第10話 同僚の誘い


緑川さん、大樹へ猛攻??


―――――

 十八時を過ぎたか。今日は、あまり仕事に忙しくなかったな。そろそろ帰るか。麗香も喜ぶ。PCをシャットダウンして、机の上の資料をテーブルの袖机に片付か始めた時、


「ねえ、広瀬君」

声の方向に振り向くと緑川さんが、立っていた。僕と視線が合うと


「今日この後、空いていない。一緒に帰りたいのだけど」

「・・・・」


「あっ、無理にとは言わないから」

下を向いて、残念そうな顔をしている。


 どうしようかな。この前の事もあるし、でも・・何となく周りも見ている。冷たくするのはちょっとまずいか。

「あっ、ちょっと待って」


スマホを取り出して

『今日、食事要らないかもしれない』

『どっちなの』

『じゃあ、用意しなくていいよ』

『わかった』

その後、怒りのキャラが送られてきた。


ごめん、麗香。


「緑川さん。大丈夫です」

「ありがとうございます」

急に顔を上げて、パッと明るくなった。



 今日も渋谷に来ている。

「嬉しいな。こうして広瀬君と一緒に居れて。この前、一緒に食事した時、私の事、話したでしょ。広瀬君の事知りたい」


 うーん、どうしよう。まだ、緑川さんにあまり思いがある訳ではないし。でも簡単な説明ならいいか。


「今は、妹と二人暮らし。両親は、去年の四月からニューヨークに赴任している。三年位は帰国しない。休暇は別だけど」

「そうなんだ。大変だね。家事とかはどうしているの」

「家事全般は、妹にやってもらっている。僕は出来ないから」

「妹さんがいるんだ」

「うん、今年高校三年。受験生」

「そうか、もし、良かったら、土日だけでも手伝いに行けるけど・・」

「ちょっと、それは・・」


 さすがに驚いた。会社の同僚がいきなり家に着たりしたら、思い切り誤解されてしまう。


「まあ、無理だよね。ごめん・・。少しでも広瀬君の側に入れればと思って」

「・・・」


 この前、確かに緑川さんの気持ちは聞いたけど、ちょっと急すぎる・・


 飲み始めてもう一時間半。八時半位だ。緑川さん、結構飲んでいるな。大丈夫かな。


 少し、考えたような顔をして


「こんなこと言うと、嫌われるかもしれないけど。少し前に表弾道の改札で綺麗な女性の人と待ち合わせしていたでしょう。あの人、誰」


 あーっ、絵里奈と食事した時か。なんで知っているんだろ。

「それは、幼馴染。家が近くに有って、幼稚園からずっと一緒。用事があるからって誘われただけ」


 幼馴染。テンプレじゃん。それもあんなに綺麗で、スタイルも抜群。不味い・・。


「あっ、そうなんだ。綺麗な人だったよね」


 彼は、私の顔をじーっと見ると

「なんで知っているの」

「あっ、広瀬君と帰宅経路同じでしょ。表参道で乗り換えようとした時、たまたま、見かけたんだ」


 追いかけたなんて絶対に言えない。


 ジト目で、僕を見て来ている。なんだろ。

言葉を出さずに待っていると、


「広瀬君、私、広瀬君の事、もっと知りたい。・・私の事、広瀬君にもっと知ってほしい」


 僕の目を離さない。

誘われているのかな。でも・・。もし、してしまったら・・。


「広瀬君。出ようか」


 外に出て少し歩くと、手を握って来て

「広瀬君。いいのよ。・・あまり重く考えなくていい。私、広瀬君の腕の中に居たい。少しでもいいから」


 足が、止まってしまった。隣にいる緑川さんを見ると、下を向いたまま、強く手を握ってきた。


 どうすればいいんだ。強く断ればいいのか。それとも体を合わせるのか。初めてなんだよな。経験ないし。どうすれば・・


「緑川さん、僕、恥ずかしいけど経験ないんだ。どうすればいいのか分からない」


これで断られたら、明日から会社行けない。なんとかしないと


ゆっくりと顔を上げて

「じゃあ、二人で・・」


少し、涙目になりながら訴えている。断れないかな。


仕方なく、そっちの方向へ足を向けた。


 もう少し。もう少しだから。そうすれば、広瀬君、振り向いてくれる。もう目の前。あそこに入れば。

ずるいかもしれない。でも、これでいいんだ。これで。



§

 今日は、遅かったな。まあ、たまには仕方ないか。もう九時過ぎじゃない。まったく。あの人達、見え見えだよね。下心。鏡見ろって言いたい。


 あれ、大樹。誰、隣にいる人。何か、雰囲気重そう。後を付けてみよ。時間早いし。


えっ、えっー、あっちの方向って。まさか、でも、大樹経験ないはずだし。初めては、絶対私なんだから。


やばい、やばい、このままじゃ・・。仕方ない。


「あっ、痛―い。足くじいちゃった。痛―い」

恥ずかしいくらいの声で、怒鳴った。聞こえるはず。


周りの人がじろじろ見ているけど仕方ない。大樹気づいて。



§

 二人で手を繋ぎながら、そっちの方へ歩いて行く。この先は、シティホテルが、いっぱいある。

「どこにします」

「広瀬君決めて下さい」

「分かった」


痛―い。


 えっ、聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。振り向くと、思い切り見覚えのある人が、道路に倒れて、周りに男が、寄っていた。


 大樹はやく来て、変な奴らいっぱい。


「緑川さん、ごめん。ちょっと」

手をほどいて、向かった。


 なに。どうしたの。もうすぐだったのに。広瀬君の走って行った方を見ると

えっ、なんで。なんで、あの人がいるの。


「どうしたんだ。こんな所で」


 良かった。やっと来てくれた。

「大樹。足挫いたみたい。助けて」

「何しているんだ」


「なんだ、連れがいるのか」

「ちぇ」

周りに集まった数人の男たちが離れていく。視線が痛い。


 わざと涙目っぽくしながら

「大樹、抱えて」

「何言っているんだ。救急車呼ぶか」

「いっ、いい。要らない。大樹がいればいい」


 緑川さんが、近づいて来た。

「広瀬君。また今度ね」

それだけ言うと、踵を返して、駅の方に速足で歩いて行った。


 ばか、あんな人、気にしなくて、一緒に入ってしまえば良かったのに。なぜか、自然と涙がこぼれた。


作戦成功。

「大樹、ちょっと立ってみるから、手かして」


 立ち上がった様子を見て、どうしても痛くなさそう。


「なあ、絵里奈。本当に足挫いたの」

「ほんと、ほんとだよ、あっ、痛い。大樹肩かして」


はぁ、見え見えだよ。絵里奈。もう。


――――

絵里奈の体を張った阻止作戦。すごっ・・。


面白そうとか次も読みたいなと思いましたらぜひ★★★頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘もお待ちしております。


お願いします。


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