第11話 幼馴染の不安事


絵里奈さん、体を張った作戦に成功し、大樹の初めては守ったけど・・


―――――


駅に向かっている。腕に絡みつくようにしながら僕の隣を絵里奈が歩いている。


「まだ痛いの」

「う、うん。もう少しこうさせて。駅に着く頃には、一人で何とかなりそうだから」


僕の左腕に絵里奈の胸が思い切り押し寄せてくる。ワザとじゃないだろな。


ふふっ、嬉しいな。大樹の腕にしがみつきながら歩くなんて。もう少し、痛い振りしよ。


地下鉄の入り口だ。離れて貰うか。恥ずかしいし。

「絵里奈、腕を放して。もう大丈夫だろ」


じっと僕の顔を見て

「じゃあ、手だけでも。まだ、一人で立っている自身無い。それに階段」

「でも・・」

「大樹、前に私に言ってくれた。絵里奈にNoと言う言葉は無いよって。何でも聞いてあげるって」


大分誇張されているような。そんな可愛い顔で見つめるな。


「分かった。じゃあ、手だけ」


腕を解いて手だけと思ったら、いきなり指と指の間に自分の指を入れてきた。

これって、恋人繋ぎ・・。


「えへへ、いいよね。大樹」

「・・・いいよ」


駅を降りて、お互いの家まで、五分と少し。

「大樹、聞きたいことがある」

「うん?」

「さっきの女の人、誰。どこに行こうとしていたの」


「・・・会社の同僚。・・・」


「言えないんだ。大樹が行こうとしてた所って・・。私よりあの女性を選ぶの」

「えっ、選ぶとかって・・」

「なんで」

涙声になっていた。


誤解だ。でも入ろうとしていたのは事実。なんと言えば良いんだろ。でも、選ぶって何。


絵里奈が、手を解いて、一人で、速足で、歩き始めた。


足、挫いたんじゃないのかよ。何なんだ。・・まさか。


走って絵里奈に追いつこうとしたら、絵里奈が走り始めた。でも向こうは、ヒール。

簡単に追いついた。


「絵里奈」

腕を掴んで足を止めると

「ばーか、ばーか、大樹のばーか」

いきなり胸を叩き始めてたと思ったら、そのまま家に入ってしまった。


何なんだよ。訳分からない。道路の反対側の自分の家に戻った。



§

どうすればいいんだろう。大樹にあそこに入る程の関係の女性をいるなんて・・。

そんな素振りなかったのに。油断したかな~。

 でも私、出来るの同じこと・・。


考えが浮かばない。


もう寝よう。明日は、土曜日。明日きちんと聞こう。



§

カーテンの隙間から入る光に少し目を開けた。

朝か。


ぼうーっと昨日の夜の事が思い出された。


緑川さん、あの後、大丈夫だったかな。月曜日顔合わせられないな。そう言えば、携帯番号も知らなかったな。やっぱり、しなくて正解だったかも。


でもどうしてあそこまで、積極的なんだろう。事情は聞いたけど、あそこまで急ぐ必要は、無いのに。


絵里奈の奴、なんであそこにいたんだろう。それにあんな下手な演技して。僕が、気が付かなかったらどうするつもりだったんだ。

考えるの面倒。


また、意識が睡魔との戦いに敗れた。



「うーん」

今度は、だいぶ頭がスッキリしている。そろそろ起きるか。


ヘッドレストに腕を伸ばして、目覚ましを取る。十時少し過ぎたところだ。

起きるか。


例によってパジャマ姿で階段を下りた。珍しく、麗香がリビングに居た。新聞を読んでいるようだ。


「麗香、おはよう」


「あっ、お兄ちゃん、おはよう。朝ごはん出来ているよ。食べる時言って。お味噌汁温めるから」


麗香ありがとう。わが妹ながら感心。心の中で、麗香に手を合わせて。


朝食を終え、リビングで新聞を読んでいると、スマホが、ピンポンと音を鳴らせた。

誰、休日の朝に。


スクリーンを除くと絵里奈と表示されている。開くと

『大樹、今日三時に行くから、居てね』


例によって、一方的な連絡だ。まあ、いつもの事。特に用事無いし。

『いいよ』

既読が付いたので、スクリーンをオフにすると、自分の部屋に戻った。



§

今日も居る。話しかけてみるか。


「すみませーん」

「あっ、いつもありがとうございます。今日は、どのような花をお探しですか」

素敵な笑顔だな。ジーンズに白いブラウスを着てエプロンをしている。正面からは、あまり分からないけど、胸がしっかりと強調されている。


「えっと、今日は、花を買いに来たのではなくて・・」


