第14話 大樹の疑問


幼馴染絵里奈の行動に悩む大樹君・・。


―――――

 季節は、もう二月を終わろうとしていた。徐々に春の足音が聞こえてくる。

妹の麗香も高校三年になる。今日も塾に行っている。


 絵里奈とは、あの件以来、会ってもいない。二月初めに行く約束をしていたドライブも流れてしまっている。

 柳瀬桂さんとは、あの後、もう一度、デートをした。夕食も一緒にした。素敵な女性だ。


僕は、土曜日の午前中をベッドの上で過ごしていた。

「このままじゃ、不味いだろうな」


 絵里奈のお母さんと外で顔を合わせたことがあるが、何も無かった様に笑顔で挨拶してくれている。


「一度、絵里奈ときちんと話をしてみるか。あいつの頭の中は、緑川さんとの事で、いっぱいだろうし」


 でも、どう言えば、いいんだ。緑川さんの色香に誘われて自分を見落としていました。なんて言ったら、何を言われるか分からない。

 誤解は解きたいな。実際、緑川さんとは、何もないんだから。


「でもどうして、絵里奈は、あそこまで怒ったんだ。別に絵里奈とは、幼馴染と言うだけだ」

 あっ、でも幼馴染だから訳を知りたいと言っていたな。確かに。僕も絵里奈が、全然知らない人と、あんな所にいたら、誰だ、なぜこんなところにいる。って聞くだろうし。恋人でもないけど、やっぱり気になる。幼馴染か。


天井を見ながら考えていた。

スマホがピンポンと誰かが、連絡してきた事を教えた。何気なく、画面を見ると

「お兄ちゃん、今塾終わった。帰るね~。・・あっ、そうだ。絵里奈さんが、知らない男性と歩いていたよ。さっき」


 そこで終わっている。中途半端な言い方だ。

 絵里奈が、知らない男性と歩いていた。どういうことだ。土日は休みのはず。頭の中で想像するも、絵里奈が僕以外の男歩くなんて考えられない。誰なんだろう。


 なんで、絵里奈のこと考えているんだ。


「ただいま。お兄ちゃん、帰ったよう」


妹が帰ってきた。


「お帰り」

妹からの連絡後、さすがに起きて、リビングで新聞を読んでいた。


「昼食まだなんでしょう。すぐに作るから待ってて」

「えっ、悪いよ。何か、買ってくるよ」

「何かって。私が作った方が、早いよ。簡単なものだけど。それよりリビングの掃除してくれた」

「あっ」

「もう、自分で言い出したんだから、やってよね」


絵里奈の件で、頭がいっぱいだった。


「分かった。昼食後、やっておく」


昼食を終えて妹が食器を片付けていると

「お兄ちゃん、絵里奈さん、若い男の人と歩いていたわよ。楽しそうな顔をして」


内心を読まれないよう

「そうか」

「いいの。将来の奥様でしょ。あんなに素敵な人、いないよ。私は、お兄ちゃんの奥さんになる人は、絵里奈さんだといいんだけど」

「絵里奈は、幼馴染だ。愛だ、恋だの対象じゃない」


手をタオルで拭きながら、近寄って来て

「ほんとーに、本当にいいの」

「当たり前だろ。絵里奈が恋愛対象なんて考えられない」


じーっと僕の顔を覗くと

「へーっ、そうか。単にヘタレだと思っていたけど、本当にいいんだ。じゃあ、私は知らない」

「えっ、どういう意味」

「自分で関係ないって言ったじゃん。私、勉強するね。リビングのお掃除お願いね」


それだけ言い残して、自分の部屋に行ってしまった。


 リビングは掃除したものの、頭の中が絵里奈とその若い男の事でいっぱいだった。

 ここ一ヶ月会っていない。絵里奈に限ってと思うが、あいつ、僕が緑川さんと何回も関係を持ったと誤解している。

まさか、ありえない。


部屋のドアをノックする音がした。妹が何か用事なのか。

「いいよ」

ドアがゆっくりと開くと最近見ていない顔が覗いていた。


「大樹。・・入っていい」


なんで、絵里奈が、さっき麗香が渋谷で男と会っているって。


「あ、ああ。いいよ」


僕が、ベッドに一人で横になっているので、部屋の隅に女の子座りしている。


「・・・」


「・・・」


十分位経ったはず。


「何か、用事があるから来たんだろう」


「うん」

下を向いて返事をした。

ベッドから起きて、僕もカーペットの上に一緒に座る。


「大樹。教えて。あの時、一緒にいた人は、大樹の恋人。付き合っている人」


 絵里奈の目が真剣に見つめてくる。それなりの思いで来たんだろう。しっかり説明する必要があると思った。


 僕は、緑川さんが同じ学部に居た事。たまたま、同じ会社に入社して、同じプロジェクトに配置されたこと。緑川さんの家庭内でおかれた事情。

 そして僕へのアプローチの理由を話した。もちろん、関係を持つどころか、なんの感情もない事。

 もちろん、あの場所に居たのは、そういう流れだったことも。

すべて説明した。


その話をしている間、目を逸らさずにじっと僕の顔を見ていた。


「分かった。じゃあ、まだ、大樹はしてないんだよね。誰とも。キスも」


はあ、そこかよ。


「そうだ。誰ともしていない。そんなに気になっていたのか」

「うん」


今度は目を逸らして頷いた。


また、少し、静かな時間が流れた。


「大樹、明日、会いたい」


「いいよ。絵里奈の頼みだったら、Noと言わないって言っただろ」


急に眼を大きく開いて、今までの顔が嘘のように笑顔が広がった。


 うぐっ。

 いきなり、絵里奈が抱き着いて来た。女性でも体が大きい方だ。体がベッドの横まで押された。絵里奈の胸は大きい。思い切り押し付けられている。手は、僕の首に回して、顔を肩に乗せて抱き着いてきている。


「えっ、おまえ、ちょっ、ちょっと」

「お願い、少しだけでいいから」


「お兄ちゃん、変な音したよ。どうし・・・。失礼しました」


妹が呆れた顔して、自分の部屋に戻った。ドアが開け放してあったのを忘れていた。


 絵里奈が落ち着くまで、そうさせた。体のぬくもりが直に感じる。僕の心臓は、バクバク。理性維持大変。

 ゆっくり、肩から顔を話すと僕の顔の前に来た。唇が近接戦闘準備している。

絵里奈が目を閉じて、接近してきた。


 もうーっ、いいや。僕から唇を付けた。ゆっくりと背中に手を回して。マシュマロの様にとても柔らかい。唇を合わせているだけ。お互い初めてだし。

少しだけ、下唇を吸うようにすると、更に体を押し付けてきた。


ゆっくりと絵里奈が唇を離した。そしてまた、肩に顔を乗せた。

「大樹、好き。ずっと好きだった。・・私以外、誰も好きにならないで」


絵里奈の頭の後ろに手を持っていき、優しく撫でてあげた。

「わかったよ」


「じゃあ、今日は帰る。明日、十時には来るね」


頭が、ぼーっとしていた。何だったんだ。あんなに悩んだのに。絵里奈の奴。


あっ、渋谷で一緒の若い男・・。聞いてない。


えへへっ、大樹の初めてキス。私にしてくれた。


――――

幼馴染の突然の積極攻勢。成功した様に見えますが。


でも、でもですよ。最近柳瀬桂さん(花屋の娘さん)とデートしたのでは。

緑川恵子さんとまだ何も・・。



面白そうとか次も読みたいなと思いましたらぜひ★★★頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。


宜しくお願いします。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る