第13話 花屋の娘とデート


大樹は花屋の娘柳瀬桂とのデートを取り付けます。

デートの前にちょっと大樹の独り言

―――――

絵里奈と口喧嘩した翌日。早朝から目が覚めていた。昨日の事があったからだ。


少し言い過ぎたなと思ったが、あそこまで絵里奈に言われる筋合いはないとも思っていた。


緑川さんの事は、確かに中途半端なままだ。

僕はどうしたいのだろう。緑川さんの事、好きなのか。愛しているのか。どれでもない。

お酒の勢いで、彼女の女性としての色香で、単に自分の欲求に勝てなかったから、あんな中途半端な気持ちになってしまったというとこだろう。


 緑川さんは、僕の事が好きだと言っている。体を許してもいいと、だから自分の夫になってくれと、本当にそれでいいのか。


 もう少し時間があれば、彼女への気持ちも何らかの形が現れると思う。彼女に良い結果か否かは、分からないが。


絵里奈の事はどうなんだ。生まれた時から一緒にいて・・。確かに絵里奈の言う通りだ。

物心つく前から一緒に居て・・。


幼稚園、小学校、中学校、高校といつも一緒だった。中学、高校の部活も一緒。周りの友達も、皆、僕たちが恋人同士と思っていた。実際は違ったが。


 大学に行っても、絵里奈には、色々な事を話した。好きな人が出来そうと言った時は、必ず邪魔をしに来た。空々しい演技で。


 でも僕はそんな、絵里奈が好きだった。でも愛ではない。今一番大切な人という感じだ。

緑川さんと絵里奈。考える必要もなく、絵里奈だろう。


 じゃあ、なぜ昨日あんなことに・・。原因は、僕の行動だ。もし絵里奈がいなければ、間違いなく緑川さんと体を合わせていた。

 絵里奈と出来るか同じ事。・・無理だ。



考え事をしている間に時間が過ぎた。昨日セットした目覚ましが、八時半の時刻を知らせる。

今まで考えていた事を頭の中から追い出すと躊躇なく起きた。


例によって、パジャマ姿で降りていくと

「えっ、お兄ちゃん。まだ八時半だよ。珍しいね」

「ああ、ちょっと用事があってね」

「ちょうど、朝食食べるから一緒に食べる」

「麗香。ありがとう。いつも悪いな」

「ううん、私の役目だから」


おかしいな。いつもは、お礼なんか口にしない。心で思ってくれては、いるのだろうけど。

昨日、リビングが賑やかだった。関係あるのかな。触らぬ神に祟りなし。とりあえず昨日の事は触れずにおこう。



僕は、九時半に家を出た。駅まで五分。少し早いけど、初めての待合せ。僕が後になる訳には、行かない。


地上から駅の改札に降りていくと、改札正面の反対側の壁で立っている女性を見つけた。さすがにこの辺は、ラブコメのテンプレ的なナンパするような輩はいない。ただ、道行く人が、彼女を横目でジロジロみているのが、分かる。

でも参ったな。まだ、二五分前だ。


近づいて行く僕に気が付いたのか、軽く微笑むと近づいて来た。

耳にゴールドの可愛いイヤリングを付けている。白のタートルニットにふわふわな感じのジャケット。長いプリーツのスカート。着飾らないけどお洒落な感じ。


「おはようございます」

素敵な笑顔で言ってくれた。

「おはようございます。待たせて済みません」

「いえ、私も今来たところなんです。まだ二五分前ですね」

「そうですね」


二人して小さく笑った。


「十時待合予定だったから、少し早いですが、二子玉に行きましょうか」

「はい」


天気は良く、風もない。素敵なデート日和だ。


「突然お誘いして済みませんでした。あなたと話がしたくて」

「私、名前、柳瀬桂と言います。あなたではなく、桂で良いですよ」

「い、いやいきなり名前呼びは・・。柳瀬さんで。あっ、僕の名前、広瀬大樹と言います」

「ふふっ、では、広瀬さん。どうします。これから」

「少し、歩きませんか。今日は天気も良いし風も無いので」


「この辺は、変わりました。僕の祖父の時代は、二子玉川園という遊園地だったそうです。父が良くつれてこられたそうだです。まだ電車も田園都市線でなかった時代でしたが。

 僕が生まれた頃は、もう何もなかったですが。でも今は、こうやって整備されて綺麗です。おかげで柳瀬さんとこうして二人で歩いていることが出来ます」


最初、何を言い出すかと思いましたが、最後を言いたかったのですね。可愛い人です。


「嬉しい言い方をなさいますね。私も広瀬さんとこうして二人で歩くことが出来て嬉しいです」


言葉続かない。こういう状況なかったしなー。どうしよう。


彼女の方を見ると彼女も僕の方を見ていた。


「広瀬さん。私も男の人とこうして歩くの初めてなんです。お話しするのも。だから上手く話が出来なくて済みません」


「あっ、いえ。僕もこういう状況初めてで・・。上手く話を持って行けなくて。済みません」


目が合った。自然と笑いがこぼれた。素敵な笑顔の人だな。


想像していた感じと同じで良かった。優しくてちょっと口下手で。


「「あの」」

「「あっ、どうぞ先に」」


また二人で笑ってしまった。


「では、僕から先に。誘ったのは僕なので。何者か位は、説明します。

 僕は、あの町で生まれました。幼稚園、小学校、中学校は、地元です。高校は、池尻大橋にある学校に通いました。大学は、公立の大学で情報システムデザイン工学を専攻しました。

 今は、IT企業に勤めています。昨年の四月に入社した、まだ社会人一年生です」


「そうですか。ご説明ありがとうございます。

 私は、深沢で生まれて、幼稚園は地元で、小学校、中学、高校は近くの私立の女子一貫校に通っていました。大学に行きたかったのですが、高校三年生の時、父が病気で倒れて、大学を諦めるしかなかったのです。その後は、今の花屋、母の経営するお店で働いています。もう三年です」


「そうですか。話題が悪かったですね」

「いえ、そんな事無いです。私の運命なので、誰の性でもありません」


「・・・」


「・・・」


「どうして、声を掛けてくれたのですか」

思い切って聞いてみた。


「えっと、初めて花を買いに行った時、何か心にストンと収まるようなそんな気持ちがあなた、いえ柳瀬さんから伝わったんです。抽象的かもしれませんが、その後は、ずっとあなたの事が、頭の中に有って、それで毎週、会いたくて、花を買いに行って・・

 済みません。軽蔑しますよね」


「広瀬さん。それって、私に・・一目ぼれってことですか」


顔が赤くなっていくのが分かった。二人とも。

彼女が、頭を横に振っている。


「ありがとうございます。とても嬉しいです。正直に言って頂けて。私も初めて見た時から、優しそうな方だなと思いました。それで・・隣に入れたらなと思ったりもして・・」


いきなり手を掴まれた。えっと思ったけど


「柳瀬さん、まだ頭の中が整理できてないけど、これからも会って頂けますか」

「喜んで」


ふふっ、嬉しいな。なんか、プロポーズでもされた気分。


その後、僕たちは、昼食を取って、映画を見て、また散歩して、お茶を飲んで帰った。

色々な事を話した。手も繋いでしまった。




――――

大樹君と桂さん、素敵な二人になりそう。


でも、でもですよ。三橋絵里奈さんと緑川恵子さんとまだ何も・・。



面白そうとか次も読みたいなと思いましたらぜひ★★★頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。


お願いします。

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