。


「絵里奈、二子玉」

「ううん。今日は渋谷」

「渋谷。珍しいね。絵里奈いつも二子玉だし」

「今日は、ちょっと行きたいところが有って」

「そうか」


いつもの様について行けばいいか。と思って絵里奈の顔を見ると、家を出た時に明るさがない。どうしたんだろう。


去年出来た、渋谷駅前の商業ビルに来ていた。

「一応、二階から七階までのお店を見たいけど、いいよね」

「いいよ」

いつものウィンドウショッピングか。


絵里奈はいつものように各階毎のお店をサッと見る時もあれば、入念に見るお店もある。


「大樹、この靴どうかな」

「うーん。分からない」

「もう、色とか、形とか、何か言えるでしょ」


淡いクリームに少しだけピンクが入って、とても綺麗な形をしている。ヒールは低めだ。

「絵里奈に似合っているんじゃないかな」

「そう、ちょっと履いてみよう。サイズあるかしら」


店員と話している。

今度は履いて見せて来た。

「どうかな」

「うん、似合うよ」

「じゃあ、これにしよう」


その後も、色々見て回った。

「少し休もうか」

「そうだね」


エスカレータを降りながら、各階を見ると、三階にオープンテラスと室内にテーブルを持つスイーツのお店が有った。

「大樹、ここにしよう」


先にレジ兼用カウンタで、注文をするシステム様だ。

「絵里奈。何にする」

「アイスミルクティとアップルケーキ」

「了解。テーブル確保しておいて」


お店の中を縫うように歩きオープンテラスに行くと空いているテーブルが、有った。

ここにしよう。視線が気になるが、いつもの事だと、思っていると

「お一人ですか」


声の方を見ると二人の若い男が立っていた。チャラそうだ。

「いえ、連れがいます」


答えるのもうざいと思っていると、

「良かったら、僕たちと一緒にお話ししませんか。連れの方も一緒でいいですよ」


どうも連れは、女性だと勝手に勘違いしているようだ。

「結構です。邪魔なので、どいてください」

「そう言わずに。僕達楽しいですよ」


さすがに、面倒になって来た。向こうから、注文した品をトレイに乗せて大樹が歩いてくる。


「もう、連れが来ましたので」


立ち上がって、わざとらしく手を振る。


絵里奈が注文した、アイスミルクティとアップルケーキ。それと僕のアイスコーヒーとチーズケーキをトレイに乗せて、絵里奈の方へ向かうと、二人の男が、話しかけている。

 ナンパされているのか。やはり渋谷だなと思いながら、見ているとちょっとしつこい様だ。

「絵里奈、お待たせ。持ってきたよ」


二人の男の後ろから声を掛ける。絵里奈が男たちを無視して、僕に声を掛けた。

「ありがとう」


「なんだ、野郎が連れか」


僕を見上げる様に言うと、二人が去って行った。簡単に身を引くなと思っていると絵里奈が僕の後ろに目をやっている。

 僕も振り返ると、店員がこちらを見ている。僕と顔が合うと、お辞儀をしてカウンタに戻った。


「大樹、遅い。変な輩に声を掛けられたじゃない」

「ごめん、ちょっと混んでいて。注文出来るの、待っていたんだ」

「まあ、いいわ」

周りを見るとこちらを見ていた人たちが、視線を元に戻している。


「この後、新しいパルコに行くから、ついて来て」

「えっ、まだ行くの。それにもう四時半だよ」

「いいの、今日はお母さんに、夕食は大樹と外で食べると言ってある」

「えーっ、聞いてないよ」

「言ってないもの。駄目なの」


先ほどの件もあり、仕方なく

「いいよ。でもちょっと待って。妹に連絡する」


パルコと正反対にある、ワインの美味しいフランス家庭料理のお店だ。何度か来ていて、マスターとも顔見知りになっている。


「ソフトシェルクラブは、ワインに合うな」

「私は、ちょっと苦手。こちらのローストポークの方がいいわ」


二人で、ボルドーのサンテミリオン地区のメルローとカベルネソービニヨンを合わせたワインを飲んでいる。

 絵里奈は、ブルゴーニュのシャブリを好んで飲んでいた。会話は、今日のウィンドウショッピングと商業ビルのことだ。