彼女の頭にクエスチョンマークが、いっぱい付いている。


「その、あの、お話ししたくて。・・・いつか時間取れませんか」


何故か、彼女の目がパッと見開いて、目を見つめられた。

「はい、いつでも」


「えっ、いいんですか。では、明日では」

「明日ですか。ちょっと待って下さい」


お店の奥で、年配の女性と話をしている。お母さんかな。似ているし。あっ来た。


「大丈夫です。何時にどこに行けば良いですか」

「では、明日の十時に、駅の改札で良いですか」

「はい」

目が輝いている。


「アッと。お花買います」


彼がお花を持って帰って行った。ふふっ、デートの約束って言っていいのかな。彼から誘ってくれるなんて。

「良かったじゃない。優しそうな青年だし」

「うん」

明日十時、今日寝れるかな。



§

「また、お花買って来たの。先週のお花、まだあるよ。先々週のお花もあるし。花屋でも始める気なの」

「花がいっぱいあると気分も明るいだろう。麗香の為に買って来たんだよ」

「本当。嘘でしょう。まあ、嘘でも嬉しいよ。そう言って貰えると」


ごめん、麗香。心の中で、手を合わせて。


「あっ、そうだ。絵里奈が、三時に来るって。麗香は、勉強だよね」

「うん」


僕は、遅い朝食だったが、麗香の片づけを考えると昼食は一緒に取った。もう麗香は、自分の部屋で勉強している。

僕の時は、あんなに勉強してない。やっぱり建築は難しいのかな。



ピンポーン。

絵里奈が来た。

玄関に行ってドアを開けると、いきなり

「大樹、聞きたいことがある。中に入っていい」


いつもなら、勝手に上がるのに。


リビングでガラスのテーブルを挟んで、向かいに絵里奈が座っている。

来てから五分位経つが、何も話してこない。ただ、僕の顔をじっと見ている。


人間見つめられると、理由がない限り見返せない。少し、絵里奈の斜めを見ていると、


「大樹、昨日のあの人、誰」


何蒸し返しいるの。何をしに来たのかと思えば。良いじゃないか。そんな事。

何故か、腹立たしかった。


「言ったじゃないか。会社の同僚だって」

「なんで、あんな所に居たの。お互い、子供じゃないから、あそこがどういう場所か、分かっている。・・いつから、関係を持つ様になったの」


何を聞いているんだ。なんで絵里奈に聞かれないといけない。決めつけ気味な言い方に完全にカチンときた。


「絵里奈には、関係ないだろ」

「関係あるわよ」

「どうして」

「どうしてって。私たち幼馴染よね。生まれた時から、一緒に居たよね。お風呂も一緒に入ったよね。一緒にベッドで寝たよね。幼稚園だって、小学校だって、中学校だって、高校だって、一緒だったよね。だから・・」


「もう、小さい時の話じゃないか」


何を言いたいんだ。


「だから・・、知る必要があるでしょ」

「言っている意味が分からない」


「僕が緑川さんと何をどうしようが、絵里奈に関係有るのかよ」

「緑川さんって言うんだ」


「・・・・」


「大樹。もうしたの。彼女と・・」


きついけど寂しそうな目で見つめて来た。初めてだったし。何もしてないし。でもなんでそんなこと聞くんだ。なんでそんな事聞かれないといけない。


「絵里奈。僕が誰を好きになろうが、僕の勝手だ。好きな人と関係を持って、何がいけない。子供じゃないんだ。僕が、彼女と何回しようが、絵里奈には、関係ない事だろう」


「えっ、好き。何回も」

絵里奈の目から、涙出そうになっている。

「あっ、いや」


気が付けば、絵里奈は、もういなかった。ドアが閉まる音がした。



§

好き。何回も・・。


遅かった。何もかもが遅かった。こんなはずじゃなかった。ゆっくりと一緒に歩いて行けば、いずれは、一緒になれると思っていた・・。私の初めても大樹と・・。


まさか、会社に彼女が出来るなんて・・。もう、関係も持っているなんて・・。




――――


大樹と絵里奈の間に思い切り深い誤解が・・。


面白そうとか次も読みたいなと思いましたらぜひ★★★頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘もお待ちしております。


お願いします。

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