楽しそうに話す彼女を見ていると、やはり綺麗だなとおもってしまう。スタイルだって悪くない。つい視線が顔から喉元に、そして胸に行ってしまう。


「ふふっ、大樹酔ったの」

急いで視線を外して

「いや、この位じゃ、酔わないよ。」

「そう」


まずい、後で何か言われそうだ。


「大分食べたね」

「そうね。お腹もいっぱいだし、少し歩かない」

「いいよ」


四月とはいえ、夜は結構冷える。絵里奈の手が、僕の手に絡んでくる。何も言わないで前を見ながら。

「もう少し、あっち方向に行こう」


駅を中心に扇形に宮益坂方面からハンズ方向に抜ける。結構近い。


「ねえ、まだ、八時半。帰る。もう少し行く」

「絵里奈は」

「大樹が決めて」

心の中で、もう少し一緒に居たいと念じる。


「うーん、もう少し居ようか」


ふふっ、良かった。

「じゃあ、何処に行く」


前に緑川さんと一緒に入ったカウンタバーは、不味いと思い、別の店にした。


僕は、ジャックダニエルのロックを頼む。絵里奈は、ヴーヴクリコのイエローラベルをグラスで注文した。


カウンタの中のバーテンが注文した飲み物を持ってくると

「大樹。今日はありがとう」

「うん、僕も楽しかった」

「そうか、楽しかったか」


うんっ、どう意味だろう。と思っていると絵里奈が、僕の方に体を向けて下から覗き込むようにしてくる。昼間では、分からなかったが、胸の谷間がしっかりと見えた。絵里奈は大きいのではっきりわかる。

ハッとして、目を逸らすが、遅かった。


「ふふっ、大樹のエッチ。見たでしょう。さっきも見てたよね」

「えっ、何の事」


嵌められたと思った。


「大樹が、望むならいいわよ。私しか見ないと約束してくれているし」

ジーと僕の顔を見てくる。


何気に押されている。何とか会話を変えないと・・。

「もう、キスまでしっかりしているし、家にいた時、胸も触って来たでしょ。大樹に気持ちあるなら、いいのよ」


「絵里奈、少しお酒飲み過ぎ」

「お酒の力を借りたのは、まあ、仕方ないけど、私、真面目に大樹と・・」

「お酒無い時の方が、 良くないか」

「お酒飲まない時、誘ってくれるの」

「それは・・」


素面でそんな事、出来る訳ない。なんで、女性は、こう強いんだろう。


「こんなに一生懸命、勇気を出して、言っているのに。私、そんなに魅力ない」


目が悲しそうになって来た。

どうしよう。でもここでOKだしたら・・・。


こんなチャンス、そうそうない。大樹と体を合わせられれば、一歩進む。

手を大樹の腿の上に優しく載せてみた。


えっ、僕は、絵里奈の目をじっと見た。本気だ。でも・・。

考えて答え出るのか。いま、断ったら、絵里奈どうするつもりだろう。受け入れたら、それはそれで、難しい世界の窓を開けたことになりそうだし。


考えていると、

「分かった。こんなに恥ずかしい思いをして、一生懸命お願いしているのに。朝から一生懸命考えたのに。大樹は、別の人が好きなの。私を好きと言ってくれたよね」


不味い。僕は、バーテンにチェックを入れると絵里奈の手を取って、外に出た。

少し、冷たい風に当たれば、冷静になるだろう。


外に出た時、絵里奈が僕に抱き着いて来て、顔を上げてじっと見ている。


「絵里奈、本当にいいんだね」

何も言わずに頭を縦に振った。


 初めての感覚に、恥ずかしさも加わって、ただ声を上げていた。やがて、痛みが走って、一瞬、大樹の体を引き寄せた。後は、覚えていない。


 いまは、大好きな人の腕と体の間に寄り添うようにしている。

「大樹、嬉しい」


「うん」


家に着いたのは、零時を回っていた。

絵里奈が玄関に入る前、振り向いて笑顔を見せてくれた。



――――


絵里奈の戦略勝ちかな。



面白そうとか次も読みたいなと思いましたらぜひ★★★頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。


お願いします。

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